ヴァーグナー”ヴァルキューレ” ラトル/バイエルン放送響(2019年)

ヴァーグナー楽劇「ヴァルキューレ」 サー・サイモン・ラトル/バイエルン放送交響楽団(2019年)
ヴァーグナー楽劇「ヴァルキューレ」 サー・サイモン・ラトル/バイエルン放送交響楽団(2019年)
ヴァーグナー楽劇「ヴァルキューレ」 サー・サイモン・ラトル/バイエルン放送交響楽団(2019年)
  • サイモン・ラトルのバイエルン放送響の次期首席指揮者を決定付けた「ヴァルキューレ」
  • 冒頭から驚かされる音楽の繊細さ
  • 華な歌手陣

以前の記事で紹介しましたが、バイエルン放送交響楽団の次期首席指揮者がサー・サイモン・ラトルに決まりました。まずは2023年から5年間の契約です。2019年11月末のマリス・ヤンソンス急死に伴い、首席指揮者が不在となっていたバイエルン放送響ですが、その後任がだいぶ間を空けてラトルが就くことに。ラトルといえば、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を2018年6月まで務め、並行して2017年9月からは祖国イギリスの名門オーケストラ、ロンドン交響楽団の音楽監督を務めています。ロンドン響との契約は最初3年間の2020年まででしたが、プラス3年間延長することとなり、バイエルン放送響に就任する2023年まで務めることになりました。その後はロンドン響の終身桂冠指揮者になる予定です。

祖国イギリスのポジションをチェンジしてまたドイツに戻ってくる理由として、ラトルは以下のように語っています。

My reasons for accepting the role of Principal Conductor in Munich are entirely personal, enabling me to better manage the balance of my work and be close enough to home to be present for my children in a meaningful way.

ラトルの家族はドイツのベルリンに住んでいて、2020年のコロナ禍でヨーロッパの各地でロックダウンになったとき、ラトルは家族と過ごす時間が増え、手料理も振る舞ったと言われています。仕事とのバランスを改善して、ベルリンにいる家族と一緒にいる時間を増やすため、イギリスのロンドンに本拠地があるロンドン響のポストよりも、ドイツ・ミュンヘンに本拠地があるバイエルン放送響のポストのほうが良いと判断したようです。

サイモン・ラトルは1981年からアメリカのロサンゼルス・フィルハーモニックの首席客演指揮者を務めていましたが、当時1984年まで音楽監督を務めていたのはカルロ・マリア・ジュリーニ。ジュリーニはロスフィルとの演奏を楽しんでいたようですが、最愛の妻の病気のためにロスフィルのポストを辞任し、それ以降は活動をヨーロッパに制限するようになりました。今回のラトルのバイエルン放送響に移る件との関係は分かりませんが、若い頃にジュリーニの家族を優先する姿勢を近くで見て影響を受けていたのかもしれません。

さて、今回紹介するのは、2019年1月から2月にかけて演奏会形式で演奏された、サイモン・ラトル指揮バイエルン放送響によるヴァーグナーの楽劇「ヴァルキューレ」。同じコンビで2015年4月に演奏会形式で「ラインの黄金」をライヴ録音していましたが、それに続く「ニーベルングの指環」第2弾です。ヴォータンとフリッカは「ラインの黄金」と「ヴァルキューレ」両方に登場するキャストですが、フリッカ役は今回もエリーザベト・クールマンが演じていますが、ヴォータン役は「ラインの黄金」ではミヒャエル・フォッレだったのですが、「ヴァルキューレ」ではジェイムズ・ラザフォードに代わっています。

サイモン・ラトルのバイエルン放送響の首席指揮者を決定付けた理由として、こうした「ラインの黄金」と「ヴァルキューレ」の成功もあるでしょう。

バイエルン放送響は、放送局所属のオーケストラなので、活動はもっぱら管弦楽曲や交響曲の演奏。決してオペラを演奏するオーケストラではないのですが、以前マリス・ヤンソンスも2008年にヴァーグナーの管弦楽曲集をライヴ録音していました。その時はバイエルン放送響の特徴であるスッキリとした響きで、ヤンソンスらしい円熟の音楽が醸成されていました。さて、今度のラトルとの「ヴァルキューレ」はどうでしょうか。

早速聴いてみると、第1幕への序奏から驚かされます。とても速いテンポで、細かいさざなみのようなトレモロで、バイエルン放送響の透明感ある響きで煽ってきます。ここは嵐の中、ジークムントが駆け足で森の中を逃走しているシーン。トレモロが雨粒、そしてテンポの揺らぎが、ジークムントが焦るあまり速く走ったり、逆に疲れて重くなった足取りを表しているようです。オペラを見ているわけでは無いのに、音だけでこんなに写実的に表現できるなんて。

やはり最新の録音なので、音質はめちゃめちゃ良いですね。オペラではなくて演奏会形式のため、音楽以外の雑音が全く聞こえないんです。本当にヴァーグナーの音楽だけがクリアに聴こえます。SACDでもなくSHM-CDやMQA-CDとかの高音質でもない普通のCDなのにすごいですね。

そしてこの「ヴァルキューレ」の素晴らしさは、歌手陣の豪華さ。ジークムント、ジークリンデ、ヴォータン、ブリュンヒルデなど、主要なキャストを含めて歌声が素晴らしいです。以前の2003年のベルリンフィルとの「フィデリオ」の録音を聴いたときには、ラトルは管弦楽曲のほうが得意でオペラはイマイチだと思っていたのですが、この「ヴァルキューレ」では考えが変わります。

次期首席指揮者サー・サイモン・ラトルとバイエルン放送交響楽団の相性の良さを感じさせる名演。ラトルはオペラ指揮者では無いと思っていたのですが、こういう演奏もできるのですね。恐れ入りました。

オススメ度

評価 :5/5。

ジークムント役(テノール):スチュアート・スケルトン
フンディング役(バス):エリック・ハーフヴァーソン
ヴォータン役(バリトン):ジェイムズ・ラザフォード
ジークリンデ役(ソプラノ):エヴァ=マリア・ウェストブルク
ブリュンヒルデ役(ソプラノ):イレーネ・テオリン
フリッカ役(メゾ・ソプラノ):エリーザベト・クールマン
指揮:サー・サイモン・ラトル
バイエルン放送交響楽団
録音:2019年1月29日-2月10日, ヘラクレス・ザール(ライヴ)

【タワレコ】ワーグナー: 楽劇《ワルキューレ》(CD4枚組)

iTunesで試聴可能。

特に無し。

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