このアルバムの3つのポイント

ブラームス交響曲全集 ベルナルト・ハイティンク/ロンドン交響楽団(2003-2004年)
ブラームス交響曲全集 ベルナルト・ハイティンク/ロンドン交響楽団(2003-2004年)
  • 2003〜2004年のハイティンク×ロンドン響のライヴ
  • 固定概念から解放された?重厚感や情熱とは距離を置くブラームス
  • ゆったりとしたテンポですっきりとした響き

ベルナルト・ハイティンクはブラームスの交響曲全集をこれまでに3回完成させています。1回目がロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団との1970年〜1973年の録音、2回目がボストン交響楽団との1990年〜1994年の録音、そして3回目がロンドン交響楽団との2003年から2004年のライヴ録音です。

録音時期も違うので ハイティンクの作品への解釈や追求した響きも変化していますし、オランダ、アメリカ、イギリスのオーケストラによる演奏なので、それぞれでだいぶ印象が違います。

レコーディングの数が多い ハイティンク

ハイティンクは他にもマーラーやブルックナー、そしてベートーヴェンで同じ作品を何度も録音し、レコーディングの数も多いのでどの演奏が良いのか迷うところも多いです。マーラーに関してはこの記事にハイティンクが指揮した中でオススメのレコーディングを紹介していますが、それ以外の作曲家についても今後まとめていきたいと考えています。

3回目の ロンドン 交響楽団との録音は、2003年と2004年にライヴでレコーディングされたもので、 ロンドン 響のプライベートレーベル、LSO Liveで分売もされた後、品番LSO0070で全集が2005年にリリースされていました。しかし、現在では売り切れ、廃盤となっています。2018年にキングレコードからブラームス交響曲第1番&悲劇的序曲の録音だけがUHQCDで品番KICC-2466として国内盤とリリースされていますが、それ以外の録音はCDでは入手困難になっています。iTunesやストリーミングではいつでも聴けるのですが、再プレスが必要なCD媒体だとこういう売り切れの問題がどうしてもつきまといます。

入手困難な ハイティンク と ロンドン 響の ブラームス 交響曲全集のCD

ハイティンク と ロンドン 響のこの ブラームス の交響曲全集のレコーディングがもっと好評だったら再発売もあると思うのですが、私の印象だとそこまでは支持されていない感じなので、このままお蔵入りになってしまうこともありうるかなと思います。

端的に言ってしまえば、「自然体」過ぎてあまり迫力とか重厚感が感じないのがこの ブラームス の交響曲全集の特徴です。 ハイティンク らしいと言えばらしいのですが、「無気力」と言う意見もあるのもしかたないかなと思います。

ブラームス の交響曲4曲と悲劇的序曲、二重協奏曲、セレナード第2番をカップリング

この交響曲全集には、第1番から第4番までの4つの交響曲に加えて、悲劇的序曲、ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲、セレナード第2番が収録されてCD4枚組となっています。それぞれ順番に紹介していきましょう。

冒頭から驚くほどすっきりとして軽やかな演奏です。この曲はブラームスが着手してから完成までに21年掛かった苦難の作品でもあり、特に第1楽章の冒頭ではその苦悩が表れているかのように重々しいフレーズなので、そうした背景を踏まえてものすごい重厚感で演奏するスタイルもある中、ハイティンクとロンドン響は口笛を吹いているかのような涼しげな演奏で始めます。

そして第4楽章は「苦悩から歓喜へ」の流れでとても演奏に力が入るところだとは思うのですが、ハイティンクは実に自然体でゆったりと演奏していきます。もちろんロンドン響もパワーのあるオーケストラなのですが、この演奏ではそこまで力を出し切っていない感じです。

そう言えば、2007年のシカゴ交響楽団とのマーラーの交響曲第6番「悲劇的」でのライヴ録音でも、こちらの記事で紹介していますが、作品のイメージにとらわれない淡々とした演奏でしたね。

この交響曲第1番の演奏時間は第1楽章が13:43、第2楽章が8:39、第3楽章が4:43、そして第4楽章が17:18。

すっきりとした響きで第3楽章の穏やかさはハイティンクならではの持ち味だと思いますが、第1楽章や第4楽章では不満が残る演奏です。

牧歌的な交響曲第2番は、第1番と違ってあまり重厚感や迫力、情熱とは表れず、ふわっと香るような豊かな響きが出る作品。ハイティンクとロンドン響の全集の中でこの曲が一番良い演奏に感じました。すっきりとした響きで、細かい音までささやき声のように鳴らされ、まるで森の中に入って色んな鳥の鳴き声を聴いているような、豊かな響きが感じられます。

演奏時間は第1楽章が16:01、第2楽章が9:52、第3楽章が5:35、第4楽章が9:41。ゆったりとしたテンポで丁寧で軽めの響きのアプローチがこの楽曲にはよくハマっていると思います。

4つの交響曲の中で最も優雅な楽曲がこの第3番。特に第1楽章はAllegro con Brio (アレグロ、生き生きとして)の指示があり、ベートーヴェンの交響曲のようですが、まるで舞踏の曲のように気品がある音楽です。ハイティンクとロンドン響はここでもゆったりとテンポですっきりとした響きで丁寧に演奏していきます。

演奏時間は第1楽章が14:32、第2楽章が8:58、第3楽章が6:48、第4楽章が9:27。第1楽章は確かに響きはバランスが取れているのですが、もっさりとしたゆっくりさで少しもどかしさを感じるかもしれません。第2楽章や第3楽章の中間楽章は良いなと思うのですが、嵐の吹き荒れるような激しさがあるはずの第4楽章では全然迫力がなく、ゆっくりとしたテンポで室内楽のように軽いハーモニーで演奏されていきます。「ロンドン交響楽団なのにどうしちゃったんだろう」と思うぐらいに持ち味が出ていません。

このブラームスの交響曲第4番は第1楽章の切なさと、第4楽章にバッハの時代の技巧を取り入れた新しくも力強い音楽で非常に人気のある作品です。このハイティンクとロンドン響の演奏では、作品の持つイメージにとらわれずに、センチメンタルになることはなくすっきりとした響きで演奏されていきます。演奏時間は第1楽章が13:23、第2楽章が11:29、第3楽章が6:17、そして第4楽章が10:16。ここでもゆったりとしたテンポで1つ1つの音が丁寧に演奏されていきますが、バランスが良い響きだなと思う反面、ハイティンクの意思が感じられないのであまり思い入れがないのかなとさえ思ってしまいます。

第4楽章はAllegro energico e passionatoでenergico(勢いを付けて)とpassionato(感情的に)と指示がある楽章ですが、ハイティンクは勢いも感情も込めずに丁寧にゆっくりと演奏していきます。楽譜に忠実なハイティンクにしては少し意外で疑問を感じる演奏です。

この交響曲全集には珍しく、同時期にライヴ演奏されたヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲もカップリングされています。ヴァイオリンはゴルダン・ニコリッチ(Gordan Nikolitch)、チェロはティム・ヒュー(Time Hugh)がソロを務めました。こちらもブラームスの情熱や苦悩という感じはあまり表れず、すっきりとした響きです。

ブラームスはセレナードという作品で第1番と第2番の2曲を書いています。ブラームスらしく弦や木管の豊かな響きが特徴です。ハイティンクとロンドン響は2003年5月に、交響曲第1番と同じ演奏会でこのセレナード第2番を演奏しています。じんわりと心地よい響きがして、とても癒やされる演奏ですね。

悲劇的序曲は重々しい響きのイメージがありますが、このハイティンクとロンドン響の演奏では、ちょっと斬新です。演奏時間は15分12秒でかなり遅めのテンポで、そこまで重くない響きでまるで室内楽のように丁寧に演奏されていきます。

楽譜に忠実なはずのハイティンクにしては、energicoが力強くなくて意外な感じがするブラームスの演奏。ブラームスの作品の固定概念である重厚感や情熱というものから解放されたかのような、すっきりとした響きで軽やかさが持ち味の交響曲全集。オススメのブラームスの交響曲全集かと言われると、正直、他を聴いたほうが良いと思いますし、ハイティンクの全集ではコンセルトヘボウ管との若かりし力強さのある1回目の全集や、ボストン響の名技が光る2回目の全集を聴いたほうが良いと思います。

オススメ度

評価 :2/5。

ヴァイオリン:ゴルダン・ニコリッチ
チェロ:ティム・ヒュー
指揮:ベルナルト・ハイティンク
ロンドン交響楽団
録音:2003年5月17-18日(交響曲第2番、二重協奏曲、悲劇的序曲), 2003年5月21-22日(交響曲第1番、セレナード第2番), 2004年5月16-17日(交響曲第4番), 2004年6月16-17日(交響曲第3番), バービカン・センター内バービカン・ホール(ライヴ)

iTunesで試聴可能。

特に無し。

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