ヴラディーミル・アシュケナージによるベートーヴェン ピアノ協奏曲全集 タイル画像
ヴラディーミル・アシュケナージによるベートーヴェン ピアノ協奏曲全集 タイル画像

旧ソ連出身のピアニストで指揮者も兼務しているヴラディーミル・アシュケナージ。現代を代表するピアニストとして知られていますが、2020年1月に演奏活動からの引退を表明し、オーケストラのコンサートやピアノ・リサイタルでその姿を見られるのはもう叶わないこととなりました。

レコーディングも過去の再発売ばかりですが、久しぶりのニューリリースが2021年10月に出ます。2019年4月に録音したバッハのイギリス組曲で、4年ぶりの新譜となります。

そんなアシュケナージは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲をピアニストとして3回レコーディングし、1回映像作品としてフィルム収録しています。

アシュケナージのベートーヴェンのピアノ協奏曲、どれがオススメなのでしょうか。順番に紹介していきたいと思います。

ベートーヴェン ピアノ協奏曲全集 ヴラディーミル・アシュケナージ/サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団(1972年)
ベートーヴェン ピアノ協奏曲全集 ヴラディーミル・アシュケナージ/サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団(1972年)

ピアニストのアシュケナージにとって1回目の録音は、サー・ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ交響楽団とのもの。1972年のイリノイ州のクラナート・センターでの録音で、CDによっては1971〜1972年の録音と書かれているものもあります。

既にこちらの記事で紹介しましたが、このアルバムは米国グラミー賞と日本のレコード・アカデミー賞をW受賞した名盤。

当時黄金期を迎えていたショルティ&シカゴ響のコンビによるオーケストラは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲でも単なる伴奏に留まらず、マッシブな演奏をおこなっています。それに対してアシュケナージのピアノもシャープな切れ味で、スーパーオーケストラに対峙するかのように堂々たる演奏。

私もですが、ショルティ好きの「ショルティアン」にとっては、この1回目の全集をオススメしたくなるでしょう。ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 Op.73「皇帝」の壮大なスペクタクルは聴き応えありますし、私が一番好きなのはピアノ協奏曲第3番 ハ短調 Op.37。オペラの表現力を管弦楽作品に持ち込んだショルティならでは演奏で、劇的な効果を生み出しています。

そして、2007年のアシュケナージ70歳のアニバーサリーでリリースされたDVDが、ベルナルト・ハイティンク&ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団とのロイヤル・フェスティヴァルホールでの演奏。このベートーヴェンのピアノ協奏曲全集は1974年にBBCが放送用に収録したもので、現在では廃盤になって入手困難になっています。

私も聴いたことが無いので、聴いてみたいのですが、アシュケナージは盟友ハイティンクとはブラームスのピアノ協奏曲やラフマニノフのピアノ協奏曲でも共演・録音していて、かなりオーソドックスな演奏でしたので、こちらも正統派の演奏なのではと予想しています。

ベートーヴェン ピアノ協奏曲全集 ヴラディーミル・アシュケナージ/ズービン・メータ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1983年)
ベートーヴェン ピアノ協奏曲全集 ヴラディーミル・アシュケナージ/ズービン・メータ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1983年)

指揮者としての活動も1975年頃から本格化したアシュケナージ。

1977年から1987年なで英国のフィルハーモニア管弦楽団を弾き振りしてのモーツァルトのピアノ協奏曲全集の録音を完成しましたし、1980年から1982年にはロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮してラフマニノフの交響曲全集を完成、そして1984年から1986年にはハイティンク指揮コンセルトヘボウ管とピアノ・ソリストとしてラフマニノフのピアノ協奏曲全集を完成し、まさに「二刀流」として活躍していました。

指揮の活動がピアノ演奏にも影響を与えていて、シャープな切れ味が特徴だった1960年代や70年代のアシュケナージのピアノは、より音色がカラフルになり、まろやかになっていきました。

このメータ指揮ウィーンフィルとのベートーヴェンのピアノ協奏曲全集はウィーンのゾフィエンザールでのセッション録音ですが、、アシュケナージのバランスの取れたピアノとメータのオーソドックスな解釈、そしてウィーンフィルの持つ伝統的な響きが合わさり、この協奏曲の最高峰の演奏になっています。

特に第4番 ト長調 Op.58の繊細さや、第5番 変ホ長調 Op.73 「皇帝」での豪華なサウンドは聴き応えがあります。

ベートーヴェン ピアノ協奏曲全集 ヴラディーミル・アシュケナージ/クリーヴランド管弦楽団(1986-1987年)
ベートーヴェン ピアノ協奏曲全集 ヴラディーミル・アシュケナージ/クリーヴランド管弦楽団(1986-1987年)

ウィーンフィルとの全集を完成させたたった3年後、アシュケナージは首席客演指揮者を務めていた米国のクリーヴランド管弦楽団を指揮して再びピアノ協奏曲全集を始めます。マソニック・オーディトリアムでのセッション録音で、今度は指揮もアシュケナージが務める「弾き振り」による演奏です。

指揮もアシュケナージがおこなうことにより、よりアシュケナージの解釈が細部まで宿っています。アンサンブルは室内楽のようにピアノとより密接になっています。

弾き振りなので、やはり初期の第1番 ハ長調 Op.15や第2番 変ロ長調 Op.19がより良く感じられてオススメです。

1度目がショルティ&シカゴ響と対峙した協奏曲、2度目がウィーンの響きによるオーソドックスなベートーヴェン、そして3度目では指揮とピアノが一体化することによる緻密なアンサンブルを生み出したヴラディーミル・アシュケナージによるベートーヴェンのピアノ協奏曲全集。

聴き比べるとそれぞれの違いが興味深いです。

  • メータ/ウィーンフィルとの全集は1985年度の日本レコード・アカデミー賞「協奏曲部門」及び大賞を受賞。
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