このアルバムの3つのポイント
- ショルティにとって70歳にして初の「新世界より」の録音
- シカゴ響のパワフルさ
- 引き締まった勇敢な演奏
ショルティ70歳にして初の「新世界より」の録音
今日は指揮者サー・ゲオルグ・ショルティの録音を紹介します。前回は1975年のR.シュトラウスの録音について書きましたが、今日はショルティにとっては珍しいアントニン・ドヴォルザークの作品です。
ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」と言えば、名曲中の名曲ですし、古今東西様々な演奏家が演奏してきた作品です。ただ、意外にもショルティはあまり録音してこなかった作曲家です。1983年1月、ショルティはシカゴ交響楽団と「新世界より」のセッション録音をおこないましたが、これが70歳にしてショルティ初のこの曲のレコーディングとなりました。
私は2012年にリリースされた「生誕100年記念ショルティ名盤50」の国内盤でこの「新世界より」の録音を聴いています。5年に一度くらい再リリースされるこの録音ですが、現在は入手困難になってしまっているので、ストリーミングで聴いたほうが早いです。
引き締まって勇敢な新世界
最初に書かせていただきますが、この録音は決して「新世界より」の名録音や決定盤では無いです。「新世界より」の最高の演奏を求める方なら他の演奏家を探したほうが良いと思います。例えば、ドヴォルザークを何度も録音したヘルベルト・フォン・カラヤンが同時期の1985年2月にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と録音したもののほうが評論家の評価も高いです。
これは私のようなショルティ好きが「ショルティはこんな風にドヴォルザークを演奏するのか」と発見するためには良いと思います。ショルティはチャイコフスキーでも交響曲第4番(1984年)や交響曲第6番「悲愴」(1976年、FC2ブログ記事)でもそうでしたが、スラヴものの作品も引き締まって演奏するスタイルでした。
この「新世界より」でも第1楽章からショルティらしさが全開です。なだらかな序奏は低弦と木管が落ち着いて美しく奏でていきますが、フォルティッシモの「レミ♭ラ」で一気に劇的な表情を生み出し、闇に包まれたかのようにチェロとコントラバスが暗い世界へといざないます。そしてシカゴ響の金管セクションが炸裂。アレグロ・モルトでは主題が悠々と歌われますが、徐々にテンポが上がり、カオスギリギリの混沌とした世界を描いていきます。
ショルティが指揮すると管弦楽曲もオペラのようにドラマティックになるのですが、この「新世界より」も第1楽章を聴くだけでそれを感じます。ショルティらしく楽譜に忠実で、180小節目の繰り返し記号を守って再びアレグロ・モルトへ戻ります。勇ましい前半の演奏を再び聴けるのは嬉しいですが、シカゴ響のパワフルさに圧倒されます。繰り返し記号へと再びたどり着くと、今度はフルートやオーボエなどの木管が鳥のさえずりのように美しい音色を聴かせてくれます。
最大級のボルテージ
第2楽章は一転して木管が安らぎを与えてくれます。束の間の休息です。
第3楽章はショルティのあの指揮ぶりが頭に浮かぶほどです。テンポを上げても乱れないシカゴ響のアンサンブルですが、さらにショルティは緩急を際立たせます。
そして第4楽章。晩年に米国に滞在したドヴォルザークが蒸気機関車が発車するところをモチーフにしたとも言われるこの出だしですが、ショルティ&シカゴ響の弦セクションは冒頭のフォルティッシモからバリバリとエネルギー全開です。圧巻のクライマックスを構築し、そして音を絞るように引き締まった演奏(尖った音色)で旋律を奏でていきますが、いかにもショルティらしいです。最後の最後に最大級のボルテージで演奏していく主題の旋律ではシカゴ響のパワフルさを余すことなく出し尽くしています。
まとめ
ショルティにとって珍しいドヴォルザークの作品。70歳を迎えて初めて録音した「新世界より」はショルティらしさとシカゴ響のパワフルさに圧倒されます。
オススメ度
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
録音:1983年1月, シカゴ・オーケストラ・ホール
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廃盤のため無し。
試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
コメント数:1
少年時代に FM の番組表をチェックして、「運命」「未完成」「新世界より」など、タイトルのついた交響曲を、カセットテープに録音しては、すり減るくらい聴きこんでいました。「新世界より」はヴァーツラフ・ノイマン指揮、チェコフィルだったと思います。その後、じっくりこの曲を聴く機会がなく、本当に久しぶりに、ショルティ・シカゴ響の演奏を聴きました。私もショルティ好きですので、この演奏もドストライクでズドンとはまりました。同時に、昔聴いていたのとずいぶん印象が違うな、どんなだっけ、と気になり始めて、ノイマンの演奏も聴いてしまいました。