このアルバムの3つのポイント

マリス・ヤンソンス ラスト・コンサート
マリス・ヤンソンス ラスト・コンサート
  • 2019年11月8日、マリス・ヤンソンス最後のコンサート
  • カーネギー・ホールでのR.シュトラウスとブラームス
  • 涙が止まらなくなる儚い美しさ

2019年11月8日。この日は現代のクラシック音楽の世界にとって、記念すべき日として語り継がれるだろう。このとき、バイエルン放送交響楽団と首席指揮者マリス・ヤンソンスは米国に演奏ツアーに出ていた。11月1日にドイツ・ケルンのフィルハーモニーで演奏したのと同じプログラムを引っさげて、初日の11月8日、ニューヨークのカーネギー・ホールで演奏を行った。体調が悪かったと言われているマリス・ヤンソンスは、初日こそ公演をこなしたが、翌日以降は全てキャンセル。そして、その3週間後の11月30日、ロシア・サンクトペテルブルクの自宅で亡くなった。

ちょうど1年前になるが、2019年11月8日は、マリス・ヤンソンスが指揮した最後のコンサートとなったのだ。

マリス・ヤンソンスが亡くなってからも、未発表の音源が続々とリリースされているので、今でも初耳のヤンソンスの演奏を毎日のように聴けるのだが、このカーネギー・ホールでのコンサートは、これ以降が無い本当に最後の演奏。ヤンソンスが命を削ってまで指揮したプログラムは、

  • R. シュトラウス 歌劇「インテルメッツォ」からの4つの交響的間奏曲 Op.72
    1. 出発前の騒動とワルツの情景
    2. 暖炉の前の夢
    3. カードゲームのテーブルで
    4. 更に元気な決断
  • R.シュトラウス「4つの最後の歌」 (ソプラノ:ディアナ・ダムラウ)
  • ブラームス 交響曲第4番 ホ短調 Op.98
  • 【アンコール】ブラームス ハンガリー舞曲第5番 ト短調(パーロウ版)

であった。

この演奏会のレコーディングがバイエルン放送響の自主レーベルBR Klassikから「Mariss Jansons His Last Concert Live at Carnegie Hall」、日本語での流通では「マリス・ヤンソンス ラスト・コンサート」というタイトルで2020年11月5日にリリースされたが、この演奏はアメリカのラジオ局WQXRとカーネギー・ホールから許可をもらってリリースできたものらしい。本当に感謝したい。

ただ、「4つの最後の歌」はアルバムから除外されている。理由は2つあるのだろう。1つ目は、全曲で20分ぐらい掛かるこの曲を入れるとCDを2枚に分ける必要があること、そして2つ目は、ディアナ・ダムラウとヤンソンス/バイエルン放送響の「4つの最後の歌」は2019年1月21〜25日にヘラクレス・ザールで録音したものが既にEratoレーベルからリリースされていること。せっかくなのでコンサートを全て収録しておいて欲しかったのだが、あまり贅沢を言ってもしょうがない。

マリス・ヤンソンス ラスト・コンサートのCD
マリス・ヤンソンス ラスト・コンサートのCDと付録のブックレット

また、このCDには特典が付いていて、マリス・ヤンソンスとバイエルン放送交響楽団のコンビによる2003年から2019年までの全ての演奏会、レコーディングの情報が書かれたブックレットが含まれている。これまでどういう作品を取り上げてきたのか、どういうところで演奏を行ってきたのかが書かれており、とても興味深い。

プログラムの最初は、リヒャルト・シュトラウスの歌劇「インテルメッツォ」Op.72から、4つの交響的間奏曲。最後のコンサートでもヤンソンスが得意とするR.シュトラウスが聴けてとても嬉しいのだが、バイエルン放送響の研ぎ澄まされた美しさで色とりどりの音色を聴かせてくれる。

中でも、第2曲の「暖炉の前の夢」は涙腺がゆるむ美しさ。

そしてプログラム後半はブラームスの交響曲第4番。2012年にブラームスの交響曲全集をバイエルン放送響と完成させていたヤンソンスだが、そのときの第4番とは全く違う。

冬空にひらりひらりと雪が舞い降りるように、極限の美と切なさで演奏される第1楽章。温かいホルンから始まる第2楽章は、穏やかで心癒される。第3楽章はハツラツとして、勇ましい。

第4楽章はゆっくりとしたテンポで、じっくり噛みしめるような演奏。聴いていてこれまでのヤンソンスの思い出が走馬灯のように駆け巡る。今までバイエルン放送響と透き通った美音でいくつもの名演を聴かせてくれたが、ブラームスがこんなに切ないものだとは…聴いていて涙が止まらなくなった。

演奏後には聴衆から温かい拍手と、ブラボーの掛け声。

拍手に応えてアンコールで演奏したのは、ハンガリー舞曲第5番。演奏が始まってハンガリー舞曲だと分かった途端、演奏中なのに聴衆が「うわーおー」と歓声と拍手を贈っている。このハンガリー舞曲も儚い美しさが際立った。

演奏後も、カーネギー・ホールの聴衆から温かい拍手と、何度もブラボーをもらっていた。永遠に鳴り止まないような拍手がフェードアウトしていくところで、「あぁ、もう最後なんだ」という思いが増してまた哀しくなってくる。

2021年1月5日に日経新聞にこのディスクのレビューが掲載された。

(中略)最後まで全力を出し尽くした熱演は、音楽に身をささげた指揮者自身が表現されているようだった。

マリス・ヤンソンスの最後のコンサート。こんなに儚くて美しい音楽を聴けるのは何とも幸せなこと。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:マリス・ヤンソンス
バイエルン放送交響楽団
録音:2019年11月8日, アイザック・スターン・オーディトリウム / ロナルド・オー・ペレルマン・ステージ、カーネギー・ホール(ライヴ)

【タワレコ】『マリス・ヤンソンス、バイエルン放送響 ラスト・コンサート』2019年11月8日 カーネギーホール


Tunesでアルバムの試聴可能。また、バイエルン放送交響楽団公式YouTubeサイトでブラームスの交響曲第4番の動画を視聴可能。

特に無し。



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