このアルバムの3つのポイント
- レイフ・オヴェ・アンスネスとマーラー室内管弦楽団によるモーツァルトの企画盤第1弾
- ピアノ協奏曲の傑作が生み出された1785年の作品にフォーカス
- ピアノとオーケストラの融合
ベートーヴェンのピアノ協奏曲に次ぐアンスネスとマーラー室内管の企画
ノルウェー出身の実力派のピアニスト、レイフ・オヴェ・アンスネス。派手さは無いですが、堅実な演奏と詩情豊かな表現力で定評があります。2002年にマリス・ヤンソンス指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と録音したグリーグとシューマンのピアノ協奏曲(FC2ブログ記事)や、2005年にアントニオ・パッパーノ指揮のベルリンフィルと録音したラフマニノフのピアノ協奏曲第1番と第2番(FC2ブログ記事)はともに英国グラモフォン賞を受賞しています。
そのときはEMIレーベル(現ワーナー)に所属していましたが、2012年にソニー・クラシカルと専属録音の契約を結び、マーラー室内管弦楽団を弾き振りして2014年までにおこなったベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲と合唱幻想曲を録音したアルバム『ベートーヴェンへの旅(The Beethoven Journey)』は人気を博しました。
そのアンスネスとマーラー室内管が新たにリリースしたのが、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番、21番、22番を中心とするアルバム。2021年5月28日にリリースされました。
30回以上聴いてはみたものの…
私も発売後すぐに購入したのですが、これまで30回以上アルバムを繰り返し聴いても感想がまとまらず、早2ヶ月が経ってしまいました。パッと聞いただけで「これすごいな」という演奏は分かりますし、個性的な作品解釈・演奏だったら聴き比べの比較がしやすいです。また最初はぼんやりした感想でも2、3回聴けば演奏のイメージがクリアになってくるものなのですが、何回聴いても「ピンと来ない」演奏だったのはこのアンスネスの演奏が久々でした。
確かに上手いのですが、過去の演奏家から際立つ違いがあまり感じられませんでした。
余談ですが、指揮者リッカルド・シャイーがベルリン放送交響楽団とロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団と録音したブルックナーの交響曲全集も何回聴いても「ピンと来ない」ものでした。
モーツァルトの転換期に着目
このアルバムでは、モーツァルトの1785年の作品の6曲を収録しています。
ピアノ協奏曲第20番 ニ短調は、モーツァルトのピアノ協奏曲の中で初めての短調の作品ですし、この後も第24番 ハ短調があるだけです。
また第20番以降のピアノ協奏曲は現在も演奏頻度が高い作品で、間違いなく傑作と言えるでしょう。その転換期になった1785年に作曲された作品を2枚に収めています。
[ディスク1]
・ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調 K 466
・ピアノ協奏曲 第21番 ハ長調 K 467
[ディスク2]
・幻想曲 ハ短調 K 475
・ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K 478
・フリーメイソンのための葬送音楽 ハ短調 K 477 (K 479a)
・ピアノ協奏曲 第22番 変ホ長調 K 482
なお、1786年の作品にもフォーカスした録音をおこない、そちらは2021年秋にリリース予定とのこと。
ピアノ協奏曲第20番は再録
アンスネスはピアノ協奏曲第20番は第17番を2007年にノルウェー室内管弦楽団を弾き振りして録音しています(FC2ブログ記事)。人気の2曲をカップリングしたこのアルバムでは、柔らかいタッチで奏でられるアンスネスのピアノがモーツァルトの素朴でロマンティックな世界観によく合いました。
気難しいジャケット写真
ただ、この新アルバムを手に取って、あるいはオンラインショップで見て、「よし、買おう」とは思わないでしょう。
喪に服しているかのような黒い背景に、髭面のアンスネスがインテリ眼鏡を掛けて睨みつけているようです。何でこんなジャケット写真にしてしまったのでしょうか。モーツァルトの純粋無垢な音楽を聴きたいと思う方の購買意欲を削ぎますね。
なお、ジャケットに書いてある「MM 1785」は「モーツァルト・モメンタム1785」の意味です。
コロナ下のため演奏会は中止に
これまでのアンスネスのピアノ協奏曲の録音は、1つのアルバムで半分がライヴ録音、もう半分がセッション録音というパターンが多いです。このアンスネスとマーラー室内管のモーツァルトのアルバムも、演奏会が予定されていたようですがコロナ下のため中止に。結果としてピアノ協奏曲第20番〜22番とフリーメイソンのための葬送音楽は、ベルリン・フィルハーモニーでのセッション録音、他の作品はブレーメンのゼンデザール(Sendesaal)でのセッション録音となりました。
どうも演奏に躍動感が少ない感じがしたのは、全曲がライヴではないからですね。コロナ下だったので仕方がないところですが。
まとめ
コロナ下でのセッション録音ということもあり、どうも臨場感が薄い気がします。アンスネスもマーラー室内管も確かに上手いのですが、過去の演奏家のモーツァルトと際立つ違いはあまり感じられませんでした。
オススメ度
ピアノ&指揮:レイフ・オヴェ・アンスネス
ヴァイオリン:マシュー・トラスコット(K478)
指揮:マシュー・トラスコット(K477)
ヴィオラ:ジョエル・ハンター(K478)
チェロ:フランク=ミヒャエル・グートマン(K478)
マーラー室内管弦楽団(K466, K467, K477, K482)
録音:2020年11月8-10日, ベルリン・フィルハーモニー(K466, K467, K477, K482)
2020年2月21-25日, ブレーメン・ゼンデザール(K475, K478)
試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
新譜のため未定。
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