本とクラシック音楽の第2弾
前回の記事「【本とクラシック音楽】井上靖『氷壁』とR.シュトラウス『アルプス交響曲』」で書籍と合うクラシック音楽を紹介しました。
夏になると冷房の効いた部屋で本を読みたくなるもの。
第2弾は武者小路 実篤の『愛と死』とリヒャルト・ヴァーグナー作曲の楽劇『トリスタンとイゾルデ』の組み合わせです。
『愛と死』と『愛の死』
『愛と死』は日中戦争最中の1939年に発表され、軍国主義が強まる暗い時代に、純粋な愛と命の尊さを描いた作品で、戦争によって奪われる若い命への切なさを込めた作品。反戦の姿勢を取り、文学で抵抗していた武者小路なので、同じく圧制に屈しなかったショスタコーヴィチの交響曲第7番や9番あたりが合う気もしますが、ここはストレートに『愛と死』とタイトルが似ている『愛の死』を持つトリスタンとイゾルデにしましょう。武者小路は後に軍国主義に抗えず太平洋戦争では体制に迎合することになります。

『愛と死』では、主人公の新進小説家の村岡が21年前を振り返って語り始めます。尊敬する先輩で、友人でもある小説家の野々村、そして野々村の妹・夏子が主な登場人物。村岡は夏子と親交を育み、村岡がパリへ行って戻ったら結婚する約束をしていました。美しい恋の結晶が突然割れるように、夏子は病気で急死してしまいます。死に目にも会えず帰国して帰ってきた村岡は、歓迎会でこう語ります。
「死んだものは生きている者に対して、大いなる力を持つが、生きているものは死んでいる者に対して無力である」
亡くなった者は今生きている者の心に残りますが、その逆の無力さを語った村岡。
亡くなった者は今生きている者の心に残りますが、その逆の無力さを語った村岡。
『お目出たき人』や『真理先生』といった底抜けに平和な作品と比べて、天から地へと落下するような深い悲しみに引きずられるのがこの『愛と死』。文字通り『愛』と『死』です。
ベームのライヴ盤で聴くトリスタン
『トリスタンとイゾルデ』と言えば、カルロス・クライバーのゾクゾクする名盤が真っ先に思い浮かびますが、ここでは敢えてカール・ベームがバイロイト音楽祭でライヴ録音したアルバムを紹介します。
レコードアカデミー大賞を含む各国で受賞 カール・ベーム、バイロイト音楽祭での『トリスタンとイゾルデ』(1966年)
骨太のヴァーグナーですが、ライヴならではのベームの熱さも感じられます。
トリスタンの演奏時間は3時間半ぐらいありますが、『愛と死』は文庫で110ページほど。1時間ぐらいで読めてしまうので、曲のほうが途中で本が終わってしまう可能性も。ぜひクライマックスの夏子の悲報のときにトリスタンの第3幕の『愛の死』が流れるように調整しましょう。目でも耳でも悲しみに浸れます。
イゾルデの腕の中でトリスタンは亡くなり、それを追うようにイゾルデも息を引き取るのですが、死後の世界では愛を成就できたのでしょうか。一方で愛と死では、夏子の死後も村岡は生き続けていきます。これが武者小路実篤の当時の人々に込めたメッセージでしょう。
本とクラシック音楽、次もお楽しみに。





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