このアルバムの3つのポイント

ベートーヴェン後期ピアノ・ソナタ集 マウリツィオ・ポリーニ(1975-77年)
ベートーヴェン後期ピアノ・ソナタ集 マウリツィオ・ポリーニ(1975-77年)
  • ベートーヴェンの演奏史に残るポリーニの金字塔
  • 圧倒的なテンポとピアニズム
  • 英国グラモフォン賞、ドイツ・エコー賞、フランス・ディスク賞を受賞!

今日は私がお気に入りのピアノソナタのアルバムを紹介します。

現代最高のピアニストの一人、マウリツィオ・ポリーニ。バロックから現代曲まで幅広いレパートリーに取り組んできたポリーニが、ピアニストのキャリアの中で長く弾いてきたのがショパンとベートーヴェン。特にベートーヴェンは「新約聖書」とも言われるピアノ・ソナタ全集を完成させていますし、ピアノ協奏曲全集も2回録音しています。

ポリーニのベートーヴェンのピアノソナタは長い長いプロジェクトとなり、1975年6月に第30番、第31番の後期ソナタから始め、2013年6月と2014年6月に収録された第16番から20番の中期のソナタのアルバムで完成。39年の年月を掛けて、32曲のピアノソナタを完成させたわけです。キャリア初期の硬いタッチによる演奏と、綻びが出つつも熟成された音楽が特徴となってきた今のポリーニでは演奏スタイルに変化が見られます。

また、CD10枚組が多いベートーヴェン・ピアノソナタ全集ですが、ポリーニ盤だと8枚組。デビュー当初から現在に至るまで基本テンポが速いため、ベートーヴェンでも異色の演奏とも言えるでしょう。

その中でも後期ピアノソナタと言われる第28番から32番のアルバムは、1975年から77年の同時期に録音され、ポリーニの演奏スタイルが一貫しています。

この時期は1977年2月のバルトークのピアノ協奏曲第1番、第2番を同じイタリア出身の盟友クラウディオ・アバド指揮シカゴ交響楽団と録音していて、こちらの記事で紹介しましたが、ポリーニとアバドの最高演奏の一つと言える出来栄えです。

この後期ソナタのアルバムは特に素晴らしく、評論家の間でも英国のグラモフォン賞を受賞した他、ドイツとフランスでも受賞した名盤。

音が硬すぎて強靭すぎるという意見もあり、私も今まではそこまで馴染めなかったのですが、聴けば聴くほどその完成度の高さに驚かされます。これほどまでの完璧なテクニックはすごいです。特に第29番「ハンマークラヴィーア」は孤高とも言える寄り付けない演奏ですが、プロでもミスタッチすることが多い第1楽章をこのテンポで、この正確さで、この力強さで演奏できるのは当時のポリーニならでは。また第3楽章のアダージョ・ソステヌートで魅せる美しさもポリーニらしいです。ベートーヴェンの演奏史を変えた金字塔と言えるでしょう。

第28番や30番、31番はもう少し柔らかさも欲しいところですが、硬いタッチ、濁りのないクリスタルのような透明感、そして強靭さは当時のポリーニの演奏スタイルで一つの頂点を作ったと言えると思います。

2019年に再録音した第30番から32番もFC2ブログで紹介しましたが、長年探求し続けたベートーヴェンの理想に近付き、77歳を迎えたポリーニの人間味も感じられる演奏で、これまた素晴らしいです。

ウィーンのムジークフェラインザールで録音された第32番は音質の違いにも注目です。他がポリーニお気に入りのミュンヘンのヘラクレス・ザールでの録音で、中規模のホールながら良好な音質。音が良い意味でこもって聴こえます。ムジークフェラインザールも音質が素晴らしいホールですが、同じ条件で聴き続けてみるとやや音が発散している気もします。オーケストラの演奏だったらムジークフェラインザールも良いですが、ピアノ独奏だとヘラクレス・ザールのほうが私は好みです。もちろん第32番も演奏は圧巻とも言える第1楽章、慈愛が込められた第2楽章とも素晴らしいですが。

ポリーニによるベートーヴェンの演奏史を変えたとも言える金字塔。これは今後もずっと聴き続けるアルバムです。

オススメ度

評価 :5/5。

ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ
録音:1975年6月(第30番、第31番), 1976年9月&1977年6月(第29番), 1977年6月(第28番), ヘラクレス・ザール, 1977年1月(第32番), ウィーン楽友協会・大ホール

iTunesで試聴可能。

1977年英国グラモフォン賞の器楽部門を受賞。また1978年のドイツ「Deutscher Schallplattenpreis」(現エコー賞)、フランス・モントルーのディスク賞(Grand Prix du Disque)を受賞。
1979年の米国グラミー賞「最優秀器楽パフォーマンス(オーケストラ無し)」にノミネートするも受賞ならず。

Tags

コメントはまだありません。この記事の最初のコメントを付けてみませんか?

コメントを書く

Twitterタイムライン
カテゴリー
タグ
1976年 (21) 1977年 (16) 1978年 (19) 1980年 (14) 1985年 (14) 1987年 (17) 1988年 (15) 1989年 (14) 2019年 (20) アンドリス・ネルソンス (19) ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (81) ウィーン楽友協会・大ホール (58) エジソン賞 (18) オススメ度2 (14) オススメ度3 (79) オススメ度4 (115) オススメ度5 (145) カルロ・マリア・ジュリーニ (27) カール・ベーム (28) キングズウェイ・ホール (15) クラウディオ・アバド (24) クリスティアン・ティーレマン (18) グラミー賞 (29) コンセルトヘボウ (35) サー・ゲオルグ・ショルティ (54) サー・サイモン・ラトル (22) シカゴ・オーケストラ・ホール (23) シカゴ・メディナ・テンプル (16) シカゴ交響楽団 (52) バイエルン放送交響楽団 (35) フィルハーモニー・ガスタイク (16) ヘラクレス・ザール (21) ヘルベルト・フォン・カラヤン (32) ベルナルト・ハイティンク (37) ベルリン・イエス・キリスト教会 (22) ベルリン・フィルハーモニー (33) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (65) マウリツィオ・ポリーニ (17) マリス・ヤンソンス (42) ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 (17) リッカルド・シャイー (21) レコードアカデミー賞 (26) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (42) ロンドン交響楽団 (14) ヴラディーミル・アシュケナージ (28)
Categories