このアルバムの3つのポイント

ショスタコーヴィチ交響曲全集 マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団他(1988-2005年)
ショスタコーヴィチ交響曲全集 マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団他(1988-2005年)
  • マリス・ヤンソンス、ウィーンフィルとの初録音!
  • ヤンソンス得意のショスタコーヴィチ
  • 魂揺さぶる激しさ

名指揮者マリス・ヤンソンスは広いレパートリーを持っていましたが、私の中ではドミトリ・ショスタコーヴィチリヒャルト・シュトラウスグスタフ・マーラーの作品は特に得意としていたと考えています。特にショスタコーヴィチは1988年から2005年に交響曲全集の録音もおこなっていますし、その後もライヴによる再録音も何種類かあります。

柔らかくて熟成された音楽作りが特徴のヤンソンスですが、ショスタコーヴィチを指揮すると人が変わったかのように、厳しい表情を見せます。レニングラード・フィルハーモニー交響楽団(現サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団)の副指揮者を務めたときにエフゲニー・ムラヴィンスキーのアシスタントとしてショスタコーヴィチのエスプリを吸収したのかもしれません。ムラヴィンスキーはショスタコーヴィチの作品の初演もおこなっていますし、作曲家自身とのエピソードも聞いていたのでしょう。

ヤンソンスのショスタコーヴィチはまだまだこのサイトで紹介しきれていなくて、こちらの記事で1988年4月のサンクトペテルブルクフィルとの第7番「レニングラード」の録音を、そして同曲のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団との2006年の再録音はこちらの記事に書いている程度です。

私がヤンソンスのレコーディングを初めて聴いたのは、このショスタコーヴィチの交響曲全集。2009年にリリースされたEMIのオランダ盤を買ったのですが、CD10枚で確か2千円ほどの低価格だったのが理由でした。

フィラデルフィア管弦楽団 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団バイエルン放送交響楽団 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 オスロ・フィルハーモニー管弦楽団 サンクト・ペテルブルクフィルを振り分けたもので、これだけオーケストラが違うと個性が様々で、よく聴かずに閉まったままにしていたのですが、昨今のウクライナ情勢を巡ってショスタコーヴィチを聴きたくなって、久しぶりにヤンソンスとウィーンフィルの交響曲第5番のレコーディングを聴きました。

この交響曲第5番は1997年1月のライヴ録音で、ヤンソンスにとってウィーンフィルとの初録音となったものでした。ヤンソンスと言えば遅咲きの指揮者という印象があり、1979年からオスロフィルの首席指揮者を務めて2000年で退任するまでの間に、この楽団のレベルを格段に上げましたが、メジャーどころのオーケストラに客演するようになったのは1990年代後半から。ウィーンフィルとはニューイヤー・コンサートにも3回出演していますし、2012年のザルツブルク音楽祭でも熱演をおこないました。ヤンソンスは2018年にウィーンフィルから名誉団員の称号を授与されていて(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団からも同年に授与)、良好な関係を築きました。

そのヤンソンスのウィーンフィルとの初録音がこのショスタコーヴィチの交響曲第5番。ヤンソンスは1943年1月14日生まれなので、このレコーディングの最終日に54歳になっています。54歳でウィーンフィルとの初録音とは遅咲きですよね。

第1楽章冒頭から「これがウィーンフィル?」と思うほどに硬い音色で低弦と高弦で不気味さを漂わせます。そして第1主題のもう1つの主題がヴァイオリンで高らかに奏でられますが、安らぎはなく、どこか張り詰めています。ピアノが加わる展開部では少しゆったりとしたテンポになり、音質が若干悪いですがホルンが副主題を力強く奏でます。そしてテンポがぐんぐん上がっていき緊張感が最大限になったところでヴァイオリンのきしむような音色とトランペットの軍隊のようなリズムが掛け合わさり、最高潮に。スネアドラムが存在感を見せています。再現部では壮大なスケールで堂々としています。

第2楽章は低弦をグイグイと鳴らして始まりますが、スケルツォらしくシリアスでもあり軽妙でもある何とも曖昧模糊とした不思議な感じになります。第3楽章の悲痛な悲しさは胸が痛みます。

第4楽章もウィーンフィルにしては勢いがあり、ヤンソンスと初録音と思えないほど息もぴったりです。晩年のしっとりとした音楽作りとは違って感情がストレートに出ている感じがして、魂が揺さぶられる演奏です。

1997年のデジタル録音にしては音質がゆらぐところがあるのでオススメ度は1つ減らしますが、この録音、私は好きです。

マリス・ヤンソンスがウィーンフィルと初録音となったショスタコーヴィチの交響曲第5番。ヤンソンスのシリアスなショスタコーヴィチが表現されています。

オススメ度

評価 :4/5。

指揮:マリス・ヤンソンス
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1997年1月7-14日, ウィーン楽友協会・大ホール(ライヴ)

iTunesで試聴可能。

特に無し。

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コメント数:1

  1. 美しく、曲の良さを素直に味わえる名演だと思いました。この曲は、高校の時に吹奏楽編曲で最終楽章を演奏、大学の時にオケで演奏したことのある思い出深い曲です。当時はお金もなく、サブスクなどもなかったので、いろんな演奏を聴き比べてはいませんでした。中学~高校時代にカセットで何度も聴いていたのは、キリル・コンドラシン × モスクワフィルで、大学時代にCDで購入したのは、バーンスタイン × ニューヨークフィルでした。今思えばどちらも個性の強い演奏だったと思います。ヤンソンス × ウィーンフィルの、この演奏は雑味の少ないすっきりした、日本酒でいえば大吟醸?のように感じました。

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