このアルバムの3つのポイント
- ヴァレリー・ゲルギエフがバイロイト音楽祭に続いて指揮したオペラ
- 鬼才クリーゲンブルによる現代的な味付けによる好演出
- 豪華な歌手陣とドラマ性を追加するゲルギエフとウィーンフィル
ザルツブルク音楽祭2019の映像作品
今回紹介するのは、2019年のザルツブルク音楽祭で演奏された、ヴァレリー・ゲルギエフ指揮、ウィーンフィルによる、ヴェルディの歌劇「シモン・ボッカネグラ」の映像作品である。
ゲルギエフのオペラといえば、同じく2019年のバイロイト音楽祭での「タンホイザー」(FC2ブログ)があるが、ゲルギエフがついにバイロイトデビューを飾り、また久しぶりにオペラを指揮したということで話題になった。演出もかなりモダンで面白かったが、ゲルギエフの指揮は躍動的で心に残る「タンホイザー」であった。
ゲルギエフは母に不幸があった直後だが
この映像作品を販売するキングレコードの説明によると、バイロイト音楽祭の初日、ゲルギエフは母の危篤情報を受け、急遽親元に帰り、タンホイザーの指揮はクリスティアン・ティーレマンが行った。そして母の最期を見届け、バイロイトに戻りタンホイザーの残りの公演を指揮したそうだ。そしてそれに続くザルツブルク音楽祭。ゲルギエフはどのような心境で指揮したのか。オペラなので最初と最後くらいしか指揮者は映像に映らないが、この「シモン・ボッカネグラ」を聴く限りでは、躍動感があり、強弱がダイナミックな指揮でいつものゲルギエフらしい。
演出・舞台・衣装もすごい
また、舞台演出も面白い。下手に原作の舞台設定に忠実にして作品をつまらなくするよりも、現代的な要素を取り入れて今の時代に合った衣装、舞台、設定にして、変えてはいけないところは変えないでおく。これが今のオペラの楽しみだと思うが、この作品で演出を務めたのが、ドイツ演劇界の鬼才と言われるアンドレアス・クリーゲンブルク。「シモン・ボッカネグラ」に現代的なスパイスを加え、登場人物にはイタリアらしい洒落たスーツを着させ、少しイタリアン・マフィアみたいな風貌にしたり、映像でSNSでの投稿画像を重ねたり、複数台のタブレットで等身大の女性の画像を作ったり、と面白い。
ルカ・サルシとマリーナ・レベカなど歌手陣のレベルもすごい
シモン・ボッカネグラ役のイタリアのバリトン歌手ルカ・サルシや、アメーリア役のラトビアのソプラノ歌手マリーナ・レベカなど、歌手陣が良い。第1幕で、シモンが行方不明になった娘マリア(アメーリアと名乗っている)と25年ぶりの再開を果たすときの2人の二重奏も感動的だし、その歌声にさらにドラマ性を付け加えているゲルギエフ指揮ウィーンフィルのオーケストラ陣もさすが。ルカ・サルシは、恰幅と存在感もあるので、シモン・ボッカネグラ役に求められる船乗り、政治家、そして父性の3つとも満たしているのではないだろうか。
まとめ
この演奏に対して、専門家の評価では
「傑出したシモン・ボッカネグラ」
イギリスのフィナンシャル・タイムズ誌
“An outstanding Simon Boccanegra”
と称賛しているが、まさに演出も見応えあり音楽も聴き応えある名演だと思う。
オススメ度
シモン・ボッカネグラ役:ルカ・サルシ(バリトン)
アメーリア(マリア・ボッカネグラ)役:マリーナ・レベカ(ソプラノ)
フィエスコ役:ルネ・パーペ(バス)
ガブリエーレ役:チャールズ・カストロノヴォ(テノール)
指揮:ヴァレリー・ゲルギエフ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
演出:アンドレアス・クリーゲンブルク
演奏:2019年8月, ザルツブルク祝祭大劇場(ライヴ)
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