このアルバムの3つのポイント
- ハイティンクとウィーンフィルのオーソドックスなブルックナー
- 第2稿ノーヴァク版による演奏
- オランダのエジソン賞受賞
幻に終わったハイティンクとウィーンフィルのブルックナー全集
オランダ出身の名指揮者ベルナルト・ハイティンク(1929年〜2021年)はブルックナーを得意とし、長年首席指揮者を務めたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団と1960年代から交響曲全集を完成させた他、後期の第7番から9番については1978年から81年に再録音もしています。
さらに、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とも良好な関係を築き、1985年からブルックナーの交響曲全集が開始したのですが、レコード・レーベル(フィリップス)の都合で頓挫し、選集として遺されました。ただ、第2稿ハース版を使った交響曲第8番(1995年)はこちらの記事で紹介しましたが、日本のレコード・アカデミー賞とオランダのエジソン賞をダブル受賞した名盤でした。
今回紹介する第3番ニ短調「ヴァーグナー」は、1988年12月の録音です。
ブルックナーの生前からゆかりの深いウィーンフィルは、現在もクリスティアン・ティーレマンとブルックナーの交響曲チクルスを進めていて、こちらで紹介したように2020年11月に無観客での演奏会でライヴ録音をしています。意外にもウィーンフィルとしては32年ぶりの録音となったのですが、その32年前がこの1988年のハイティンク盤でした。
初演に失敗した第2稿での演奏
改訂癖があるブルックナーですが、この交響曲第3番は第3稿まであります。今ではブルックナーの中でも第8番に続く人気がある曲ですが、この交響曲は不遇な作品で、1873年に完成した第1稿はウィーンフィルの新規演奏会のために送っても採用されませんでした。曲に原因があると考えたブルックナーが改訂をおこなって1877年に完成させた第2稿では、ヴァーグナーの作品からの引用部分を削除したり、作品のバランスを考えてカットをおこなって、ウィーンフィルと初演するところまでたどり着けたのですが、団員があまり練習しきれないまま本番を迎え、ブルックナー自身が指揮をおこなって大失敗に終わってしまいました。そして最終改訂版の1889年の第3稿で無事に初演も成功して、現在でもブルックナーの最終的な「答え」である第3稿で演奏されることが多いのですが、中には第2稿にこだわる指揮者もいます。
先ほど紹介したティーレマンとウィーンフィル(2020年)もそうでしたし、サー・ゲオルグ・ショルティがシカゴ交響楽団と1992年に録音、そしてハイティンクのコンセルトヘボウ管との全集でもエーザー校訂版の第2稿でした。
今回1988年のウィーンフィル盤でもハイティンクは第2稿を使用していますが、ハイティンクとしては初めて、1977年に出版されたノーヴァク版の新全集Ⅲ/2版を使用していると思われます。ティーレマンのCDの説明でソニー・クラシカルが「1988年のハイティンク盤(こちらは同じ第2稿でもエーザー校訂の旧全集を使用)」と説明していますが、第3楽章のコーダが含まれているのでエーザー校訂版ではなくノーヴァク校訂版が正しいようですね。タワーレコードから発売されているハイティンク&ウィーンフィルのブルックナー交響曲選集の解説でも、はっきりとノーヴァクⅢ/2版と書いていますし。
ハイティンクとウィーンフィルの演奏はとても自然体。力強い演奏にもできる「ヴァーグナー」交響曲ですが、ハイティンクは実にゆったりと構えています。ウィーンフィルの美音を活かしてハツラツとした演奏。
仕事終わってから寝るまでの一時に聴くのにピッタリです。本当に癒やされます。
まとめ
ハイティンクとウィーンフィルによる「ヴァーグナー」。「第2稿」による演奏にハイティンクの意思が感じられます。
オススメ度
指揮:ベルナルト・ハイティンク
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1988年12月, ウィーン楽友協会・大ホール(ムジークフェラインザール)
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
1991年のオランダ・エジソン賞の管弦楽部門を受賞。
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