今日は2020年12月31日。大晦日ですね。今年はなんといってもコロナ禍。今までの常識や、日々の暮らしのベースになっていた安心が覆ってしまった1年になりました。クラシック音楽にとってはどのような1年だったのか、簡単に振り返ってみたいと思います。

コロナ禍でクラシック音楽界でも演奏会や音楽祭の中止や延期が相次ぎました。春のルツェルン音楽祭、夏の一代イベントのヴァーグナーの音楽祭であるバイロイト音楽祭などが中止になり、ベルリンフィルの5月のヨーロッパコンサートやウィーンフィルのシェーンブルン宮殿での野外コンサートも無観客での実施となりました。

ピアニストの登竜門、ショパン国際コンクールも今年は18回目を迎える予定でしたが、2021年10月へと延期になりました。

その中でも8月のザルツブルク音楽祭や11月のウィーンフィルの来日公演は厳戒態勢を敷いて実施となりました。ウィーンフィル来日公演のために、オーストリアのクルツ首相から日本の菅首相に対してウィーンフィル来日公演実施要請の親書が届き、用心に用心を重ねて実施確定したのはコンサート本番まで1週間を切っていました。特例での来日対応となり、通常は来日した後の14日間の自主待機期間も免除に。しかし、チャーター機での来日となり、福岡、大阪、東京での公演のための日本国内での移動は新幹線の車両を貸し切っていますし、滞在するホテルもフロアをまるまる押さえたそうです。さらに、関係者の演奏会場とホテル以外の立ち寄りは禁止で、買い物や外食、ファンとの接触も無し。追加費用で1億5千万円も掛かったそうですが、それだけ来日公演に対するウィーンフィルの想いを感じました。ヴァレリー・ゲルギエフ指揮、ピアノ独奏にデニス・マツーエフを迎えて、魂のこもったロシア作品の演奏を行っています。

日経新聞の記事でゲルギエフの発言が掲載されています。

強い意志と音楽を愛する心を持ち、この勇敢なアクションに臨んでいる。(コロナという)今年生じてしまった様々な問題よりも、音楽や芸術の力がいかに強いかということを私たちは示したい
ヴァレリー・ゲルギエフ, 2020来日時のインタビュー

日経新聞:コロナ下で異例の来日 ウィーン・フィルが示した気概(2020/11/21)

今年2020年は、作曲家ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770−1827年)の生誕250周年。世界各地で様々な企画が予定されていましたが、あいにくのコロナ禍で中止や延期となったものも多いです。レコーディングとしてはベートーヴェンの交響曲全集がニューリリースや再発売として続々と出ています。

ベートーヴェン交響曲全集 アンドリス・ネルソンス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2017-2019年)
ベートーヴェン交響曲全集 アンドリス・ネルソンス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2017-2019年)

ドイツ・グラモフォンレーベルがベートーヴェン生誕250周年に合わせてリリースした、交響曲全集。今乗りに乗っている指揮者、アンドリス・ネルソンスがウィーンフィルを指揮したライヴ録音。目の前でオーケストラが演奏しているかのような音質の素晴らしさで、これぞウィーンフィルの響き、という演奏が楽しめる。第3番「英雄」や第9番「合唱付き」ではドラマ性が薄い印象だが、特に第5番「運命」、第6番「田園」はオススメ。

ベートーヴェン交響曲全集 クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1985-1988年)
ベートーヴェン交響曲全集 クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1985-1988年)

タワーレコード企画盤として、2020年12月に再リリースされたのが、クラウディオ・アバドとウィーンフィルによるベートーヴェンの交響曲全集。1985年から1988年にかけての全集で、アバドが心身ともに充実していた時期の演奏です。ウィーンフィルの伝統的な響きに、アバドの情熱をスパイスした名演。

他にも、ピアノソナタ全集ではダニエル・バレンボイム、イリーナ・メジューエワなどの再録音もリリースされました。私自身はまだ聴いていないですが、コロナ禍で作品と向き合う時間が増えたからこそ深みのある演奏になっているようです。

2019年11月に逝去したマリス・ヤンソンス。2020年はヤンソンスを偲んだレコーディングのリリースが相次ぎました。ヤンソンス最後のコンサートとなった、カーネギー・ホールでの公演のライヴレコーディングや、バイエルン放送交響楽団とのソニークラシカルでの録音集や、そしてオスロフィル時代のCD BOXがリリースされています。

マリス・ヤンソンス グレート・レコーディングズ
マリス・ヤンソンス グレート・レコーディングズ

ソニークラシカルから2020年1月にリリースされたCD BOX。マリス・ヤンソンスの追悼記念としての発売となったもので、これまで彼がソニークラシカルに遺したレコーディングをBOXとして再リリースしたものである。気迫こもるシベリウス、官能のシェーンベルク、美しいヴァーグナー、意外なハイドンなど、多彩なライヴ演奏を収録しています。

マリス・ヤンソンス オスロ・フィルレコーディングズ
マリス・ヤンソンス オスロ・フィルレコーディングズ

ワーナークラシックから2020年10月にリリースされたのが、「マリス・ヤンソンス オスロ・フィル・レコーディングズ」。英語タイトルは「Mariss Jansons The Oslo Years」。ヤンソンスは1979年から2002年の長期に渡ってノルウェーのオスロ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務め、この楽団を世界最高水準に引き上げたと言われています。旧EMI(現ワーナー)でレコーディングされたCD21枚と、ノルウェー放送協会で放送されたコンサート映像が世界初公開としてDVD5枚でリリース。

マリス・ヤンソンス ラスト・コンサート
マリス・ヤンソンス ラスト・コンサート

2019年11月、マリス・ヤンソンスはバイエルン放送交響楽団と米国演奏ツアーに出掛けました。11月8日、ニューヨークのカーネギー・ホールでR.シュトラウスとブラームスの作品を指揮したヤンソンスは、体調不良によって翌日以降のコンサートをキャンセル。そして3週間後、ヤンソンスは逝去しました。ヤンソンスの最後となったカーネギー・ホールでの演奏は、本当に儚くて美しいです。最後のコンサートのライヴ録音がBR Klassikから2020年11月にリリース。文字通り、ヤンソンス最後の演奏、録音となりました。

2021年のクラシック音楽界は、リッカルド・ムーティ指揮のウィーンフィルのニューイヤーコンサートで始まりますが、新型コロナウイルスのワクチンが流通することでコロナ禍が落ち着き、演奏会や音楽祭が今までどおり開催できるようになれば良いのですが。先が見えない不安さも、音楽のおかげで和らぎましたし、来年も音楽の持つ力強さに期待したいです。

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