このアルバムの3つのポイント
- ハイティンクにしては珍しいライヴ録音
- 音楽監督就任直前のECユース管とのライヴ
- ベルリンフィルと果たせなかったマーラーの第9番
ベルリンフィルとのマーラー交響曲全集が頓挫
指揮者ベルナルト・ハイティンクは、1987年からベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とマーラーの交響曲全集を開始しますが、第1番から第7番と第10番から「アダージョ」、そして「さすらう若人の歌」の録音をしたところで企画が頓挫してしまいます。
素晴らしい出来に惜しまれつつも、第8番「千人の交響曲」と第9番はベルリンフィルと録音されませんでした。
結果的に、1993年1月の交響曲第2番「復活」の録音がベルリンフィルのマーラーでは最後になってしまいました。
アバドの後任としてECユース管の音楽監督に就任
そしてその3ヶ月後。1993年4月にハイティンクはECユース・オーケストラを引き連れ、オランダ、アムステルダムのコンセルトヘボウでマーラーの交響曲第9番を演奏しています。
ハイティンクとベルリンフィルとのマーラーの交響曲プロジェクトで録音されなかった第9番を、ハイティンクがどのような解釈をしていたのかは、このECユース管とのライヴ録音を聴けば把握できます。
クラウディオ・アバドの後任として1994年からECユース管の音楽監督を務めることとなるハイティンク(2000年まで)は、その前年の1993年春にECユース管とオランダのマーストリヒト、ドイツのケルン、ベルギーのアントウェルペン、そしてオランダのコンセルトヘボウを廻る演奏ツアーをおこないました。
その演奏ツアーを締めくくったコンセルトヘボウでのライヴ録音が、タワーレコード限定発売(#PROC-1140)で復刻しています。CD2枚組で、プーランクのオルガン協奏曲とマーラーの交響曲第9番が収録されています。
ハイティンクは2000年以降はライヴ録音も多くなりますが、それまではクリスマス・マチネのライヴ録音を除き、ずっとセッション録音が多かったので、ライヴ録音はとても貴重。
プーランクのオルガン協奏曲
ハイティンクの特徴は、作品を客観的に眺めるような一歩引いた演奏。決して前のめりにならずに淡々としている節もありますが、このライヴ録音は違います。ECユース管の若い精鋭の演奏家たちの情熱にハイティンク自身も熱くなったのか、熱気のある演奏になってます。
プーランクのオルガン協奏曲では荘厳さ以上に、ほとばしる情熱が熱い。
マーラーの交響曲第9番
後半のマーラーの交響曲第9番。ECユース管は選抜された若者たちのオーケストラですが、さすがにマーラーは難曲だったようで、ミスも何箇所かあります。
音質も1993年というデジタル時代にしては、ややイマイチです。ちょっとこもったところもあり。
ライヴなので残念ながらノイズも混じっています。第4楽章では静寂につつまれた冒頭に「カン、カン、カン」と何かが床に落ちて下に転がっていくような音が入ってしまっています。
ただ、それ以上に若きエリートたちがベテラン指揮者のハイティンクに必死に食らいつこうと演奏している様子が目に浮かびます。
第1楽章は丁寧に始まりますが、音楽は熱を帯びていき、若さ溢れる情熱的な演奏へと移っていきます。アンサンブルが「あれ?」と思うところもありますが、ユース・オーケストラなのでこの点はしかたありません。
第2楽章はかなりゆっくりとしたテンポで丁寧にシンフォニックに描かれます。第3楽章は逆に速めのテンポで、キビキビとして機動性があります。
特に秀逸なのは第4楽章。冒頭でテンポを落として、ヴァイオリンが美しい音色でメロディを優しく、絶妙な弱音で奏でるのですがここが本当に美しく、聴き応えがあります。この楽章は落ち着いていて透き通ったような響きで官能的な美しさがお見事。
まとめ
当時のベルナルト・ハイティンクにしては珍しいライヴ録音。セッション録音とは違う熱気がありますし、ECユース管もベテラン指揮者に必死に食らいつこうとする感じが伝わってきます。
ベルリンフィルとのマーラーの交響曲第9番は実現できませんでしたが、同時期にECユース管とこれほど熱い演奏をおこなっていて、それが録音として遺ったことは奇跡としか言いようがありません。
ユースオーケストラだけに演奏ミスや、アンサンブルに難があるところもありますし、客席からのノイズなど、キズはありますが、それ以上にハイティンクのマーラーを語る上で大事なアルバムです。
オススメ度
指揮:ベルナルト・ハイティンク
ECユース管弦楽団 (現:EUユース管弦楽団)
録音:1993年4月, コンセルトヘボウ(ライヴ)
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【タワレコ】ベルナルト・ハイティンク/ECユース管 マーラー: 交響曲第9番; プーランク: オルガン協奏曲<タワーレコード限定>試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
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