※2022/04/21 初稿、2025/12/23 追記
このアルバムの3つのポイント

- マリス・ヤンソンスとバイエルン放送響の来日公演
- サントリーホールでの第九ライヴ録音
- ミュージック・ペン・クラブの「外国人アーティストのコンサート・パフォーマンス賞」を受賞
高評価を受けた2012年のヤンソンスとバイエルン放送響の来日公演
マリス・ヤンソンスとバイエルン放送交響楽団は2012年11月末から12月上旬に来日して、ベートーヴェン・チクルスの演奏会をおこないました。
NHKで撮影もされ、DVDとしてもリリースされていますし、バイエルン放送響の自主レーベルBR Klassik でヤンソンスとバイエルン放送響のベートーヴェン交響曲全集としてCDも出ています。
ヤンソンスとバイエルン放送響のこの2012年の来日公演は日本のミュージック・ペン・クラブが選ぶ「コンサート・パフォーマンス賞(外国人アーティスト)」を受賞しています。音楽評論家の山崎浩太郎氏はその受賞理由についてこのように書いています。
音の早い減衰などピリオド奏法の成果を採り入れつつ、純度の高い響き、精緻なアンサンブルなど、モダン楽器ならではの高い技術と力強さを最大限に活用し、スケールが大きく、輝かしいベートーヴェン像を実現した。19世紀の再現でも、20世紀の踏襲でもなく、(中略)、独自のスタイルで演奏史に新たな1ページを刻んだことに、大きな意義がある。
山崎浩太郎、第25回ミュージック・ペンクラブ音楽賞 決定
私も実際にCDで聴いてみて、この評価に同意します。ライヴなのに音楽作りは緻密ですし、12月1日は前半が第8番、後半が第9番「合唱付き」だったのですが、1日だけの1発撮りでこのクオリティはすごいです。
こちらで紹介しましたが、ヤンソンスは2016年のバイエルン放送響との来日公演でも、マーラーの交響曲第9番の演奏会がクラシック音楽専門誌「音楽の友」で読者が選ぶベスト・コンサートで1位を受賞していました。
第九のヴァチカン・ライヴとの比較
なお、ヤンソンスとバイエルン放送響のベートーヴェンの旧全集には2007年10月27日、ヴァチカンの第九のライヴ録音が収録されていました。オススメの第九録音を紹介するこちらの記事でも取り上げていますが、透き通った極限美だと感じたそのときの演奏はトータル66分。この2012年のサントリーホールのライヴ録音では63分に縮まっていますが、ヤンソンスとバイエルン放送響の音楽づくりはより一層密度が濃くなっています。
高いアンサンブルで透明感のある響き(これを山崎氏は「純度の高い」と表現していました)はバイエルン放送響ならでは。ふわっと花開いてふわっと消えていくようなフレージングがヤンソンスらしいです。
なお、テノールのミヒャエル・シャーデ (Michael Shade)とバスのミヒャエル・フォッレ (Michael Volle、フォレやヴォッレとも発音されます)はヴァチカンのときと同じくサントリーホールでも歌っています。そして日本の舞台でメゾソプラノの藤村実穂子さんが歌ったのも注目度が高かったことでしょう。
100名近い合唱団も来日
この第九でこだわりを感じたのは合唱団もバイエルン放送合唱団であるということ。来日公演では指揮者とオーケストラだけ来日して、人数の多い合唱は移動の経費も掛かるので来日させずに日本の合唱団を使うこともあるのですが、この第九ではバイエルン放送響の本拠地ミュンヘンで聴くのと同じようにバイエルン放送合唱団がコーラスを務めています。
のですが、その授賞式でのコメントでジャパンアーツの社長さんが「百名近くの合唱団をミュンヘンから招きました。大変な経費が掛かりますが、スポンサーのTDK様のご支援を頂き実現に至りました。」とコメントしています。合唱団もミュンヘンから連れていきたいというヤンソンス含めた演奏家たちの思いを、来日公演のスポンサーだったTDKが支援したということですね。
極上のハーモニー
第1楽章の序奏部。ホルンの和音に第2ヴァイオリンとチェロが薄いヴェールを作ります。sotto voce (ささやくように)の指示が付いた第1ヴァイオリンは手探りするかのようにメロディの断片を奏でます。クレッシェンドしてトゥッティでフォルテッシモに入りますが、バイエルン放送響は最強音でも気品があります。0:50あたり、27小節と28小節にフォルテが4つ続いてすぐにピアノになるところがありますが、この切り替えが本当に見事。2:04あたりではフルートがリードして穏やかな世界に。提示部後半では第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラのヴィルトゥオーソっぷりが光ります。1つの頂点を作って展開部へと入りますが、木管がうごめくようです。7:00あたりのフルート、クラリネット、第1ヴァイオリンの掛け合いも良いですね。301小節の8:04あたりで暗黒の世界の深みにたどり着き、再現部へと。煽らずに密度の高いアンサンブルで奏でるのがバイエルン放送響の強み。9:07あたりで嵐が去り、雲がすーっと消えると第2主題の再現部で晴れ間が広がります。第1楽章のこーだではピアニッシモの弦による穏やかなトレモロで。ヤンソンスは圧倒的なクライマックスをここでは作らず、終止符のフェルマータにまだ何か残しているようです。この作品の盛り上がりはこの先の楽章かのように。
第2楽章スケルツォは小気味良いリズムでアンサンブルも光ります。ティンパニが力強くも響きが柔らかいのはオケの特徴ですね。
第3楽章は秀逸。柔らかく温かいハーモニーがヤンソンス/バイエルン放送響の黄金時代とサントリーホールの響きの相性とを感じます。
第4楽章はフォルテッシモでもヤンソンスの手綱はがっつりと抑えたまま。感情に流されるのではなく、深い解釈で聴かせてくれるのがこの指揮者の魅力。92小節でオケによる喜びの歌ではチェロがしっとりと歌い上げます。独唱が加わるとオケが伴奏に回りますが、合唱が入るとコーラスとオケが半々ぐらいの音量のバランスに。極上の響きでフーガを堪能してから、23:00あたりでMaestoso (威厳を持って)の指示になると弦四部がゆったりと流れるように奏でます。23:10でPrestissimo (できる限り速く)のテンポに入ってもヤンソンスは常識的な速さ。スコア最後の休符にフェルマータが付いているのですが、聴衆はあまりの素晴らしさに待ちきれなかったのでしょう、休符前の音が鳴り終わるや否や、ブラボーの掛け声が出てしまいます。それも納得の見事な第九でした。
まとめ
ヴィルヘルム・フルトヴェングラーとかカール・ベームのバイロイト音楽祭でのライヴ録音のような、圧倒的な熱演のようにこれまでの第九の名盤とは趣が違いますが、現代のオーケストラによるモダンな響きで緻密で熟成されたこの第九も私は好みです。
オススメ度
ソプラノ:クリスティアーネ・カルク
メゾソプラノ:藤村実穂子
テノール:ミヒャエル・シャーデ
バス: ミヒャエル・ヴォッレ
指揮:マリス・ヤンソンス
バイエルン放送交響楽団
バイエルン放送合唱団(合唱指揮:ペーター・ダイクストラ)
録音:2012年12月1日, サントリーホール(ライヴ)
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試聴
Apple Musicで試聴可能。
受賞
この演奏を含む2012年の来日公演が日本のミュージック・ペン・クラブが選ぶ「クラシック部門 コンサート・パフォーマンス賞(外国人アーティスト)」を受賞。










コメント数:1
軽やかでどこか儚げでそしてどこまでも美しい演奏でした。サントリーホールで聴いていたら、自分もブラボーと叫んでいたと思います。個人的には第3楽章は天国的な響きにもう少し浸りたかったのですが、ソリストや合唱の皆さんをお待たせしてはいけないとばかりに、どんどん曲が進んで行ったよう感じました。ソリストに、前に視聴した千人の交響曲でもヤンソンスと共演していた藤村美穂子さんのお名前があったので、意識してメゾソプラノに耳を傾けましたが素晴らしかったです。