このアルバムの3つのポイント
- ジュゼッペ・シノーポリによる独創的なマーラー解釈
- フィルハーモニア管との首席指揮者時代の集大成
- デジタル録音によるクリアな音質
シノーポリのマーラー
今回は再びイタリア出身の指揮者ジュゼッペ・シノーポリについて。
以前紹介したシュターツカペレ・ドレスデンとのブルックナーの交響曲選集でシノーポリを初めてちゃんと聴いたのですが、「インテリ指揮者」という評判の割には自然体な演奏でそこまでクセを感じなかったというのが正直な感想。重厚感よりも洗練された響きでブルックナーの見事な解釈を聴かせてくれたのですが、今回紹介するマーラーは一筋縄ではいかないです。
独自のマーラー像
シノーポリのマーラーはこれまでの演奏家とは違う独自の分析によるもので、心理学を学び、作品の解釈にも精神医学の観点を入れたシノーポリらしい個性。10個の交響曲が、今まで聴いたものとは違う作品に聴こえてきます。
第1番の「巨人」の第1楽章では不気味に光を放ち、鳥たちの声が聴こえるようです。第6番「悲劇的」では第1楽章の冒頭で火を吹くような荒々しさもあれば、第2楽章では執拗さも表したり。第7番では冒頭から引きずるような重たさがあります。第9番はまるでデカダンスとも言えるような気だるさがあり、美しさだけでは表せないマーラーの複雑な心境を推しはかるようです。
まるで緻密な室内楽を折り重ねるようなフィルハーモニア管の演奏で、オーケストラの多彩な響きや壮大さを求める演奏とは距離を置いています。
マーラーの音楽を決して美しく演奏しようとしないのは、レナード・バーンスタイン、特に2回目の交響曲全集の解釈にも通じるところはありますが、マーラーのポリフォニーをまとめようとするのではなくバラバラのままそれぞれの方向に向かわせる演奏は共通点があるような気がします。万人受けはしないと思いますが、一度聴くと病みつきになる演奏ではあります。
タワーレコード企画盤はやや微妙
ブルックナーと同じく、今回もタワーレコード企画盤のCD でマーラーを聴いています。シノーポリの没後20周年を記念した2021年11月にリリースされたもので交響曲第1番から10番まで12枚のCD に収録されています。この国内盤のCD BOX がセール価格で約6,800円、まとめ買いなら約6,000円で買うことができるので、お買い得ではありますが、2010年にリリースされたEloquenceレーベルの輸入盤がCD 12枚組で約4,200円で買うことができ、しかもそちらでは交響曲だけではなく『大地の歌』、『さすらう若人の歌』、『若き日の歌』、『亡き子をしのぶ歌』の管弦楽伴奏付き歌曲も含んでいます。
タワーレコードの企画盤はSACDハイブリッドも多く出ているのですが、このシノーポリのマーラーは通常のCD。しかも歌曲は別の企画盤CD BOX として販売されていて、そっちも買うことになるとちょっと割高に。日本語解説もありますが、シノーポリのマーラーについてはたった2ページで、残り50ページぐらいは交響曲の解説や歌詞の日本語訳が書かれています。BOX の表はオリジナル・ジャケット・デザインですが、CD にはジャケットが付いていなくて表が透明なビニール、裏が不織布のような生地に入っているだけ。
良い企画が多いタワーレコードにしては、ちょっと微妙なものになってしまったなという印象。
まとめ
シノーポリがフィルハーモニア管と完成させたマーラーの交響曲全集。独自の新しいマーラー像を描いていて1曲1曲が深いです。
オススメ度
第2番『復活』
メゾ・ソプラノ:ブリギッテ・ファスベンダー
ソプラノ:ロザリンド・プロウライト
フィルハーモニア合唱団
第3番
アルト:ハンナ・シュヴァルツ
フィルハーモニア女声合唱団, ニューロンドン少年合唱団
第4番
ソプラノ:エディタ・グルベローヴァ
第8番『千人の交響曲』
ソプラノ:チェリル・ステューダー, アンジェラ・マリア・ブラシ, スミ・ジョー
アルト:ヴァルトラウト・マイアー, 永井和子
テノール:キース・ルイス
バリトン:トーマス・アレン
バス:ハンス・ゾーティン
フィルハーモニア合唱団, サウスエンド少年合唱団
指揮:ジュゼッペ・シノーポリ
フィルハーモニア管弦楽団
録音:1985年1月(第5番), 1989年2月(第1番), 1990年11月&12月(第8番), 1992年5月(第7番),
1993年12月(第9番), 1994年1月&2月(第3番), オール・セインツ教会,
1985年9月(第2番), 1986年9月(第6番), 1987年4月(第10番), 1991年2月(第4番), ワトフォード・タウン・ホール
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試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
特に無し。
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