このアルバムの3つのポイント
- 現代最高のコンビ、ネルソンス×ボストン響のショスタコーヴィチ!
- 速いテンポで緊張感漂う怒涛の第4番
- グラミー賞受賞!
今最も勢いがある指揮者、アンドリス・ネルソンス
今最も勢いがあると言える指揮者は、アンドリス・ネルソンスだろう。2014年から米国の名門、ボストン交響楽団の音楽監督を務め、この輝かしい歴史があるオーケストラに再び光を当てている。5年間だった契約も、延長されて2022年までを予定している。その一方で、2017年からライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスターも並行して務めている。さらに2017年から2019年に掛けてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してベートーヴェンの交響曲全集を完成。こちらも日本でレコードアカデミー賞を受賞したり、レコード芸術のリーダーズチョイスに選ばれるなど、評価が高い。さらに2020年にはウィーンフィルのニューイヤーコンサートにも登壇。契約しているレコード会社のドイツ・グラモフォンが今最も熱い期待を掛けている指揮者がネルソンスだろう。
ボストン交響楽団を生き生きとさせるネルソンス
私も仕事でボストンに出張することがあり、その時は必ずスケジュールを調整して、ボストン・シンフォニー・ホールに行ってボストン響の演奏を聴くようにしている。滞在する1週間のうち、コンサートがある日で、できるならネルソンスが指揮するコンサートで選んでいる。
昨年2020年は1月23日の定期コンサートでドヴォルザークの「新世界より」を中心とする演奏を聴いてきて(FC2ブログ記事はこちら)、2018年1月18日の定期コンサートでは、マーラーの交響曲第3番の演奏を聴き(FC2ブログ記事はこちら)、そして2017年1月19日の定期コンサートでは、ネルソンスが不在の週だったので代わりにファンホ・メナが指揮するチャイコフスキーの交響曲第4番を中心とする演奏を聴き(FC2ブログ記事はこちら)、そして2016年11月12日は、猛烈な大絶賛を浴びたピアニストのエレーヌ・グリモーがソロを務めたブラームスのピアノ協奏曲第1番と、ネルソンス指揮によるブラームスの交響曲第2番の演奏を聴いた(FC2ブログ記事はこちら)。
ただ、新型コロナの感染拡大が収束しないのを受けて、今年はボストン出張が無しになり、ミーティングも全てオンラインになってしまった。しかたがないが、こういうときだからこそ、今までのネルソンスとボストン響の録音を再確認する好機と捉えよう。
当初はショスタコーヴィチの交響曲選集だった予定が…
ボストン響には自主レコード・レーベルのBSO Classicsがある。ボストン響のライヴ演奏は基本的にこの自主レーベルからリリースされている。例えば、先日紹介したネルソンスとボストン響のブラームスの交響曲全集はBSO Classicsから出ている。
ただ、ネルソンスはドイツ・グラモフォンと契約している指揮者でもあり、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団とのブルックナーの交響曲のレコーディングはドイツ・グラモフォンからリリースされている。ネルソンスとボストン響のレコーディングについても、ショスタコーヴィチの交響曲選集(第5番から第10番)と、管弦楽作品を加えた5枚のアルバムについてはドイツ・グラモフォンからリリースする契約をしていたらしい。しかし、第1弾の交響曲第10番の録音が2015年の米国グラミー賞を受賞するほどの好評だったため、ショスタコーヴィチの交響曲選集という企画から交響曲全集へと変更されたようだ。
グラミー賞3度目の受賞となったネルソンスのショスタコーヴィチ録音
すごいのはショスタコーヴィチの交響曲の第2弾のレコーディング(交響曲第5番、第8番、第9番)も2016年の米国グラミー賞を受賞したこと。2年連続のグラミー賞受賞となっている。
そしてショスタコーヴィチ第3弾となるのが今回紹介する2018年の交響曲第4番と2017年の交響曲第11番「1905年」のライヴ・レコーディング。これが2018年の米国グラミー賞を受賞し、ネルソンスにとっては3度目の受賞となった。ショスタコーヴィチの交響曲で3つリリースして3回とも受賞とは快挙だ。
ショスタコーヴィチの交響曲第4番
交響曲第4番は3楽章から構成される作品だが、このディスクでは第1楽章のAllegretto poco Moderatoがトラック1、Prestoがトラック2、そして第2楽章がトラック3、第3楽章のLargoがトラック4、Allegroがトラック5に分かれて、同じ楽章でも曲想が違うところで区切って収録されている。このほうが頭出しがしやすい。
第1楽章Allegrettoは驚くほど速い。これまでベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団(2008年)とマリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団(2004年)のレコーディングを聴いていたが、どちらもゆったりとしたテンポだったので、この交響曲はこういう音楽なんだと思っていた。しかしこのネルソンス盤は冒頭から強烈な印象を与えてくれる。ハイティンクとシカゴ響ほどの頭をかち割るような迫力は無いが、速いテンポで緊張感が漂い、怒涛のように音楽が流れていく。しかし何とも音質が良い録音だろう。第1楽章のPrestoに入ると、ものすごいテンポの速さで突っ走る。爽快感すら漂うほど、ボストン響の名技が光っている。
第2楽章は緩徐楽章らしくふっと一息付けるのだが、何とも怪しい雰囲気が漂う。ネルソンスのショスタコーヴィチはやはり、うまい。オーケストラのあちこちで楽器が鳴るのだが、聴いていてバランスが良い。
第3楽章のLargoはまた、何とも不気味なこと。今まで疾走していた音楽がここで急に停滞する。しかしネルソンスとボストン響は集中力を持って決して音楽を止めることが無い。そしてそのまま続くAllegro。徐々に、徐々に、音楽はヒートアップしていき、最高潮に達したと思ったらふざけたパロディのような音楽になり、肩透かしを食らうのだが、これがいかにもショスタコーヴィチらしい。ネルソンスとボストン響は高い集中力で真面目にこの作品を演奏していく。しかしようやく訪れるクライマックスではボストン響のスケールに驚く。
ショスタコーヴィチ 交響曲第11番「1905年」
交響曲第11番は「1905年」というタイトルが付いている。1905年にあった、「血の日曜日事件」という、ロマノフ王朝に懇願して行進した無防備の民衆に対して、軍隊が銃撃し1000人以上が犠牲になった出来事を題材としている。第10番までの交響曲と比べて、第11番以降はかなり難解になっていくショスタコーヴィチの交響曲だが、だからこそ繰り返し聴いて理解できるようになりたいものだ。
アンドリス・ネルソンスとボストン交響楽団はこのショスタコーヴィチの交響曲第11番を2017年の9月と10月にかけて、ボストン・シンフォニー・ホールでライヴ録音している。2017年11月にネルソンスとボストン響が来日公演をおこなっているのだが、そこでも11月7日のサントリーホールでこの交響曲第11番が演奏されている。その来日公演のレビューは日経新聞での山崎浩太郎氏の批評記事にあるが、そこでは
若いせいもあるのか、凄惨さと痛みの表現はあまり強調されず、より古典的、純音楽的な側面が、機能的な響きによってきわだっていた。
と評していた。
確かにこのレコーディングを聴いてみると、交響曲第4番の後で聴くと小粒な印象を受ける。そこまで悲惨さはそこまで感じられないが、ボストン響の名技とスケール感で圧倒される音楽、美しさを生み出している。特に第2楽章「1月9日」のクライマックスや、第4楽章「警鐘」のヴィルトゥオーソぶりは圧巻だ。
まとめ
両曲ともアンドリス・ネルソンスとボストン交響楽団のコンビの充実さを感じる、圧巻の演奏。
オススメ度
指揮:アンドリス・ネルソンス
ボストン交響楽団
2017年9, 10月(交響曲第11番), 2018年3, 4月(交響曲第4番), ボストン・シンフォニー・ホール(ライヴ)
スポンサーリンク
試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
2018年米国グラミー賞の「BEST ORCHESTRAL PERFORMANCE」を受賞。
コメントはまだありません。この記事の最初のコメントを付けてみませんか?