ゲオルグ・ショルティと言えば、レナード・バーンスタインとともに1960年代のマーラー旋風を生み出した指揮者。ショルティのマーラーといえば、ロンドン交響楽団ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団との録音もありましたが、音楽監督を務めたシカゴ交響楽団との1970年の第5番6番、そして1971年の7番8番の録音が素晴らしくて、第1番、2番、3番、4番、9番も1980年代にシカゴ響と再録音することで全集をシカゴ響と完成させました。

再録音が素晴らしすぎて、しかもデジタル録音で音質も良いので、影に隠れてしまった感はありますが、1960年代のロンドン響とのマーラーは、壮年期のショルティの持ち前のエネルギッシュとシャープさが出た演奏。これがタワーレコード企画盤で2025年リマスターされてリリースされました。

録音順は第1番「巨人」が1964年、第2番「復活」が1966年、第3番が1968年で、全てロンドンにあるキングズウェイ・ホールでのセッション録音。アルバムではCD1が第2番、CD2が第3番の第1楽章から第5楽章まで、そしてCD3が第6楽章と第1番という収録。デッカが誇る立体的な音質で、60年以上前の録音とは思えないほど鮮やかに蘇っています。

ここでは作曲順に紹介していきます。

コンジキ色に輝く「巨人」

第1番「巨人」は、朝の日差しのように弦が生み出すコンジキ色に木管が暖色を添えます。生命の躍動のようにうごめき、カッコウの声で牧歌的に。第1楽章提示部最後では壮年期のショルティらしくボルテージが高いです。『ニーベルングの指環』を録音したあのエネルギッシュさがここでも。確かにシカゴ響との再録音ではより雄大になり、音楽監督を務めていたオケなのでアンサンブルも一糸乱れません。それに比べるとロンドン響のこの旧録音はミスりもあります。第2楽章は「力強く動きをもって、しかし速すぎず」の指示から始まりますが、ショルティとロンドン響は健脚でバリバリと進んでいきます。コーダでの華やかさ。第3楽章は行進曲風でコントラバスの独奏から始まりますが、憂いはありません。スコアの指示も「荘厳で正確に、引きずることなく」ですもんね。そして行進のリズムが伴奏だけになりリタルダンドで小さくなると、アタッカで第4楽章に突入。ここはまさにショルティの世界。混沌とした世界を見通しよくドライブしていきます。ロンドン響ってこんなにすごかったっけと思うほど、名手揃いなのもプラス。

ゾクゾクとする「復活」

第2番「復活」は冒頭から痺れます。ヴァイオリンとヴィオラの高弦によるキーンという稲光 (いなびかり)に、チェロとコントラバスの低弦が切れ味鋭く駆け巡ります。心臓がいくつあっても持たないほど、ショルティが生み出す復活はゾクゾクさせてくれます。ヴァーグナーの『指環』録音のときのあのドラマティックさがここでも体験できます。

大曲であることを忘れさせる第3番

第3番は6楽章まであって演奏時間が90分もある大曲ですが、それを忘れさせるほど一気に聴けます。第1楽章のラストではテンポをビルドアップさせ、荒削りさもあります。第2楽章は一転して歌うように。この楽器ごとのメロディーラインの掛け合いが見事です。そして第3楽章は木管が鮮やか。第6楽章はテンポを少し落として心の琴線に触れるような柔らかさ。

まとめ

ショルティ壮年期のエネルギッシュさとロンドン響の名手っぷりを感じる60年代のマーラー録音。これが60年以上前の録音かと驚くほどの高音質で蘇り、そして後のシカゴ響との再録音とは違う魅力も感じるアルバム。

タワレコさん、ありがとう。良い買い物でした。

オススメ度

評価 :5/5。

第2番「巨人」
ソプラノ: ヘザー・ハーパー
アルト: ヘレン・ワッツ
合唱: ロンドン交響合唱団
合唱指揮: ジョン・オールディス

第3番
アルト: ヘレン・ワッツ
合唱: アンブロジアン・オペラ・コーラス
 合唱指揮: ジョン・マッカーシー
合唱: ワンズワース少年合唱団
 合唱指揮: ラッセル・バージェス
ヴァイオリン・ソロ: ジョン・ジョージアディス
ポストホルン・ソロ: ウィリアム・ラング

指揮:ゲオルグ・ショルティ
ロンドン交響楽団
録音:1964年1月17日-2月5日(第1番)、1966年5月21-26日(第2番)、1968年1月1-6日(第3番), キングズウェイ・ホール

Apple Music でリマスター版ではないオリジナルアルバムで第1番第2番第3番を試聴可能。

特に無し。

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