このアルバムの3つのポイント

セルジュ・チェリビダッケ ミュンヘン・イヤーズ
セルジュ・チェリビダッケ ミュンヘン・イヤーズ
  • チェリビダッケ最晩年の演奏
  • ミュンヘンフィルとの約77分のブルックナーの第9番
  • 蘭エジソン賞を受賞

最近は「倍速視聴」という言葉がありまして、YouTubeやAmazonプライムビデオ(アマプラ)で動画や映画を早送りで見たり、大学のオンライン配信の授業を倍速で視聴したりする方が増えていると。今の世の中は多くの情報をキャッチアップしないといけないので、等倍で見る時間がもったいないからだそうです。

私もアマプラで海外ドラマを見るときに10秒送りのボタンを連打して見てしまいます。1本45分の動画(エピソード)が1シーズンで20本ぐらいあって、それが7シーズン、8シーズンとかあるので、全部真面目に見ると何ヶ月も掛かってしまいますので、早送りして重要なシーンは等倍で観る、みたいな見方をしています。あとは仕事のWebミーティングに別件があって参加できなかったときにレコーディングを後日見るのですが、そのときも早送りをして重要そうなところだけ再生するようにしています。忙しいから参加できなかったわけで、それを等倍の時間をかけてキャッチアップする余裕がないんですよね。

さてそんな時代に思ったのがルーマニア出身で個性的な指揮者だったセルジュ・チェリビダッケのブルックナー。こんなツイートをしました。

チェリビダッケの晩年のブルックナーはテンポがやたらと遅いので、倍速視聴の時代にはむしろ新鮮に聴こえるのでは、と。

チェリビダッケは極端にレコーディングを嫌い、Wikipediaにもあるように晩年や死後になってようやく録音が出始めて、生で聴いたことがないリスナーにもようやく全貌が明らかになってきた指揮者です。

1つ前の記事でチェリビダッケ(1912年〜1996年)の晩年1993年のブルックナーの交響曲第8番のライヴ録音を紹介しました。4楽章合わせて104分という長大な演奏でした。普通のブルックナーで物足りなくなった方にはチェリビダッケは良いと思います。

私はEMI (現ワーナークラシックス)から出ている「セルジュ・チェリビダッケ ミュンヘン・イヤーズ」というCD49枚組のBOXを購入して、じっくりと聴いていますが、今回紹介するブルックナーの第9番も良いです。他では味わえない響きがします。

1995年9月10日のミュンヘンのフィルハーモニー・ガスタイクでのライヴ録音。タワーレコードの説明ではチェリビダッケの「生涯最後の演奏」と書いてありますが、それ以降の1996年6月4日のベートーヴェンの交響曲第2番のライヴ録音なども出ているので、「生涯最後」は違いますね。「最晩年」のほうが正しい表現かと思います。

極遅の露光による光の軌跡

一眼レフやミラーレスカメラでシャッタースピードを変えると被写体の表情が変わりますよね。例えば1/500秒のシャッタースピードで撮影すれば動きが止まって写りますし、少し遅くすればブレが出て躍動感が生まれます。また、一方で夜の星空のような光源が弱いものを撮影するには、長時間露光して撮ると、軌跡がくっきり写ります。このブルックナーを聴くとまさにそういう気分になるんです。極遅のテンポですが、だからこそブルックナーの旋律が細部まで引き出されていると。

演奏時間は第1楽章が32分26秒、第2楽章が13分47秒、第3楽章が30分37秒で計76分50秒交響曲第9番のWikipediaでは3楽章合わせて約64分となっていますが、チェリビダッケはさらに12分以上遅いです。CDでは1枚に収まる長さですが、このアルバムには演奏会の数日前(1995年9月4日から7日)のリハーサルもレコーディングされているのでCDでは2枚に分かれています。

チェリビダッケとミュンヘンフィルは慈愛に満ちた穏やかさで最後まで描きます。

最近の演奏は、第9番も圧巻の演奏をおこなうのが増えてきた印象で、特に第1楽章の第63小節からのfff (フォルテフォルテッシモ)でティンパニーを強打して激しい渦を作るような演奏が目立ってきて、私はちょっと辟易気味なのですが、このチェリビダッケとミュンヘンフィルの演奏は少しもそういうところがなく、徹頭徹尾、じっくりとじっくりと描いています。細部まで丁寧に描かれていくことで、ブルックナーの旋律が浮き彫りになります。

第8番はさすがに遅く、万人受けはしないと感じたのですが、この第9番は多くの方に聴いてもらいたい究極の演奏だと思います。

個性的な指揮者チェリビダッケが最晩年に遺したブルックナーの最後のシンフォニー。極遅のテンポで描いた旋律の軌跡が見事です。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:セルジュ・チェリビダッケ
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1995年9月10日, フィルハーモニー・ガスタイク(ライヴ)

Apple Music で試聴可能。

第3番〜9番のアルバムが1999年のオランダ・エジソン賞の「BIJZONDERE UITGAVEN VAN HISTORISCHE AARD (歴史的な偉業に対する特別賞?)」を受賞。

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