このアルバムの3つのポイント
- 2019年12月でコンサート活動から引退したヴラディーミル・アシュケナージによる最新録音
- バッハシリーズ最新作は「イギリス組曲」
- カラフルな色彩と深み
コンサート活動からの引退を表明したアシュケナージの4年ぶりの新譜
現代を代表するピアニストで、そして近年は指揮者としての活動がメインとなっていたヴラディーミル・アシュケナージ。1937年生まれのアシュケナージは82歳の2019年末でパブリックな演奏活動から引退することを表明しました。
【Harrison Parrot】VLADIMIR ASHKENAZY RETIRES (2020/01/17)
私はピアノ演奏を聴き始めたのがアシュケナージだったので、1955年のショパン・コンクールでのライヴ録音から最近のものまでほぼコンプリートで聴いてきました。
生でピアノ演奏を聴きたくて、2011年の息子のヴォフカ・アシュケナージとのピアノ・デュオのリサイタルでその夢が叶いました。場所はすみだトリフォニーホールだったと記憶しているのですが、ボロディンの「だったん人の踊り」や、スクリャービンの作品、そしてラヴェルの「ラ・ヴァルス」の演奏を聴きました。演奏会場からの帰り道で、目の前にアシュケナージの奥様が歩いていたのが見えたので、「旦那さんも息子さんも素晴らしかった」とか何か気の利いたことを言いたいなと思ったのですが、そこまでの勇気が出ず何も言えなかったのほろ苦い思い出があります。
ピアノ・デュオか指揮者としてのコンサート活動はありましたが、ソロ・リサイタルはなくて1年か2年に1枚リリースされるレコーディングを通じてのみ、アシュケナージのピアノ独奏を聴くことができました。
2019年にコンサート活動を引退した割にはレコード業界では特別な企画もなく、このままラスト・レコーディングも出ないのかなと思っていましたが、2021年10月15日に、J.S.バッハの「イギリス組曲」の最新録音がリリースされました。2017年のフランス組曲(FC2ブログで紹介しました)のリリース以来4年ぶりの新譜ですが、録音は2019年4月のもので、2年前のものです。
アシュケナージのバッハ
アシュケナージは若かりし1965年1月にJ.S.バッハのピアノ協奏曲第1番ニ短調(BWV1052)をディヴィッド・ジンマン指揮ロンドン交響楽団と録音していますが、それ以来しばらくバッハからは遠ざかっていました。
そして2004〜2005年の平均律クラヴィーア曲集(FC2ブログ記事)で久しぶりにバッハの作品を取り上げ、それからは2009年のパルティータ全曲、2013年から2014年にイタリア協奏曲BWV971を中心とする4曲(FC2ブログ記事)、2016年から2017年のBWV812〜BWV817のフランス組曲(FC2ブログ記事)と、断続的にバッハの作品にフォーカスしています。
最新録音のイギリス組曲とカップリングのピアノ協奏曲
イギリス組曲は2019年4月5日から7日に、イギリスのサフォークにあるポットン・ホールで録音されました。アシュケナージお気に入りのレコーディング場所で、自然に囲まれた立地で近年のアシュケナージが伸び伸びとしたピアノ演奏をおこなってきました。
このCD は2枚組になっていて、1枚目がイギリス組曲第1番BWV806から第3番BWV808、2枚目が1965年1月1日から5日にロンドンのキングズウェイ・ホールで録音されたピアノ協奏曲第1番がボーナスディスクとしてカップリングされています。
こちらがCD の内側にあるジャケット写真ですが、左が2019年のもの、右が1965年のときのアシュケナージの写真があります。
イギリス組曲第1番から第3番の演奏は、現代のグランドピアノの持てる全てを引き出した演奏でしょう。アシュケナージらしくカラフルな色彩で、バッハの音楽を現代に蘇らせています。
ピアノ協奏曲は若かりし頃のアシュケナージの特徴であるカミソリのような切れ味が魅力。背筋がゾッとするような崇高さがあります。ジンマン指揮ロンドン響のビビッドな音色はバッハらしくは無いかもしれませんがこういう多様さを許容するのがバッハの懐の深さだと思います。
まとめ
ヴラディーミル・アシュケナージの久しぶりの新譜で、それだけでも嬉しくなる1枚。バッハのイギリス組曲第1番から第3番をグランドピアノで鮮やかに現代に蘇らせています。
オススメ度
ピアノ:ヴラディーミル・アシュケナージ
録音:2019年4月5日-7日, サフォーク・ポットン・ホール(イギリス組曲)
1965年1月1日-5日, ロンドン・キングズウェイ・ホール(ピアノ協奏曲第1番)
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試聴
iTunesで試聴可能。また、Decca のアシュケナージの公式ページよりLISTEN パネルから試聴可能。
受賞
新譜のため未定。
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