このアルバムの3つのポイント
- ダウスゴーとベルゲンフィルのブルックナー・チクルス第1弾
- 従来のイメージをくつがえす、突き進む圧倒的な演奏
- 音楽之友社の名曲名盤500+100でブルックナーの交響曲第6番のアルバムで第1位の評価
ダウスゴーとベルゲンフィルによるブルックナー・チクルス
デンマーク出身の指揮者トーマス・ダウスゴーはノルウェーのベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団とブルックナーの交響曲チクルスに取り組んでいて、第1弾が2018年6月の第6番、そして第2弾がこちらの記事で紹介した第3番「ヴァーグナー」(2019年6月)、さらに2020年1月が第4番「ロマンティック」と続いています。
重厚さやゆったりとしたテンポで演奏されることが多かったドイツ・オーストリアのブルックナーの解釈とは一線を画す演奏で快進撃を続けているこのコンビ。私の中ではフランス出身の鬼才指揮者フランソワ=グザヴィエ・ロトとドイツのオーケストラケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団によるコンビと共に、ブルックナーに新風をもたらしてくれて、期待しています。
「目から鱗」の評価で名曲名盤500+100で第1位
レコード芸術の評者によるオススメの録音を紹介する名曲名盤500+100。比較的最近の録音を入れました。
ブルックナーの交響曲第6番のアルバムで第1位となったのがこのダウスゴー盤。8人の選者のうち2人が3ポイント(1位)、1人が1ポイント(3位)、そして5人が0点でトータル7ポイントで第1位。3ポイントを付けた安田氏のコメントでは「この録音で初めて第6番のあるべき姿を耳にしたと感じる。目から鱗の演奏」と評しています。
新時代の名曲名盤500+100のブルックナー交響曲第6番で第1位を獲得
新風の評価は分かれるか
プロの音楽評論家が推したアルバムとは言え、8人のうち5人もこの録音に点を入れなかったことがブルックナーの複雑さを表しています。
確かにダウスゴーの解釈は斬新。速めのテンポで押し進む第1楽章はまるでホルストの組曲「惑星」の中の「火星、戦争をもたらす者」のような緊張感と激しさがあります。この曲にこんな一面があったのは新発見ですが、一方で従来のブルックナー演奏で多かった、ゆったりとしたテンポで旋律をじっくり引き出す側面は失っています。やっぱりテンポを速くすると旋律のディテールを残ってしまうので難しいところ。第2楽章での密度の高いアンサンブルでの美しさは実に見事です。
私はこの曲に関しては、セルジュ・チェリビダッケが晩年にミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮したときのような、じっくりとしたテンポで音楽が有機的に絡み合う演奏が好みなので、正直このダウスゴー盤はベストだとは思えませんでした。
巨大な対比法の傑作、交響曲第5番を完成させてから1年8ヶ月以上経ってから作曲に着手した第6番はブルックナーにとっても初期の交響曲とは違う実りある中期へと入っていた時代。
ダウスゴーとベルゲンのこうした速めのテンポで、重厚感よりも北欧の空気感、スマートさを持つアプローチだと、ブルックナーの初期の交響曲のほうが合うのではと感じます。次のチクルスで録音された第3番「ヴァーグナー」では第1稿のスコアを採用したこともあり、洗練される前のブルックナーの初期の時代の雰囲気が出ています。こちらのほうがオススメしたいです。
まとめ
ダウスゴーとベルゲンフィルによるブルックナー・チクルス第1弾。これまでの第6番のどの演奏とも違う新しい風をもたらす快進撃ですが、好みかどうかは割れるところでしょう。
オススメ度
指揮:トーマス・ダウスゴー
ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2018年6月, グリーグ・ホール
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試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
特に無し。
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