- あのカラヤンがついにマーラーを録音
- ベルリンフィルもマーラーに慣れていない?
- 「アダージョ・カラヤン」にも収録された第4楽章で魅せるカラヤン美学
カラヤンがついにマーラーを録音!
20世紀を代表する指揮者の一人、ヘルベルト・フォン・カラヤンはマーラーを長らく演奏も録音もしてこなかった。マーラーはユダヤ人であるため、彼の作品は、戦時中ナチスの支配下にあったドイツでは演奏が規制されていた。そしてカラヤンはナチスの賛美者でもあり、ユダヤ系の作曲家の作品はあまり演奏してこなかった。平林直哉氏によると、カラヤンが初めてマーラーの作品を取り上げたのは1960年2月の「大地の歌」らしい。そして1970年に再度「大地の歌」を演奏したが、録音に対してはかなり慎重だったようだ。カラヤンのこんなコメントも出ている。
マーラーは意識的に避けてきた。彼独特の響きを出すためのパレットを持ち合わせてなかった。マーラーでは崇高から卑俗さまでの幅が極めて狭い。
ヘルベルト・フォン・カラヤン
しかし1970年代になると、カラヤンはユダヤ人作曲家であるメンデルスゾーン、マーラー、シェーンベルクの作品を意欲的に取り組み、録音もしている。マーラーでは交響曲第4番、第5番、第6番、第9番、「大地の歌」、歌曲「亡き児をしのぶ歌」、リュッケルトの詩による5つの歌曲を録音している。今回紹介するマーラーの交響曲第5番はその最初を飾ったもので、カラヤンがついにマーラーを録音したと話題になったもの。
解説書によると
His first concert performance of the Fifth with the Berlin Philharmonic in 1973 was preceded by a two-year phase of rehearsals, including an early trial recording, and much later, the present famous interpretation.
Recoding Karajan’s Mahler – The producer recalls…, Hans Weber (翻訳:Alan Newcombe)
とあり、この1973年の録音の前に2年も掛けて準備をしてきたことが書かれている。
ベルリンフィルもマーラーに慣れていない?
ただ、第1楽章から自信の無さを感じるのは気のせいだろうか。タタタターのファンファーレから、勇ましさはなく、どこか手探りな感じ。静かだと思ったら急に音量が大きくなったりして、曲の流れもちぐはぐ。第1楽章の途中や第2楽章の冒頭、第3楽章の途中では金管が裏返ることもあり、天下のベルリンフィルでもこの当時はマーラーに不慣れな感じが伺える。後年、1980年代後半にベルナルト・ハイティンク、1990年代以降にクラウディオ・アバド、そして2000年代に入ってからサー・サイモン・ラトルなどとマーラーの交響曲の名演を行ってきたベルリンフィルが、1973年当時はこんな感じだったのは意外だ。正直これだけを聴くとこのカラヤン/ベルリンフィルのマーラーはイマイチだ。
奇跡の第4楽章
ただ、そんなネガティブな印象が、第4楽章のアダージェットに進むと一変する。
本当に美しい。
この演奏は、1994年に発売されて全世界でトータル500万部を売り上げた「アダージョ・カラヤン」にも収録された1曲。カラヤン美学が詰まったうっとりするほど美しい演奏で、3楽章までのゴツゴツした演奏がこの楽章だけ自信を持って、手の内に入れた演奏になっている。ヴァーグナーやR.シュトラウスに通じるあの官能美が、ここにはある。
そして続く第5楽章では、ベルリンフィルの機動力を持ってスケールの大きな演奏を聴かせてくれる。ただ、何かしっくり来ないというか、違和感はある。クライマックスでも、響きが「そうじゃないんだよな」と思うところがある。
日本の批評家も冷遇
どうやら、このカラヤンのレコードがリリースされたとき、日本では批評家によって冷遇されたようだ。吉田秀和氏の文書「カラヤンのマーラーふたたび」によると、「音楽の外に立ったままで、少しも中に入っていない。精彩な表現が、どれもこれもひえびえとした感触」とか「ロマンティックな傾向が強く、時にそれは過度」とか書かれたようだ。
まとめ
カラヤンがどうマーラーを演奏したか知る上では大事な一枚で、第4楽章アダージェットだけは別格。ただ、マーラーの交響曲第5番の名演は他にもあるし、この曲を楽しみたい人にはあまりオススメできない演奏。
オススメ度
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1973年2月, ベルリン・イエス・キリスト教会
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iTunesで試聴可能。また関連動画として、この録音の5年後の1978年の同曲のリハーサル動画をベルリンフィルの公式YouTubeサイトから視聴可能。
受賞
特に無し。
1975年の米国グラミー賞「BEST CLASSICAL PERFORMANCE – ORCHESTRA」にノミネーションのみで受賞はしていない。
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