このアルバムの3つのポイント
- ポリーニのショパン・バラード全集
- これまでのショパン像を覆す、雄大でドラマティックな演奏
- レコードアカデミー賞受賞
ショパンの4つのバラード
ショパンの4つのバラードは、ピアニストにとって登竜門だろう。どれも大曲だし、難易度も高い。さらに穏やかな曲想と激しい曲想とが対比したドラマになっていないといけない。私もアマチュアの分際ながら、第2番と第3番はそれぞれ1年ずつ練習し発表会でも演奏した。本番ではスタインウェイのピアノで弾いたのだが、聞こえないぐらいの弱音でそっと呟くように弾き、クライマックスでは大音量でも品のある響きで感極まる音色が出た。文化施設にあるピアノなので、そこまで高い部類のスタインウェイでは無いのだが、これまで練習で使っていたピアノと別格で大層驚いたものだった、
ポリーニが1999年にショパンのバラード4曲を録音
現代最高のピアニストの一人、マウリツィオ・ポリーニは、1999年4月にミュンヘンのヘラクレス・ザールで4つのバラード全曲を録音している。1849年に死去したフレデリック・ショパンの没後150周年にあたり、世界各地でショパン・アニバーサリーのイベント、演奏が行われた。ポリーニはこのアニバーサリー・イヤーには来日演奏はしていないが、2001年に来日リサイタルを行ったときは、このCDに収録されていた4つのバラード、前奏曲遺作Op.45、幻想曲Op.49を含めたプログラム(プログラムB)をサントリーホールで演奏している。
これはオペラだ
4つのバラードとも共通しているのは、まるでヴァーグナーのオペラを聴いているかのようなドラマティックさ。ショパン演奏と言えば、まるでサロンで演奏されるような優雅で気品があって、というイメージがあるが、このポリーニの演奏はそれを覆すようなインパクトがある。低音部をガンガン響かせ、高音部もベチャッとしているので、ソプラノが歌うというよりは男声的な演奏になっている。バラードでこれだけドラマティックに弾いたのはあまり聴いたことがない。
バラード第1番は力強くて4曲の中では一番ポリーニと手が合っているように思える。硬質なタッチで完璧な演奏が特徴だった1970年代、80年代前半までのポリーニの演奏と違い、1999年のこの演奏はペダルが長めだし、丸みを帯びたタッチで音がレガートにつなげられている。
バラード第2番は静と動の対比が見事。そよ風が吹く穏やかな風景に、突然雲行きが変わり、嵐がやって来る。ポリーニの嵐は容赦がない。ようやく再び穏やかになり、元の旋律に戻るのだが、嵐も風力を増してまた襲ってくる。ただ、ポリーニも30代、40代で見せたような完璧さはなく、ほんの少し、ほんの少しだけもっさりとしている。壊滅的にやられた後、風もぱたっと止まって曲が終わる。
特にすごいのはバラード第3番。私個人的には、ヴラディーミル・アシュケナージの1964年の録音や、クリスチャン・ツィメルマンの1987年録音のような、「水の精」と表現したくなるみずみずしさがある演奏が好みなのだが、このポリーニの演奏は、序盤に「うぉ」という掛け声も聞こえるし、クライマックスで激しい音の渦に飲み込んでくる。ヴァーグナーのヴァルキューレ並の激しさだ。
バラード第4番は前半でもっとしんみりとした演奏が私としては好みだが、ポリーニの演奏はささっと行ってしまう。ただ、ここでもクライマックスでの荒波が襲ってくるかのような表現はすごい。
まとめ
ショパンの名曲バラード4つを、圧倒的なピアノと表現力で聴ける1枚。これはピアノによるオペラだ。
オススメ度
ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ
録音:1999年4月, ヘラクレス・ザール
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【タワレコ】ショパン:4つのバラード/4つのスケルツォ(SHM-CD)試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
1999年度日本のレコードアカデミー賞「器楽曲部門」を受賞。
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