このアルバムの3つのポイント

モーツァルト レクイエム カルロ・マリア・ジュリーニ/フィルハーモニア管弦楽団(1989年)
モーツァルト レクイエム カルロ・マリア・ジュリーニ/フィルハーモニア管弦楽団(1989年)
  • 11年ぶりのジュリーニとフィルハーモニア管とのモーツァルトのレクイエムの再録音
  • ゆったりとした悠久の流れ
  • 溢れるカンタービレ

1つ前の記事カルロ・マリア・ジュリーニ指揮フィルハーモニア管弦楽団のフォーレのレクイエムのレコーディングを紹介しました。

このサイトでは、紹介する演奏家がなるべく偏らないように多くの演奏家を紹介できるよう心掛けていますので、ジュリーニの次はジュリーニ以外の指揮者を紹介しようと思っていました。しかし、年の瀬が迫りモーツァルトレクイエム ニ短調 K.626を聴き比べていたらジュリーニ盤がユニークなのでまた紹介したくなりました。

ジュリーニはEMIレーベル(現ワーナーレーベル)で1978年9月にフィルハーモニア管とこのモーツァルトのレクイエム(略してモツレクとも言います)を録音していて、それは米国グラミー賞を受賞した名盤。今回紹介するのはそれから11年後、ソニー・クラシカルで1989年4月に同じくフィルハーモニア管と再録音したものです。

この録音で特徴的なのは、ゆったりとしたテンポ。1978年の旧録ではトータル54分28秒でしたが、この再録では60分15秒に延びています。70年代後半からゆったりとしてきたジュリーニの演奏スタイルですが、晩年になってさらに流れが悠久になっています。

そして第二の特徴は歌が溢れていること。ゆったりとしたモツレクなら、カール・ベームが1971年4月にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と録音したものが定盤として知られていますが、ジュリーニのこの録音はとにかく歌が全てカンタービレで歌われているかと思うほど、旋律を極限まで引き出しています。ソプラノのリン・ドーソン、アルトのヤルト・ヴァン・ネス、テノールのキース・ルイス、バスのサイモン・エステスは旋律をかなり引き伸ばしていて歌っている感じがするので、このレクイエム全体がジュリーニの世界で描かれています。1991〜93年のミラノ・スカラ座とのベートーヴェンの交響曲選集や同時期のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とのブラームスの交響曲全集(FC2ブログ記事)のように、旋律をこれほどまで長く伸ばしたのはジュリーニの晩年ならでは。

そして第三の特徴は崇高さと穏やかさ。最も激しいトラック3の「怒りの日」でも、ジュリーニは決して暴力的にはせずに、コーラスとオーケストラが生み出す巨大な渦に慈愛に満ちた穏やかさと、神への祈りのような崇高さを感じます。トラック15の「永遠の光を輝かせたまえ」もレガートに音を滑らかにつなげて幕を閉じます。

ジュリーニがフィルハーモニア管と再録音したモーツァルトのレクイエム。悠久のテンポでじっくりと旋律を引き出した個性的な演奏です。

オススメ度

評価 :4/5。

ソプラノ:リン・ドーソン
アルト:ヤルト・ヴァン・ネス
テノール:キース・ルイス
バス:サイモン・エステス
指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ
フィルハーモニア管弦楽団
フィルハーモニア合唱団
録音:1989年4月19日, ウォルサムストウ・アセンブリー・ホール

廃盤のため無し。

iTunesで試聴可能。

特に無し。

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コメント数:1

  1. モツレクという言葉は知っていましたが、曲をちゃんと聴いた事はありませんでした。若い頃は死は遠い世界のもので、レクイエム自体にあまり興味を持つことが無かったのだと思います。モーツァルトにも先入観で、華やかな作品が多いと思っていましたが、この曲は美しい中に敬虔さや切実さが感じられて、心にゆっくりと沁みて来ました。ここまできたら、ジュリーニによる三大レクイエム特集、後一つのヴェルディも聴いてみます。

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