このアルバムの3つのポイント
- マリス・ヤンソンス、首席指揮者退任後のカムバック
- 前衛的なマーラーの7番で感じる温かみ
- まろやかなコンセルトヘボウ・サウンド
2015年に首席指揮者を退任したマリス・ヤンソンス
ドイツの名門バイエルン放送交響楽団とオランダの名門ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者を兼任するという偉業を達成し、さらに両楽団の存在感を高めた名指揮者マリス・ヤンソンス。2015年3月を持って、これまで10年半務めたコンセルトヘボウ管の首席指揮者を退任しました。退任コンサートは日本でもテレビ放映され、私もそれを見てこちらのFC2ブログ記事に書いています。
バイエルン放送響のほうは首席指揮者を継続して2019年12月に亡くなるまで務めましたが、退任後もコンセルトヘボウ管とは良好な関係を築き、2016年6月、7月にはチャイコフスキーの歌劇「スペードの女王」を指揮していますし(FC2ブログ記事)、9月の客演では今回紹介するマーラーの交響曲第7番を指揮しています。
首席や音楽監督のポストを離れて全く疎遠になってしまう指揮者とオーケストラもある中、こうして良い関係を続けてくれるのはファンとしてはありがたいことでした。
ヤンソンス×コンセルトヘボウ管の第7番
マーラーを得意としたヤンソンスは、交響曲第7番についても何種類か録音があります。2000年3月のオスロ・フィルハーモニー管弦楽団とのライヴ録音、コンセルトヘボウ管とは2000年12月のライヴ録音と2016年9月の今回紹介するライヴ録音、そしてバイエルン放送響とは2007年3月のライヴ録音があります。
コンセルトヘボウ管は2011年のマーラー生誕150周年のアニバーサリーでのチクルスで交響曲の全曲演奏をおこなっていましたが、こちらの記事で紹介したようにヤンソンスがタクトを取った演奏が多い中、第7番はピエール・ブーレーズが指揮してゆっくりとしたテンポで無機的な近代音楽的な響きで演奏していました。
それを聴いた後でこの2016年のヤンソンスとの演奏を聴くと違いに驚かされます。温かみがあり、まろやかなサウンドで描いているのです。冒頭から「おっ」と思ったのは、テノールホルンと木管の浮かばせ方。ピアニッシモ(pp)でざわめきのような演奏をした後にフォルテ(f)でテノールホルンがため息のような旋律を奏でるのですが、音質が良いこともあり、艶があってものすごく立体的に聴こえます。ホルンに続いてオーボエ、クラリネットがフォルテ→フォルテッシモで旋律をつなぐのですが、ここでも静かな音で奏でられる弦とファゴットの低音の上でメロディがはっきりと浮かんでいます。
難解なはずの第1楽章が、ヤンソンスのタクトにかかると何とも温かくて人懐こく聴こえます。前任の首席指揮者だったリッカルド・シャイーが変化をもたらし、ヤンソンスが深化させたまろやかでゴージャスなコンセルトヘボウ管のサウンドが活き活きと現れています。マーラーの悲痛さを求める方には不向きかもしれませんが、ヤンソンス・ファンの私はこの演奏は気に入っています。
夜曲の第2楽章と第4楽章の美しさは素晴らしいですし、第3楽章のスケルツォはまるで踊るかのようにリズミカル。フィナーレの第5楽章のスケールと豪華絢爛なサウンドも良いです。クライマックスでは高音質で細かいシャラシャラとした打楽器や銅鑼の音がクリアに聴こえます。
まとめ
首席指揮者退任後にカムバックしたヤンソンスとコンセルトヘボウ管のマーラー。まろやかで至福のひとときを過ごせる演奏です。
オススメ度
指揮:マリス・ヤンソンス
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:2016年9月28ー30日, コンセルトヘボウ(ライヴ)
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
コメント数:1
演奏も録音も素晴らしい!聴き始めた瞬間から、自然で透明な空気感、臨場感のある録音で、耳が喜んでいるのがわかりました。そしてこれまで、マーラーの7番は、難解で途中なんとなくダークな世界から終楽章に展開していく感じが、どうもピンとこなかったのが、この演奏では全楽章の流れが自然に感じられました。ライブというのもあるのかもしれません。普段の自分の傾向として割と金管が活躍する音量の大きな部分が印象に残りがちなのですが、この演奏と録音では音量が小さめな部分でも熱量が失われておらず、演奏側の集中力につられてこちらも引き込まれてしまいました。また「夜の歌」という呼び名につられて勝手にダークな感じと思っていた楽章も、実はさわやかさと美しさに溢れていたことに気づかされました。