このアルバムの3つのポイント

ブルックナー交響曲第7番 ベルナルト・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1978年)
ブルックナー交響曲第7番 ベルナルト・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1978年)
  • 全集とは別テイクのハイティンク×コンセルトヘボウ管のブルックナー
  • バランスの取れた穏やかな演奏
  • オランダのエジソン賞を受賞

ベルナルト・ハイティンクはブルックナーをオハコとし、演奏、録音も数多いです。ハイティンクは2019年に90歳で指揮活動から引退しましたが、最後のザルツブルクでの演奏となった引退1ヶ月前のザルツブルク音楽祭2019では、ウィーンフィルを指揮してブルックナーの交響曲第7番を演奏しており、楽譜を一度も見ずに暗譜で指揮をおこない、ゆったりとした悠久の流れがこれまでのハイティンクの歩みを表しているようで、とても心に残る演奏でした。紹介記事はこちらです。

ハイティンクはキャリアの早くからフィリップスレーベルでブルックナーの交響曲全集に取り組み、1963年から1972年にかけてロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団と全集を完成させました。また、1985年からウィーンフィルとも交響曲全集を企画して録音を始めましたが、レーベルの都合で全集は白紙となり、4曲の交響曲選集とテ・デウムの録音がリリースされています。

2000年代になっても、シュターツカペレ・ドレスデン(第8番・2002年、第6番・2003年)、コンセルトヘボウ管(第8番・2005年、第9番・2009年)、ロンドン交響楽団(第4番・2011年、第9番・2013年)、シカゴ交響楽団(第7番・2007年)やバイエルン放送交響楽団(第6番・2017年、第5番・2010年)を指揮してライヴ録音しています。ブルックナー指揮者と言えば、オイゲン・ヨッフムヘルベルト・フォン・カラヤンカール・ベームサー・ゲオルグ・ショルティなどの名前が挙げられるかと思いますが、長いキャリアに渡ってブルックナーにこだわってきた指揮者はハイティンクが唯一無二の存在ではないでしょうか。

ハイティンクは1963年から1972年にかけてコンセルトヘボウ管とブルックナーの交響曲全集を完成させていますが、1978年と1981年に別テイクでブルックナーの後期交響曲をコンセルトヘボウ管と録音しています。今回紹介するブルックナーの交響曲第7番は1978年10月の録音で、ハイティンクにとって交響曲全集の1966年に録音(FC2ブログ記事)して以来の録音となりました。

タワーレコード渋谷店リニューアルオープン記念

1980年代前後のフィリップスレーベルの録音は、レーベルがデッカに吸収されたこともあり、再発売があまりできておらず、長らく廃盤となっていたものが多いです。そこに目を付けたのがレコードショップのタワーレコードが、渋谷店リニューアルオープン記念として、1978年と1981年の後期交響曲の録音を2012年にCD4枚組でリリースしています。また、1985年からのウィーンフィルとのブルックナー交響曲選集もタワーレコード限定で2017年に発売されています。

どちらもタワレコのレビューで高い評価を受けており、ブルックナーはハイティンクが一番良いという声もありました。

この1978年のブルックナーの交響曲第7番の録音は、悠久を感じさせる音楽ながら躍動感もあり、バランスの取れた演奏となっています。交響曲全集での1966年の第7番の演奏(FC2ブログ記事)では、速めのテンポでまだ武骨な感じがありましたが、この1978年の再録音はテンポがぐっとゆったりとなり、非常に滑らかでオーケストラのバランスがとても良いのです。

版の違い

ブルックナーの交響曲では〇〇版というバージョンの記載が付いています。「原典版」か「ハース版」か「ノーヴァク版」(ノヴァーク版とも言う)です。ブルックナーは一度は完成させた交響曲を初演に持っていくのですが、指揮者や周りの人たちから酷評され、大幅に改訂することもありました。なので初演版とか改訂版があり、第1稿とか第2稿とかで呼ばれるのですが、自分の作品に自信が持てなかったり、誠実な人柄で他人の意見を考慮しすぎてしまったり、また、弟子たちの手による改訂でオリジナリティがなくなったりしたものもありました。

それを受けて国際ブルックナー協会は原典版の作成をローベルト・ハースに依頼して進め、第1次全集版(ハース版)ができるのですが、ナチス党員でもあったハースは第二次世界大戦後に追放され、代わりにレオポルド・ノーヴァクが原典版の校訂作業を行いました。ノーヴァクはハースが一度校訂した作品も1からやり直したので、第2次全集版(ノヴァーク版)はハース版とは別物になっています。

ハース版で交響曲全集を録音した ハイティンク だったが…

ハイティンクとコンセルトヘボウ管のブルックナーの交響曲全集では、第1番から第9番までハース版のスコアを使用し、第0番だけノーヴァク版を使いました。しかし、1978年の交響曲第7番の再録音ではノーヴァク版を使用しており、この後もハイティンクはブルックナーの作品の多くでノーヴァク版を使い、ハース版は交響曲第8番くらいになってしまいます。

旧録音との ハイティンク /RCOの演奏時間の違い

旧録との演奏時間の違いは以下のとおりです。左が1966年の旧録音、そして右が1978年の再録音の演奏時間です。

  • 第1楽章: 18:08 → 20:49
  • 第2楽章: 20:58 → 22:21
  • 第3楽章: 9:18 → 9:50
  • 第4楽章: 11:45 → 12:04

ハース版からノーヴァク版に変わったこともあるでしょうが、特に第1楽章は違いが大きく、再録音では冒頭のチェロによる第1主題がじっくりと、引き立てるように演奏されています。ただ、音楽が停滞するということはなく、あくまでも自然なテンポで流れていくように感じられます。

柔らかい金管

この交響曲はホルンやトランペット、トロンボーン、ヴァーグナーチューバなどの金管が活躍する曲でもありますが、だからといってガンガン鳴らしたら単にけたたましいだけの上辺だけの音楽になってしまいます。ハイティンクはその点、コンセルトヘボウ管の柔らかい金管を活かして、トゲが出ないようにまろやかに演奏していきます。第4楽章中盤のホルンの温かいソロも見事です。

ヴァーグナーの死を受けて付け加えたと言われる第2楽章後半の「葬送」の音楽では、まだ壮年期のハイティンクが果敢にも金管を盛大に鳴らしているのですが、コンセルトヘボウ管のツヤのある金管の音色は、耳をつんざくようなことはなく、温かみのある音色で演奏されていきます。

その後もブルックナーの交響曲第7番を再録音していくベルナルト・ハイティンクですが、穏やかさと力強さのバランスの良いこの1978年の録音は、今も色褪せることのない名演でしょう。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:ベルナルト・ハイティンク
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:1978年10月9-10日, コンセルトヘボウ

iTunesで試聴可能。

第7番のディスクは1980年のオランダのエジソン・クラシック賞「SYMFONISCHE MUZIEK」を受賞。

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