今回紹介するのは、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団によるマーラーの名盤。マーラーがあまり演奏されない時代もありましたが、クラウディオ・アバド、サイモン・ラトル、そしてキリル・ペトレンコと、直近の首席指揮者ではマーラーの作品が演奏会の中心に。そしてマーラーを得意とする客演指揮者にも恵まれ、ベルリンフィルのマーラーは現在進行中で進化しています。
どうせ聴くなら世界最高峰のオケで聴きたい。そんなベルリンフィルのマーラーの名盤を紹介していきます。
ジョン・バルビローリ/マーラー交響曲第9番 (1964年)
ベルリンフィルが感動し、レコーディングが実現
最初に紹介するのは、イギリスの指揮者ジョン・バルビローリと1964年1月に録音された交響曲第9番。60年代は、レナード・バーンスタインやゲオルグ・ショルティといった指揮者がマーラーの演奏、録音で盛り上げていましたが、ベルリンフィルはどうでしょう。楽団長の熱望で1963年1月にベルリンフィルを客演し、交響曲第9番を指揮したバルビローリ。終演後、20分もの間拍手が鳴り止まなかったと言われる名演で、感動したオケは同じコンビで翌年レコーディングが実現されました。私は60年代のベルリンフィルの響きが好きなのですが、そのオケでマーラーを聴けるのは幸せなこと。録音では自発的なオケの姿勢が伺えてやや前のめりなところもありますが、マーラーを生き生きと演奏しています。第4楽章は歌うような伸びやか。ベルリンフィルのマーラーを語る上で必聴のアルバムです。
ヘルベルト・フォン・カラヤン/マーラー交響曲第5番 (1973年)
カラヤン初のマーラー録音。批評家には酷評されるもアダージェットは有名に
続いて紹介するのは長い間首席指揮者を務めたヘルベルト・フォン・カラヤンとのもの。ユダヤ人作曲家の音楽をあまり指揮しなかったカラヤンですが。1973年2月に初めてマーラーの交響曲を録音しました。演奏会の前に2年もの準備期間で試し録音や曲の解釈変更などを経た第5番。天下のベルリンフィルもここではマーラーに不慣れなのか、第1楽章からどこか手探りな感じがして曲の流れもちぐはぐ感は否めないですが、第4楽章のアダージェットは格別の美しさ。カラヤン没後にリリースされたアルバム「アダージョ・カラヤン」は500万枚以上のベストセラーになりましたが、そこに収録されて有名になった1曲。クラシック音楽の垣根を超えてマーラーの音楽が広まりました。
レナード・バーンスタイン/マーラー交響曲第9番 (1979年)
バーンスタインがベルリンフィルを指揮した唯一のコンサート。没後にリリースされたアルバムはグラミー賞獲得
カラヤンとライバル視されたレナード・バーンスタインがベルリンフィルを指揮する機会がついに1979年10月に訪れました。ベルリン芸術週間での演奏会で、バーンスタインが得意とするマーラーの交響曲第9番。放送用音源からバーンスタイン没後にCD化されてリリースされたアルバムは、日本のレコード・アカデミー賞、米国グラミー賞を受賞。ライヴ録音なのでキズもありますが、濃厚な語り口でバーンスタインがマーラーへの世界といざなってくれます。
ヘルベルト・フォン・カラヤン/マーラー交響曲第9番 (1982年)
カラヤン2回目の第9番、そしてライヴ録音
バーンスタインとの演奏会が1979年10月、その直後の1979年11月から1980年2月、9月と区切ってカラヤンはマーラーの交響曲第9番をセッション録音をおこないました。そちらもカラヤンらしからぬ濃厚な語り口でしたが、1982年9月に第9番を再録音します。演奏会でのライヴ録音で、より自然体な流れになったのが特徴。日本のレコード・アカデミー賞、英国グラモフォン賞を受賞しています。
クラウディオ・アバド/マーラー交響曲第1番『巨人』 (1989年)
ベルリンフィルとの新たな門出
カラヤンが首席指揮者を退任し、直後に亡くなった後。ベルリンフィルは次の首席指揮者をオーケストラ団員の投票で選びました。選ばれたクラウディオ・アバドは1989年12月の就任コンサートでマーラーの交響曲第1番『巨人』を指揮しました。指揮者とオーケストラをカラヤンの独裁的なスタイルから民主的な関係に変え、ベルリンフィルが伸び伸びと自発的に演奏しています。こちらはベルリンフィルのデジタル・コンサートホールに映像もあります。
ベルナルト・ハイティンク/マーラー交響曲第3番 (1990年)
ベルリンフィル初の交響曲全集になるはずが…
続いて紹介するのは、ベルリンフィルに多く客演したベルナルト・ハイティンク。フィリップス・レーベルでベルリンフィルとマーラーの交響曲全集を企画していましたが、途中で頓挫。第1番から7番、そして第10番のアダージョが録音されました。第3番は1990年12月の録音で、演奏会の映像もデジタル・コンサートホールにあります。巨匠となったハイティンクによる、巨大な伽藍堂のような建造物を見るようです。オランダのエジソン賞を受賞。
サイモン・ラトル/マーラー交響曲第10番 (1999年)
ラトルの代名詞。クック補筆版第3稿第2版を採用した5楽章による第10番
アバドの後任として2002年に首席指揮者に就くサイモン・ラトルですが、代名詞とも言えるアルバムが就任前の1999年9月のライヴ録音。マーラーの交響曲第10番は第1楽章が書き上げられた第2楽章以降はスケッチ止まりでしたが、研究者が補筆をおこなってきました。クックによる補筆版は1989年に第3稿の第2版が公開され、ラトルはそれを採用しています。ラトルが引き出したベルリンフィルの力強さと特に弦の美しさは見事ですし、フィナーレの壮大さや静かに消えていくその表現力に圧倒されます。英国グラモフォン賞、米国グラミー賞、オランダのエジソン賞を受賞した名盤。
サイモン・ラトル/マーラー交響曲第5番 (2002年)
首席指揮者就任コンサートでのライヴ録音
2002年9月にベルリンフィルの首席指揮者に就任したサイモン・ラトル。前任のアバドが就任コンサートでマーラーの交響曲第1番を取り上げたように、ラトルは第5番を指揮しました。オーケストラとのコミュニケーションを重視するラトルと、ベルリンフィルの新時代を感じさせてくれます。ラトルは第2番『復活』とかだとクセが強めですが、この第5番は過不足も無く聴きやすい演奏でもあります。ドイツのエコー賞とオランダのエジソン賞を受賞。
現在進行中のベルリンフィルのマーラー。映像で観る時代へ
そして今の首席指揮者のキリル・ペトレンコともマーラーを演奏してきているベルリンフィル。ペトレンコ自身が録音をあまり出さないスタンスですし、音源よりも演奏会をそのまま体験できるデジタル・コンサートホールでの映像へとシフトしてきています。ペトレンコとは2020年1月の交響曲第6番『悲劇的』、2022年8月の第7番、2025年5月の第9番、そして2026年1月の第8番がデジタル・コンサートホールで観られます。第6番はベルリンフィルの自主レーベルからCD化もされています。密度が高いアンサンブルと爆発するかのような激しさを持つペトレンコのマーラーには中毒性がありますね。
さらに、グスターボ・ドゥダメル、アンドリス・ネルソンス、トゥガン・ソヒエフ、ダニエル・ハーディングなど、客演する指揮者とのマーラーも名演ばかり。
ベルリンフィルのマーラーはまさに現在進行中ですが、こうして往年の名盤を堪能するのも良いですね。
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