色褪せない名指揮者の名盤を
以前の記事で指揮者K.クライバー、カラヤン、バーンスタイン、ショルティ、ジュリーニ、ベームの名盤を紹介しましたが、今回はクラウディオ・アバド、セルジュ・チェリビダッケ、マリス・ヤンソンス、ベルナルト・ハイティンク、ジュゼッペ・シノーポリの名盤を紹介します。
それぞれの指揮者の特徴がわかる演奏を中心に選んでみました。
クラウディオ・アバド/マーラー交響曲第1番『巨人』 (1989年)

ベルリンフィルとの新たな門出
イタリア出身の指揮者クラウディオ・アバド (1933-2014年)。長年ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を率いたカラヤンが辞任・逝去し、その後の首席指揮者を誰にするか、オケの団員による投票で選ばれたのがアバドでした。1989年12月に就任し、終身だと思われたポジションを2002年に退任すると発言したときには衝撃が走りました。カラヤン時代の帝王がオケを正確にコントロールするというスタイルから、奏者それぞれが考える演奏方法への転換、現代曲も含めたレパートリーの拡大、指揮者から解放しオケは音楽を愛する仲間へ、などの改革をおこないました。
知性と情熱で魅了するアバドの名盤を選ぶとしたら、マウリツィオ・ポリーニ、シカゴ交響楽団とのバルトークのピアノ協奏曲第1番、第2番のディスクか、晩年のルツェルン祝祭管弦楽団とのマーラー交響曲第3番、ブルックナー第5番が私の推しですが、ここではアバドの特徴が分かるベルリンフィルとのマーラー交響曲第1番『巨人』のライヴ録音にしました。
首席指揮者就任コンサートで演奏された『巨人』は、ベルリンフィルとの新たな門出。カラヤンとはあまり演奏されなかったマーラー、そして希望に満ちた最初の交響曲である第1番、さらには伸び伸びと自発的に演奏するオケの団員。こちらはベルリンフィルのデジタル・コンサートホールに映像もありますし、アバドの首席指揮者での1年間をまとめたドキュメンタリーにもリハーサルの様子が収録されています。
セルジュ・チェリビダッケ/ブルックナー交響曲第8番 (1994年)

伝説のリスボン・ライヴでのブル8
ルーマニア出身の指揮者セルジュ・チェリビダッケ (1912-1996年)。若かりし頃はフルトヴェングラーの空白期間にベルリンフィルの暫定首席指揮者を務めたこともありますが、リハーサルに厳しくオケとも衝突することが多く、フルトヴェングラーが首席指揮者に戻ってきて急逝した後カラヤンがそのポストに就くとベルリンを離れました。
その後スウェーデン放送交響楽団やシュトゥットガルト放送交響楽団の首席指揮者を務めましたが、黄金時代を築いたのが1979年から1996年まで務めたミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団。カラヤン&ベルリンフィルのライバルとして熱狂的に迎えられたチェリビダッケ&ミュンヘンフィルのコンビでは、特にブルックナーの演奏が唯一無二です。
録音嫌いだったチェリビダッケ。演奏家、ホール、観客が一体になって作り上げる音楽を、マイクで録音したものを聴いても同じものにならない、ということを話しています。ただ、ミュンヘンフィルが自分たちの学習用に収録していたものが結構あり、チェリビダッケの死後にリリースされて後世の人も聴くことができるようになりました。
ブルックナーに関しては、極限まで遅いテンポ (チェリビダッケの言葉ではテンポではなくて「スピード」)でスコアの細部まで引き出した演奏です。中でも第8番はミュンヘンフィルと何度も演奏していますが、毎回成功したというわけではないのですが、1994年4月のポルトガル・リスボンでのライヴ録音は最高の演奏だと思います。
マリス・ヤンソンス/R.シュトラウス『ばらの騎士』組曲(2006年)

最も指揮した『ばらの騎士』
ラトビア出身の指揮者マリス・ヤンソンス (1943-2019年)。アバドやズービン・メータなどを輩出したウィーン国立音楽院のハンス・スワロフスキーに師事。父の指揮者アルヴィド・ヤンソンスと同じくレニングラード・フィルハーモニー交響楽団でエフゲニー・ムラヴィンスキーの副指揮者を務めました。1979年から2002年まで長く首席指揮者を務めたオスロ・フィルハーモニー管弦楽団でこのオケを世界一流の水準へと高めたことを評価され、指揮者としては遅咲きながら2000年代にバイエルン放送交響楽団とロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団という世界最高峰のオケの首席指揮者を兼任した頃からヤンソンスの全盛期がやってきます。
官能的な美と深い作品解釈を持ち味とするヤンソンス。得意としたショスタコーヴィチ、R.シュトラウス、マーラーならどれを聴いても素晴らしいですが、一つ選ぶとしたらR.シュトラウスの『ばらの騎士』組曲。ヤンソンスが最も指揮した作品で、短いバージョンを合わせるとバイエルン放送響とだけで実に40回もワルツを演奏しています。写真にあるアルバムは2006年10月のライヴ録音。耽美に浸れます。
ベルナルト・ハイティンク/ショスタコーヴィチ交響曲第4番 (2008年)

米グラミー賞を受賞したシカゴ響との怪演
オランダ出身の指揮者ベルナルト・ハイティンク (1929-2021年) はまさに世界的な指揮者。長く首席指揮者を務めたオランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団をはじめ、イギリスのロンドン・フィルハーモニー管弦楽団とロイヤル・オペラ・ハウス、ドイツのシュターツカペレ・ドレスデン、アメリカのシカゴ交響楽団など欧米の一流オケのポストを歴任。オーケストラビルダーでオケの水準を高め、スコアに忠実な作品解釈で安心して聴ける指揮者です。
録音も数多く、特にブルックナー、マーラーは繰り返し録音していますが、一つ選ぶとしたらシカゴ響とのショスタコーヴィチの第4番。バランス感覚に長けたハイティンクの特徴がよく現れています。巨大な伽藍のように響くシカゴのサウンドでどうぞ。
ジュゼッペ・シノーポリ/マーラー交響曲第7番 (1992年)

知的なマーラー
イタリア出身の指揮者ジュゼッペ・シノーポリ (1946-2001年)。知性で独特な解釈で今までにない演奏を聴かせてくれます。シノーポリで忘れられないのが、テレビ番組で流れたシュターツカペレ・ドレスデンとの『タンホイザー』序曲。温かい音色でホッとしたのを今でも覚えています。
そんなシノーポリの名盤といえば、フィルハーモニア管弦楽団とのマーラーの交響曲全集。知的な解釈でこれまでにないマーラーを描いてくれました。中でも強烈なのが1992年5月に録音された第7番。第1楽章は超が付くスローテンポです。チェリビダッケがブルックナーで到達した世界を、シノーポリはマーラーで行き着いた気がします。マーラーの旋律が引き伸ばされて旋律が呼応する。従来見えてこなかった夜の世界が描かれています。






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