このアルバムの3つのポイント

マーラー交響曲第7番「夜の歌」 ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団(1971年)
マーラー交響曲第7番「夜の歌」 ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団(1971年)
  • ショルティとシカゴ響の黄金時代のマーラー
  • 難解に聞こえない見通しの良い快演
  • 米国グラミー賞の「最優秀オーケストラ・パフォーマンス」を受賞!

今日もショルティとシカゴ響のレコーディングを紹介します。

1969年にシカゴ交響楽団の音楽監督に就任したゲオルグ・ショルティは名門オーケストラとの黄金時代を築き、このコンビの初録音となった1970年のグスタフ・マーラーの交響曲第5番、その翌週に録音された交響曲第6番「悲劇的」は今でも聴き継がれる名演奏ですが、さらに1971年の8月から9月にウィーンでレコーディングされた交響曲第8番「千人の交響曲」では、米国グラミー賞で二冠を受賞しています。今回紹介する交響曲第7番「夜の歌」は1971年5月の録音で、こちらもグラミー賞の「最優秀オーケストラ・パフォーマンス」を受賞しています。

録音場所はイリノイ州にあるクラナート・センター。1972年のヴラディーミル・アシュケナージとのベートーヴェンのピアノ協奏曲全集や、同じく1972年のベートーヴェンの第九でも使用した場所です。

交響曲第7番はマーラーの中で難解な作品と言って良いでしょう。初めてCDで聴いたとき、私は全く意味が分からず3回繰り返して何となく分かった気になったものでした。「夜の歌」という副題が付いていますが、第2楽章と第4楽章に夜曲(Nachtmusik)があるため後世に付けられた呼び名で、マーラー自身は副題を付けていません。「歌」どころか、第1楽章は無調と思えるような曖昧模糊とした音楽で、後のアルノルト・シェーンベルクアルバン・ベルクらを予兆するかのようです。

例えば2011年1月に、現代作曲家でもあるピエール・ブーレーズがロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮してこの曲を演奏(こちらの記事に紹介)したときは、非常にゆったりとしたテンポで淡々として無機質にも聴こえ、この曲にこんな一面があるのかと驚きました。

しかし、これをショルティが指揮すると実に明快に聴こえるのだからすごい。何というか、快演です。例えば第1楽章の冒頭。弦と木管がピアニッシモでザワザワと木々が揺れるような雰囲気を作り出し、そこにテノールホルンがフォルテで登場しまるでため息のような諦めのような物悲しい旋律を奏でます。オーボエ、クラリネットが引き継ぎ、木管が勢揃いで高潮に達し、一気呵成にフォルティッシモのクライマックスに達するのですが、このたった6小節だけですごいと思ってしまいました。

第2楽章の「夜曲」は冒頭のホルンのソロと木霊するかのような3本ホルンとの掛け合いが聴きごたえがありますし、不気味な雰囲気から急降下する早業にも驚きますが、変イ長調に転調する第2主題(トラック2の3分44秒あたりから)でのチェロとヴィオラの美しい旋律にヴァイオリンが加わり華やかになるところがオススメ。シカゴ響はパワフルなオーケストラではありますが、こうした弦の美しさも格別なものがあります。

第3楽章のスケルツォはつむじ風のように小さな渦が沸き起こり、ショルティらしくキレのある引き締まった演奏になっています。第4楽章は柔らかい音色で束の間の休息を。大団円は第5楽章。これまでの集大成のように力強いティンパニにトランペットとホルンが高らかにファンファーレを鳴らします。調性が曖昧なこの交響曲の中でも祝典的で分かりやすいこのフィナーレは、ショルティ/シカゴ響の真骨頂でもあります。すごいスケール。。。

デッカ・レーベルは録音技術に定評がありますが、このレコーディングは残念ながら第1楽章が特に音割れが目立ちます。私は2007年にリリースされたThe OriginalsシリーズのCDで聴いていますが、トラック1の16分38秒あたりや20分34秒あたりのスケールが一際壮大になるところで惜しくも音が割れてしまっています。壮大な第5楽章も冒頭でちょっと音が怪しいところがあります。1970年のマーラーの第5番のレコーディングでも第1楽章の最高潮で音が割れるところがありましたが、それ以外はまぁ気にならなかったので良かったのですが、この第7番では第1楽章や第5楽章のあちこちにヒビが入ってしまっています。

ただ、2017年にリリースされたタワーレコード独自企画のリマスタリングでは音質がかなり改善されているみたいですし、2019年にはSHM-CDでリリースされています。私も買い直して聴いてみたら音質についての違いを追記しようと思います。

ショルティとシカゴ響の黄金時代の始まり。難解と言えるマーラーの第7番を明確に見通しの良い演奏でまとめています。第2楽章の花開くような美しさは格別です。

オススメ度

評価 :4/5。

指揮:ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
録音:1971年5月12-14日, イリノイ州クラナート・センター

iTunesで試聴可能。

1973年の米国グラミー賞の「Best Orchestra Performance」を受賞。

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コメント数:1

  1. マーラーの7番は、学生時代にCDを購入していたのに聴きこんでなかった曲の一つです。やっぱりわかりにくかったからでしょうか。断片的なメロディーは覚えていたのですが。確か当時購入したのはインバル・フランクフルト放送交響楽団のものでした。今回ショルティ・シカゴの演奏で通しで聴いて「こんな曲だったんだ」という発見が多くありました。録音については「当時の技術にシカゴ響のパワーが収まりきらなかったんだな」と、ファンなので好意的に受け取りました。

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