「一切の誇張を排した演奏」と評されたハイティンクとシカゴ響のマーラー交響曲第6番『悲劇的』 (2007年)

マーラー交響曲第6番「悲劇的」 ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団(2007年)

このアルバムの3つのポイント

マーラー交響曲第6番「悲劇的」 ハイティンク/シカゴ響(2007年)
マーラー交響曲第6番「悲劇的」 ハイティンク/シカゴ響(2007年)
  • 「一切の誇張を排した演奏」と評されたハイティンクのマーラー
  • 首席指揮者を務めていたシカゴ響との2007年10月ライヴ録音
  • ゆっくりしたテンポで「悲劇的」らしからぬ健康的な演奏

ベルナルト・ハイティンクは2019年に90歳で指揮者を引退したが、65年以上にも渡るキャリアで演奏・録音も数多く、同じ作品を再録音することも多い。特にブルックナーやマーラーはハイティンクが得意とする作曲家でもあり、録音も膨大だ。マーラーに関しては私もそれなりに聴いてきた自負はあるが、とてもハイティンクが遺した全てのマーラーの録音を追い切れていない。ただ、何だかんだロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とのクリスマス・マチネの録音や、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との交響曲集をよく聴いている。

今回紹介するマーラー交響曲第6番「悲劇的」の録音は、ベルナルト・ハイティンクが2006年から首席指揮者を務めていたシカゴ交響楽団と2007年10月18~23日にかけて、シカゴのシンフォニーセンター内のオーケストラホールでライヴ録音されたもの。シカゴ響の自主レーベルCSO-Resoundからリリースされているが、日本語盤はキングインターナショナルが販売している。

ハイティンクの過去のマーラーの交響曲第6番の録音と比較しても、第1楽章の演奏時間で22分07秒(1969年のコンセルトヘボウ管)⇒22分52秒(1989年のベルリンフィル)⇒25分56秒(2007年今回の録音)と、段々と遅くなっている。年齢・キャリアを重ねてたどり着いた解釈がこのテンポなのだろう。4楽章合わせて90分41秒とかなり遅い

前任の音楽監督バレンボイム時代に停滞したシカゴ響とは言え、音の厚み、低音部のバランス、金管の響きなど、やはり良いものを持っている。

第2楽章と第3楽章の順番が議論になるこの交響曲だが、昔の演奏では第2楽章がスケルツォ、第3楽章アンダンテの順番が多かった。2003年にマーラー協会が第2楽章アンダンテ、第3楽章スケルツォの順番を最終決定としたため、最近の演奏ではアンダンテ→スケルツォの演奏順が多い。しかし、ここでのハイティンク/シカゴ響は第2楽章スケルツォ、第3楽章アンダンテの順番だ。楽譜に忠実なハイティンクにしては意外な決断だと思うが、マーラーがウィーン初演でスケルツォ→アンダンテの順で演奏したというエピソードを重要視しているのだろうか。

私も個人的にはスケルツォ→アンダンテの順が良いと考えている。そうすることで第1楽章と第2楽章との類似性がくっきりと表れ、第3楽章でアロマとの幸せな世界を描きつつもどこか切なさがあり、そして第4楽章に一気に絶望の底へと落ちていきドラマ性が強くなると思う。

このハイティンクとシカゴ響の演奏は、ゆっくりとしたテンポで、楽譜の音をバランス良く引き出している。「悲劇的」という副題が付いているこの交響曲だが、この演奏では少しも悲劇性は感じないのだ。まるで副題にとらわれることなく、楽譜から純粋な音楽として演奏しているかのような健康的な演奏だ。

第2楽章はスケルツォ。ここでもゆっくりとしたテンポで丁寧に音楽が紡がれていく。金管も丸みを帯びた音色だし、高音から低音まで非常にバランスの取れたサウンド。まさに円熟を増したハイティンクらしい解釈。バルトークの管弦楽のための協奏曲にある、まるで嘲笑するかのようなフレーズもあり、何度もこの作品を聴いているのに気付かなかった新たな気付きだった。

第3楽章はアンダンテ。シカゴ響らしい美しいヴァイオリンが活きた楽章で、バランスの取れたハイティンクのタクトは感傷的になり過ぎず、かといって淡々とし過ぎず、いい具合にこの曲の魅力を引き出している。木管の音色も心地よく溶け合っている。こういうバランス感覚がハイティンクらしい。

第4楽章も壮大なスケールではあるが、ゆっくり目のテンポで、聴く者を気持ち良くさせるようなバランスの取れたハーモニーである。「悲劇的」という副題があるこの曲だが、ハイティンクのアプローチは純音楽的で、マーラーの感傷に浸ることはせず、優しい弦の音色に、温かさすら感じる金管とティンパニーの響きが加わっている。巨匠らしい円熟したハーモニーと言えよう。

ゆっくりとしたテンポで、「悲劇的」という副題は排除し楽譜から読み取れる純粋な音楽として表現したかのような交響曲。CDの帯に「一切の誇張を排した演奏」と書かれていたが、感情移入せずに客観的に淡々とした演奏にも聴こえる。

オススメ度

評価 :3/5。

指揮:ベルナルト・ハイティンク
シカゴ交響楽団
録音:2007年10月18, 19, 20, 23日, シカゴ・オーケストラ・ホール(ライヴ)

【タワレコ】マーラー:交響曲第6番「悲劇的」(UHQCD)

iTunesで試聴可能。

特に無し。

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