このアルバムの3つのポイント
- ベルナルト・ハイティンクとコンセルトヘボウ管のデジタル時代のマーラー交響曲第4番の再録音
- くっきりと聞こえる優れたバランス感覚
- まろやかなコンセルトヘボウ・サウンド
膨大なハイティンクのマーラーの録音
指揮者ベルナルト・ハイティンクは2019年に90歳で引退しましたが、65年以上という長い長い指揮者キャリアの中で、レコーディングも膨大に多くあります。特にブルックナーとマーラーについては同じ作品を同じオーケストラと、違うオーケストラと何度も録音しているので、全部聴き集めるのは相当大変です。
こちらの記事でハイティンクが指揮したマーラーの録音を整理していますが、それでも21世紀になってからのオーケストラの自主レーベルから出ているレコーディングがいくつか欠けています。特に晩年のマーラーはゆっくり過ぎるくらいに肥大になっているので、食傷気味になってしまいます。
1983年のコンセルトヘボウ管との第4番の再録音
ただ、1980年代や90年代はデジタル録音でハイティンク自身も身体ともに充実していた時期なので、素晴らしい演奏が多いです。今回紹介するのは、1983年のコンセルトヘボウ管との交響曲第4番ト長調の再録音です。
フィリップス・レーベルのCDはデッカに合併されてからあまり再発売が積極的におこなわれていないのですが、長らく廃盤だったこのレコーディングが、レコードショップのタワーレコードが渋谷店15周年を記念して2010年にリリースした独自企画盤のヴィンテージ・コレクションで、1983年の第4番と1982年の第7番のセットがCD2枚組で出ました。
卓越したバランス感覚
ハイティンクのマーラーの演奏は、「中庸」という言葉が似合うと思います。スケールがデカいというわけでもなければ、激しいわけでもありません。レナード・バーンスタイン、クラウディオ・アバド、ゲオルグ・ショルティあたりを聴いてからハイティンクを聴くと、ものすごく地味に聞こえます。マーラーのベスト盤のランキングでトップには来ないのがハイティンクなのですが、色々な演奏を聴いていると「中庸」に行き着くのか、ファンはそれなりにいます。
私もハイティンクのマーラーが全て良いとは思いません。交響曲第3番や交響曲第6番「悲劇的」は肥大化して遅すぎていますし、第5番は激しさがもっと欲しいところです。
ただ、交響曲第4番については最もハイティンクに合っている作品だと思います。様々な楽器が東洋的な旋律を奏でる不思議な曲なのですが、ハイティンクのバランス感覚は抜群に優れていて、個々の楽器がはっきりと聞こえます。コンセルトヘボウ管のまろやかなサウンドが、この素朴な音楽に彩りを与えています。
曲全体は遅めのテンポで、ゆったりとマーラーの世界を描いています。まるで、印象派の画家アルフレッド・シスレーの風景画のようで、色や筆の太さ、タッチを巧みに変えて奥行のある風景を描いています。
第5楽章はソプラノのロバータ・アレグザンダーの独唱で確かに美しくてオーケストラともマッチしているのですが、少しパワーが足りないかなという印象です。
過剰は排し、楽譜に忠実で、そして普遍性を持つ演奏。これを聴くとハイティンクのマーラー作品に対するアプローチが伺えます。
まとめ
ベルナルト・ハイティンクの卓越したバランス感覚で個々の楽器の響きが明確に聞こえる演奏。リピートで聴くならこういう「中庸」の演奏のほうが向いているでしょう。
オススメ度
ソプラノ:ロバータ・アレグザンダー
指揮:ベルナルト・ハイティンク
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:1983年10月, コンセルトヘボウ
スポンサーリンク
【タワレコ】ベルナルト・ハイティンク/コンセルトヘボウ管 マーラー: 交響曲第4番, 第7番「夜の歌」<タワーレコード限定>試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
コメントはまだありません。この記事の最初のコメントを付けてみませんか?