このアルバムの3つのポイント
- ショルティ晩年に取り組んだショスタコーヴィチ
- ウィーンフィルを鳴らしきった快演
- 緊張感の中に浮かぶ美しい弦
ショルティの録音の中でも屈指のショスタコ5番
さぁ今日はいよいよ指揮者サー・ゲオルグ・ショルティの中でも私が特に好きな演奏を紹介します。
ショルティのオススメ10選の中でも取り上げましたが、1993年の2月のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とのドミトリ・ショスタコーヴィチの交響曲第5番ニ短調Op.47です。
ショルティ(1912-97年)は晩年の1990年からショスタコーヴィチの交響曲に精力的に取り組みました。こちらで紹介したドキュメンタリーで1977年10月の演奏会の映像がありましたが、そのときにショスタコーヴィチの交響曲第1番を既に演奏していたことが分かっています。ただ、ショルティは自伝で「長い間私はショスタコーヴィチの音楽を敬遠していた」と述べていて、旧ソ連の政府と親しくしている作曲家として認識したようでしたが、晩年になってそれが誤解だったとして作品を演奏するようになっていきます。
奇しくも1997年3月にシカゴ交響楽団を指揮した交響曲第15番の半年後に亡くなってしまったため、交響曲第1番、5番、8番、9番、10番、13番、15番の7曲の選集となってしまいましたが、それでも晩年のショルティが最後まで意欲的にショスタコーヴィチの音楽に取り組んだ姿勢はすごいことです。
ショスタコーヴィチ・ファンだとエフゲニー・ムラヴィンスキー、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ、ヴァレリー・ゲルギエフあたりのロシア系の指揮者の演奏が好まれるでしょうが、私自身はショルティアン(ショルティ・ファン)ということもあり、ショルティのショスタコーヴィチは好きです。
ウィーンフィルの美しさを引き出して鳴らしきった演奏
そしてこの1993年2月のウィーンフィルとの第5番。1997年1月にライヴでマリス・ヤンソンスとこの曲を録音したウィーンフィルですが、澄み切った蒸留水のように清らかな演奏だったのに対し、このショルティ盤はウィーンフィルを鳴らしきっています。
第1楽章モデラートの冒頭の低弦と高弦のやり取りで始まりますが、はち切れんばかりに力を込めて演奏し始める低弦にはゾクゾクする怖さすら感じます。その後に、高弦が美しくも鬼気迫る音色で応酬。弦が活躍する第5番はウィーンフィルがハマります。
第2楽章のアレグレット・スケルツォではまるで森の中で鳥が鳴いているようです。ショスタコーヴィチらしい独特の不気味なリズムがありますが、木管楽器の音色が実に伸びやか。リズムに厳格なショルティらしく、トリオでの舞踊のような拍も的確に捉えています。
そして第3楽章ラルゴ。ショルティは曲によっては性急に進んでしまう緩徐楽章もありますが、ここではしっかりと間を取っていて、オーボエによって提示される主題も象徴的です。
そして第4楽章アレグロ・ノン・トロッポはショルティらしい躍動感。ティンパニの行進曲風のリズムを金管が雄大に引き継ぎ、さらに弦が素速く演奏を加速させていきます。オーケストラを鳴らし切るこの手腕と、引き締まった速めのリズム。さすがショルティ。
まとめ
ショルティが晩年に取り組んだショスタコーヴィチ。長年のパートナーだったウィーンフィルを鳴らし切った快演です。
オススメ度
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1993年2月6, 7日, ウィーン楽友協会・大ホール
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
コメント数:1
ライヴの緊張感が伝わってきます。第3楽章が心にしみます。ショルティとウィーンフィルの組み合わせによる緩徐楽章は絶妙なバランスが感じられて好きです。この曲の第4楽章のテンポは演奏により振れ幅が大きいですが、ショルティ好きとして、この演奏にもちろん同意します!(本当は最後のコーダ部分はもうちょっとゆっくりのほうが個人的にはしっくりくるのですが)