このアルバムの3つのポイント
- 完璧を目指した孤高のピアニスト、ミケランジェリの最高の録音
- クリスタルな前奏曲集第1巻と映像
- 変幻自在なタッチ
完璧主義の孤高のピアニスト、ミケランジェリ
イタリア出身のピアニスト、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(1920-1995年)は孤高のピアニストとして知られ、完璧主義でレパートリーは限られたものだけを演奏した他、録音嫌いだったり演奏会のキャンセル魔ということでも知られています。それ以外にも、マルタ・アルゲリッチやマウリツィオ・ポリーニなどの現代を代表するピアニストが師事したことしても有名です。確かにポリーニは1960年にショパン国際コンクールで優勝してから一度表舞台から消えて、大学に通って物理学を専攻したりして音楽以外のことを学んでいたようですが、ミケランジェリに師事して再デビューした1968年のショパン・リサイタルのアルバムは大理石のようなタッチや和音の響かせ方がミケランジェリに通じるところがあります。
あとは、ヴラディーミル・アシュケナージとのエピソードもあって、アシュケナージが1955年のショパン国際コンクールで第2位になったとき、審査員長を務めていたミケランジェリはアシュケナージが1位となるべきと不服を申し立て、審査員を降板したこともありました。
数少ないミケランジェリの正規録音
さて、そんなミケランジェリはドイツ・グラモフォン・レーベルと契約していましたが、正規録音が極端に少なく、死後にリリースされたいわゆる海賊版のライヴ録音が多いです。ドイツ・グラモフォン録音全集はCD10枚だけ。しかもそのうちの1枚はデッカ音源の1964年のものと、もう1枚はお蔵入りになっていた1980年代のパリでのライヴ録音で、ミケランジェリ亡き後の2009年にようやく初リリースされたものです。
ただ、その正規録音にはショパンのマズルカやスケルツォ第2番、ブラームスの4つのバラード、シューマンのカルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウィーン交響楽団とのベートーヴェンのピアノ協奏曲など興味深い演奏もあります。
そのミケランジェリの最高の録音と言われる(ドイツ・グラモフォンがそう紹介している)のが、ドビュッシーのアルバム。1971年7月にミュンヘンで録音された映像第1集、第2集と、78年6月にハンブルクで録音された前奏曲集第1巻が収録されています。なお、前奏曲集第2巻は1988年8月に録音していますが、今回紹介するアルバムには含んでいません。
磨き上げられたタッチ
前奏曲集も「映像」もミケランジェリの磨き上げられたタッチと、研究され尽くされた響きの美の結晶のような演奏が特徴。1日中ピアノに向き合って打鍵を変えたときの音色の違いを研究していたというエピソードもあるミケランジェリ。どのピアニストよりもタッチにこだわったピアニストと言えるでしょう。
ドビュッシーの作品では特に響きというものが重要視されますが、ミケランジェリが生み出す和音は考え尽くされているなと感じます。第1曲「デルフィの舞姫たち」では不気味な拍子ときらびやかなリズムが相交え、古代ギリシャの神殿で神を祀るために踊る舞姫たちの神秘さと崇高さが表れているようです。第2曲「帆」もしんみりと響きの重なり、静と動の対比が見事。
有名な第8曲「亜麻色の髪の乙女」や第10曲「沈める寺」では、ゆっくりとしたテンポで、タッチを繊細に変えることよる響きの変化がよく表れています。第12曲「ミンストレル」はドビュッシーが英国で見たミンストレル・ショー(歌・踊り・寸劇を演じる大衆演芸)がモチーフで、ぎこちないリズムや諧謔的なモチーフがミケランジェリの手によって淡々と描かれています。
映像第1集と第2集は神秘的とも言える幻想的な雰囲気に引き込まれます。ドビュッシーの魅力を一番良く知っていたピアニストのミケランジェリだからこその世界観でしょう。
ただ、このアルバムの録音の質はいまいち。アナログ録音ということもありますが、音が詰まって聴こえます。私は2002年にリリースされた国内盤CD(UCCG-7078)で聴いていますが、Apple Musicのストリーミング配信で聴いても同じような音質でした。ミケランジェリ最高の録音というからには、さらにドビュッシーなら、もう少し音質が良い状態で聴きたかったなぁ。
まとめ
完璧主義のピアニスト、ミケランジェリが演奏したドビュッシー。この世界観にハマります。
オススメ度
ピアノ:アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ
録音:1971年7月(映像第1集、第2集), ミュンヘン・バイエルン科学アカデミー
1978年6月(前奏曲集第1巻), ハンブルク・ライスハレ(旧ムジークハレ)
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
コメント数:1
ジュリーニとのベートーヴェン協奏曲5番も最高にイケてます。ミケランジェロの良さを書いていただきありがとうございました。ニッチなところなので非常に興味深く読ませていただきました。