このアルバムの3つのポイント
- クリスティアン・ティーレマンとウィーンフィルによるブルックナー・チクルスの第1弾
- ハース版を使った大スケールの交響曲第8番
- 雄大で慈愛に満ちた演奏
クリスティアン・ティーレマンとウィーンフィルのブルックナー・チクルス
1つ前の記事でも書きましたが、ドイツを代表する指揮者、クリスティアン・ティーレマンはシュターツカペレ・ドレスデンを指揮して2012年から2019年にブルックナーの交響曲全集(第1番〜第9番)を映像作品で完成させています。それに飽き足らず、2019年10月から今度はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とブルックナーの交響曲全集を開始しました。2024年のブルックナーの生誕200周年のアニバーサリーに向けた企画で、現時点で交響曲第8番(2019年10月)、交響曲第3番「ヴァーグナー」(2020年11月)の2枚のアルバムがリリースされています。
ウィーンフィルと言えばブルックナーの演奏・録音も数多く、交響曲第8番も様々な名指揮者と録音しています。ゲオルグ・ショルティ(1966年11月-12月) 、カール・ベーム(1976年2月)、カルロ・マリア・ジュリーニ(1984年5月)、ヘルベルト・フォン・カラヤン(1988年11月)、ベルナルト・ハイティンク(1995年1月)などなどがあります。ウィーンフィルが演奏するだけで名演になってしまうこの交響曲第8番ですが、ティーレマンは敢えて全集の第1弾にこの名曲を選びました。
来日公演でも演奏した交響曲第8番
この録音は、2019年10月のウィーン・ムジークフェライン・ザールでの第2回予約演奏会でのライヴで、レコードショップの説明によると、その翌月の日本公演でも11月7日名古屋、11日東京で演奏され、『日本の聴衆を圧倒的な感動に巻き込んだ記念碑的な演奏会』と書かれています。
奇しくも2019年の9月にアンドリス・ネルソンスもライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団を指揮してブルックナーの交響曲第8番をライヴ録音しています。こちらは第2槁ノーヴァク版での演奏で、今回のティーレマンとウィーンフィルは第2稿ハース版を使用しています。現代の人気指揮者のハイレベルな激突ですね。交響曲第8番は両方聴きましたが、私はネルソンス/ゲヴァントハウス管の斬新な演奏よりはこちらのティーレマン/ウィーンフィルの雄大な演奏のほうが好みでした。
じっくりと、聞き手に集中力を要求する演奏
このティーレマンとウィーンフィルの演奏は、聞き手に集中力を要求するでしょう。演奏時間は第1楽章が15:42、第2楽章が15:35、第3楽章が26:26、第4楽章が23:45でトータルが82分弱。ノーヴァク版ではブルックナーの意図による改訂ではないと見なされた部分はカットされましたが、ハース版では残っているので、演奏時間は長くなりがちです。それだけではなく、ティーレマンはじっくりとしたテンポで雄大に描いていますので、演奏がより長大に感じます。ただ、ウィーンフィルの響きは最初から最後まで滑らかで、非常に素晴らしいです。
第1楽章の中盤15:40秒くらいでは荒れ狂う野人のような迫力もあり、第2楽章では軋むような弦で熱さも感じさせますが、こういう激しい曲想でもティーレマンのさじ加減は絶妙で、滑らかに聴こえます。この曲は特にパワフルなオーケストラが演奏すると金管がキンキン鳴ってうるさいと感じるほどですが、この演奏では全くそういうことがありません。
第3楽章はウィーンフィルならではの豊穣さと美しさが絶妙。第4楽章は「nicht schnell (速くなく)」という指示がありますが、ティーレマン、今までの楽章以上にテンポを速くしていますね。雄大でずっしりと各駅停車で進んできたのですが、ここで突然快速電車になったような気分です。これぐらいがちょうど良い気もしますが。クライマックスではまたテンポがぐっと落ちて巨大な伽藍堂のような世界が描かれていきます。ティーレマンの重厚さがここで光りますね。これはすごい。最後のソー、ミ、レ♭、ドもリテヌート(ただちに速度を緩めて)、の指示通りに急にゆっくりになり、幕を下ろします。
まとめ
第2槁ハース版を使った演奏で、じっくりとしたテンポで雄大に描かれるブルックナー。ウィーンフィルの滑らかな響きも素晴らしいです。最近の演奏では素晴らしい出来ですが、長丁場で高い集中力を求められるので、最後まで聴くとどっと疲れが来ます。
オススメ度
指揮:クリスティアン・ティーレマン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2019年10月5日, 13日, ウィーン楽友協会大ホール(ライヴ)
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試聴
Sony Music Shopで試聴可能。
受賞
特に無し。
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