このアルバムの3つのポイント
- イタリアの名指揮者ジュゼッペ・シノーポリのブルックナー
- シュターツカペレ・ドレスデンの古豪の響き
- 滑らかさと深遠さ
イタリアの名指揮者ジュゼッペ・シノーポリ
イタリア出身の指揮者ジュゼッペ・シノーポリ(1946年〜2001年)。まだ54歳というこれからという時期に歌劇を指揮していた途中で心筋梗塞で倒れて亡くなってしまいましたが、イギリスのフィルハーモニア管弦楽団やドイツのベルリン・ドイツ・オペラ、シュターツカペレ・ドレスデンなどのポストを歴任した名指揮者の一人です。
大学で心理学と脳外科を学んだ異色の経歴もあり、音楽作品の解釈に精神医学の見解も含めるようなスタイルに賛否両論はありましたが、私自身も改めて聴いてみたい指揮者の一人。
シノーポリとドレスデンのブルックナー
シノーポリの録音の中で定評があるのがマーラーの交響曲全集(1985年1月〜1994年2月)。フィルハーモニア管との首席指揮者(1984〜95年)としての活動期間を網羅するようなレコーディングです。
一方で今回紹介するブルックナーの交響曲選集(1987年9月〜1999年3月)では、ドイツの古豪オーケストラであるシュターツカペレ・ドレスデンとの演奏で、この間の1992年からドレスデンの首席指揮者に就任しています。ユニバーサル・クラシックスから分売もされていてApple Music などの配信でも聴けますが、タワーレコードが2012年6月にリリースした独自企画のVintage Collection +plus Vol.14 でこの交響曲選集がCD6枚入りでBOXになっています。
シュターツカペレ・ドレスデンといえばブルックナーにゆかりのあるオーケストラで、ブルックナーの大家でもあったドイツ出身の指揮者オイゲン・ヨッフムが2回目の交響曲全集として1975年から80年にかけてセッション録音していて、こちらの記事にあります。
また現在の首席指揮者を務めるドイツ出身の指揮者クリスティアン・ティーレマンも2012年から2019年に映像作品でライヴ録音で第1番から9番までの交響曲全集を完成させていて、こちらの記事で紹介しましたね。
シュターツカペレ・ドレスデンにとって、ヨッフム以来となったブルックナー録音がこのシノーポリとのもの。タワーレコードオンラインの説明では「発売当初から様々な意味で評判になりました」とありますし、店舗のPOPでは「迷ったらこれ」と書いてありました。
オペラの演奏で実績を遺したシノーポリがマーラーと同時に取り組んだブルックナー。それでは聴いてみましょう。
ノーヴァク版をチョイスした純音楽とドレスデンの古豪の響き
ブルックナーの交響曲で気になるのは、どのスコアを使ったか。改訂癖があったブルックナーは第2槁、3稿と書き直したものもありますし、フランツ・シャルク(第5番を改訂)、ローベルト・ハース(旧全集の校訂者)やレオポルト・ノーヴァク(新全集の校訂者)、さらにはウィリアム・キャラガン(第2番を校訂)などといった編集者によっても違いがあります。
新全集はノーヴァクが校訂したものによるいわゆる「ノーヴァク版」ですが、ブルックナー指揮者と呼ばれる方々は特に第8番の交響曲でハース版を使うなど版にこだわりがあるのも事実。
ただし、ここでのシノーポリはスタンダードなノーヴァク版を使用しています。普通と違うところは、交響曲第3番「ヴァーグナー」。よく使われる最終稿の第3稿(1890年版)ではなく、カットがされすぎていない第2稿(1877年版)を使用しています。
録音順としては第4番「ロマンティック」が1987年9月で最初。その後に第3番(1990年4月)、第7番(1991年9月)、第8番(1994年12月)と続き、ここまでがドレスデンにある聖ルカ教会でのセッション録音。そして第9番(1997年3月)、第5番(1999年3月)が今度は本拠地ゼンパー・オーパーでのライヴ録音となっています。
共通するのは、シノーポリのブルックナーへの想いと古豪のシュターツカペレ・ドレスデンの響きを最大限に引き出していること。世間で言われているようなインテリな印象は私は感じなかったですね。
録音順でいうと第4番「ロマンティック」は最初のものですしシノーポリがまだ40歳のときで勢いを感じます。牧歌的な作風の曲のはずなのに躍動感がみなぎっています。
続く第3番「ヴァーグナー」は荒々しさを引き出していて、実に雄大。
第7番は最も個性的な演奏です。穏やかな作品だと思っていたらシノーポリとドレスデン管は実に熱量が高く躍動感を持って演奏しています。第1楽章の11分あたりで急激にテンポを上げるのですが個性的。それでいて第2楽章のアダージョのクライマックスでは穏やかにしたり、第3楽章の50秒あたりではクレッシェンドの前にふっと力を抜いたり、随所にシノーポリの工夫が見られます。
第8番はノーヴァク版ですが、問題とされる第3楽章のフォルテッシモが連結するところでは細かく強弱を揺らして不自然にならないようにつなげています。第3番と同様にドレスデンの雄大さが見事。
第9番はブラスの力強さが現れています。第1楽章の12分くらいでそろりそろりと手探りのように進めるところがユニーク。
そして最後になってしまった第5番は第2楽章が絶品。心を掴むような温かさと崇高さが見事です。
企画盤だと不織布…
タワーレコードの企画盤だと、6枚のCDが不織布に入っていてちょっと安っぽさがあります。オリジナルジャケット写真がブックレットに印刷されているのですが、紙ジャケットにしてCDを入れるようにして欲しかったなぁという感想はあります。演奏自体は私の中で前評判以上に素晴らしかったので星は減らしませんが。。
まとめ
シノーポリがシュターツカペレ・ドレスデンと遺したブルックナーの交響曲集。ブルックナーを古豪のドイツのオーケストラとともに新しい視点で捉えています。
オススメ度
指揮:ジュゼッペ・シノーポリ
シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1987年9月(第4番), 1990年4月17-21日(第3番), 1991年9月23-26日(第7番), 1994年12月14-21日(第8番), ドレスデン・聖ルカ教会,
1997年3月(第9番), 1999年3月(第5番), ゼンパー・オーパー(ライヴ録音)
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試聴
Apple Music で第3番、第4番、第5番、第7番、第8番、第9番を試聴可能。
受賞
特に無し。
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