このアルバムの3つのポイント
- ショルティが晩年に取り組んだショスタコーヴィチの交響曲選集の第一弾
- シカゴ・オーケストラ・ホールでのライヴ録音
- 漂う緊張感、オーケストラのパワフルさ
ショルティが晩年に取り組んだショスタコーヴィチ
ハンガリー出身の20世紀の名指揮者サー・ゲオルグ・ショルティ(1912ー97年)は、晩年になってショスタコーヴィチの作品に精力的に取り組んでいます。
ショルティのドキュメンタリー映像「人生の旅 (Journey of a Lifetime)」では1977年10月のシカゴでの演奏会の映像も付いていて、こちらの記事で紹介したように、ムソルグスキーの歌劇「ホヴァンシチナ」より前奏曲、プロコフィエフの交響曲第1番「古典交響曲」、そしてショスタコーヴィチの交響曲第1番を演奏していました。
ただ、ショルティがショスタコーヴィチに本格的に注力したのは1980年代末からです。ショスタコーヴィチの交響曲は第8番(1989年2月、シカゴ交響楽団)、第9番(1990年5月、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団)、第10番(1990年10月、シカゴ響)、第1番(1991年9月、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団)、第5番(1993年2月、ウィーンフィル)、第13番「バビ・ヤール」(1995年2月、シカゴ響)、そして交響曲第15番(1997年3月、シカゴ響)という順で7曲が録音されました。
ショルティが亡くなる1997年に書かれた自伝では、「残りの8つの交響曲も取り上げたいと思う」と書いており、もっと長生きすれば全曲を録音できたでしょう。ショスタコーヴィチの作品では人気の交響曲第7番「レニングラード」や、前衛的な第4番が無いのが惜しまれます。
米国グラミー賞を受賞した2008年5月のベルナルト・ハイティンク指揮シカゴ響の交響曲第4番のライヴ録音はとてつもなくスケールの大きなどっしりとした演奏でした。これがショルティとのコンビだったらどうなっていたのか、聴いてみたかったですね。
ただ晩年になってからのショルティが7つも録音されたのは嬉しいこと。こちらの記事で1993年2月のウィーンフィルとの第5番の録音を紹介しましたが、今回は1989年2月のシカゴ響との第8番についてです。
漂う緊張感、米国オーケストラの強み
戦争交響曲と呼ばれるショスタコーヴィチの交響曲のうち、第5番や7番、10番ではなく、敢えて8番というメジャーでない作品を最初に選んだショルティ。まず第1楽章の序奏から驚かされます。低弦がはち切れんばかりに力強く奏で、不気味な雰囲気を漂わせ、さらに美しい高弦が加わり、辺りに緊張感が漂います。シカゴ響の持つ弦の美しさが鎮痛さをえぐり出しています。第3主題でのタタッ タタタ という独特なリズムをはっきりと出し、不吉さが増幅されていきます。そして金管が奏でる第2主題は強烈で、さすが米国のオーケストラ。行進曲風のフレーズへと移るとトゥッティでパワフルさが全開になります。
この交響曲で第1楽章が最も長く、一番聴き応えがありますが、ショルティ/シカゴ響の演奏も然り。ただ、第2楽章アレグレットでの弾けるような躍動感、第3楽章アレグロ・ノン・トロッポでの正確なリズムで刻むトッカータ、第4楽章ラルゴの燃え盛るような爆発と後半の内省的な静けさ、第5楽章アレグレットでの牧歌的な束の間の休息から、消えるように徐々に徐々に静かに終わっていくところなど、全楽章でショルティの特徴であるリズムとオペラを基盤にする表現力が感じられます。
ショスタコーヴィチを得意とする旧ソ連・ロシア出身の指揮者とは違いますが、ショルティのアプローチは説得力があり、さすがだと思います。
まとめ
ショルティが晩年に取り組んだショスタコーヴィチの交響曲作品の第一弾。敢えて第8番という人気がそこまで無い作品を、緊張感漂う劇的な表現とシカゴ響が持つパワーで描いた1枚。米国のオーケストラならではのショスタコーヴィチ演奏の一つでしょう。
オススメ度
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
録音:1989年2月, シカゴ・オーケストラ・ホール(ライヴ)
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試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
特に無し。
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