このアルバムの3つのポイント
- ショルティとシカゴ響のヨーロッパ・ツアーでの録音
- みなぎるエネルギーと高音質
- 米国グラミー賞で二冠を獲得
初めてヨーロッパ・コンサートに出たシカゴ交響楽団
米国の名門オーケストラ、シカゴ交響楽団の音楽監督にゲオルグ・ショルティが就任したのは1969年のこと。首席客演指揮者にカルロ・マリア・ジュリーニも就任し、まさに第二の黄金期を迎えることとなりました。
ショルティが着任してから最初のほうのシカゴ響の録音は名演揃いですが、特にショルティとの初録音となった1970年のマーラーの交響曲第5番、その翌週に録音された交響曲第6番「悲劇的」、さらには交響曲第7番「夜の歌」(FC2ブログ記事)、そして今回紹介する第8番「千人の交響曲」、交響曲「大地の歌」(FC2ブログ記事)とマーラーで圧倒的な演奏を録音した他、ベートーヴェンの1回目の交響曲全集や、ヴラディーミル・アシュケナージとのピアノ協奏曲全集もあります。本当にすごい時代だったと思います。
シカゴ響はショルティとジュリーニとともに、1971年夏に初のヨーロッパ演奏旅行に出掛けました。シカゴ響のアーカイブ(CSO Archives)の記事に、このヨーロッパ・ツアーのエピソードが紹介されていますが、9カ国(オーストリア、ベルギー、英国、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、スコットランド、スウェーデン)の15会場で25回の演奏会をおこなったそうです。
レパートリーもベートーヴェン、ブラームス、マーラー、ハイドン、モーツァルト、チャイコフスキーの交響曲と、モーツァルトとプロコフィエフのピアノ協奏曲(ピアノ独奏はヴラディーミル・アシュケナージとラファエル・オロスコ)、さらにバルトーク、ベルリオーズ、カーター、ラヴェル、ストラヴィンスキーの管弦楽作品も演奏したとのことなので、かなり幅広いレパートリーとなったようですね。
Georg Solti, beginning his third season as eighth music director, and Carlo Maria Giulini, the first principal guest conductor, would join the Orchestra on the road for nearly six weeks for a tour that included twenty-five concerts in fifteen venues in nine countries: Austria, Belgium, England, Finland, France, Germany, Italy, Scotland, and Sweden. The repertoire varied from symphonies by Beethoven, Brahms, Mahler, Haydn, Mozart, and Tchaikovsky; to piano concertos by Mozart and Prokofiev, featuring Vladimir Ashkenazy and Rafael Orozco; and orchestral works by Bartók, Berlioz, Carter, Ravel, and Stravinsky. No other international tour since has included more concerts or a wider variety of programming.
CSO Archives, The CSO’s 1971 Tour to Europe: A 50th Anniversary
その合間にショルティとシカゴ響はマーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」を録音しています。デッカ・レーベルが録音用に所有していたウィーンのゾフィエンザールでの録音で、ショルティも1958年のウィーンフィルとの「ラインの黄金」でも使っていましたし、音質に定評のあったデッカのエンジニアたちも慣れたレコーディング会場なので、この録音も素晴らしい音質です。
米国グラミー賞で二冠
今回紹介する「千人の交響曲」のアルバムは、1972年の米国グラミー賞で「ベスト・クラシカル・アルバム」と「ベスト・合唱パフォーマンス」の二冠を受賞し、さらにショルティとシカゴ響はマーラーの交響曲第7番でも「ベスト・オーケストラ」を獲っていますので、飛ぶ鳥を落とす勢いでした。
英国グラモフォン誌は「指揮者ベスト10」とか、「ショパン弾きのベスト10」とか、とにかくランク付けが好きなジャーナルですが、50 Great Conductorsの記事に50人の指揮者の中にショルティも紹介されていて、オススメ盤はこのマーラーの交響曲第8番となっています。
グラモフォン誌は毎年グラモフォン賞を発表していますが、音楽ファンからの人気よりも専門家のコアな意見が強く反映されるのでだいぶ偏りがあるなと思って私は話半分に見ていますが、過去のグラモフォン賞でもショルティが受賞したのは1992年のR.シュトラウスの歌劇「影のない女」と、これまでの生涯の活動を通じたLifetime Achievementの2つのみ。グラモフォン誌の専門家はショルティが好みじゃなかったのが伺えますし、先程の記事でも「Sir Georg Solti was one of the most respected and (中略) influential conductors of the 20th century.」とリスペクトを書いていながらもショルティが登場するのは記事のだいぶ後ろの方です。ただ、そのグラモフォン誌がこの第8番をショルティのベストとして紹介しているのが興味深いです。
みなぎるエネルギーと鳥肌が立つ歌の力
この演奏を聴くと今でも鳥肌が立つのですが、シカゴ響のみなぎるエネルギーも見事ですが、豪華な歌手陣や合唱たちの歌声が明瞭に聴こえて、実に力強いのです。デッカ・レーベルならではのレコーディング技術、さらには録音場所が音質の良さで定評のあったゾフィエンザールというのも良かったのでしょう。今聴いても圧倒されます。
まとめ
ショルティとシカゴ響がヨーロッパ演奏旅行の合間に録音した「千人の交響曲」。今聴いても鳥肌が立つほどの凄さを感じる名演です。
オススメ度
ソプラノ : ヘザー・ハーパー
ソプラノ: ルチア・ポップ
ソプラノ:アーリーン・オジェー
アルト : イヴォンヌ・ミントン
アルト:ヘレン・ワッツ
テノール:ルネ・コロ
バリトン:ジョン・シャーリー=カーク
バス:マルッティ・タルヴェラ
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン楽友協会合唱団
ウィーン少年合唱団
録音:1971年8ー9月, ゾフィエンザール
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
米国グラミー賞の1972年の「BEST CLASSICAL ALBUM」と「BEST CHORAL PERFORMANCE, CLASSICAL (OTHER THAN OPERA)」の二冠を受賞。
コメント数:1
この曲、この演奏、大好きです。パワーとテンションが半端なく、そして痛快です。第二部の終盤近くで、栄光の聖母が天上から “Komm! Komm!” と呼びかけてきますが、ここに来ると、もうパブロフの犬のように、涙が出てしまいます。