このアルバムの3つのポイント

フォーレ「レクイエム」 キャスリーン・バトル/アンドレアス・シュミット/カルロ・マリア・ジュリーニ/フィルハーモニア管弦楽団(1986年)
フォーレ「レクイエム」 キャスリーン・バトル/アンドレアス・シュミット/カルロ・マリア・ジュリーニ/フィルハーモニア管弦楽団(1986年)
  • ジュリーニ晩年のフォーレのレクイエム
  • 崇高で心に響くカンタービレ
  • キャスリーン・バトルとアンドレアス・シュミットの歌声

イタリア出身の名指揮者カルロ・マリア・ジュリーニ(1914年-2005年)。壮年期はシカゴ交響楽団の首席客演指揮者(1969〜72年)、ウィーン交響楽団の首席指揮者(1973〜76年)、ロサンゼルス・フィルハーモニックの音楽監督(1978〜84年)などを歴任しましたが、配偶者の病気にためにロスフィルのポストを辞任し、晩年はヨーロッパでフリーの客演指揮者として活動しました。

ドイツのベルリン・フィルハーモニー管弦楽団バイエルン放送交響楽団、オーストリアのウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、オランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、イギリスのフィルハーモニア管弦楽団、イタリアのミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団など、ヨーロッパの名門オーケストラに客演し、レコーディングも多くおこなっています。

晩年のジュリーニの録音は、ブルックナーの後期交響曲で1984年5月にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とブルックナーの交響曲第8番ノーヴァク版を録音し、1988年6月に第9番も録音してどちらも音楽賞を獲得していますし、1987年3月にピアニスト、ヴラディーミル・ホロヴィッツとの協演でモーツァルトのピアノ協奏曲を録音しこちらもアメリカのグラミー賞を受賞しています。

年の瀬も近づいてきて、何だか心を浄化したい気分になってきますね。そんなときにピッタリなのが、フランスの作曲家ガブリエル・フォーレ(1845年-1924年)のレクイエムOp.48。

今回紹介するのは、ジュリーニがフィルハーモニア管を指揮して1986年5月に録音したもので、歌手はソプラノのキャスリーン・バトル、バリトンのアンドレアス・シュミット、そしてコーラスはフィルハーモニア合唱団が務めました。

晩年のジュリーニの演奏は、ゆったりとしたテンポでカンタービレ(歌うように)を意識して旋律を引き出し、そして崇高で慈愛に満ちているのが特徴ですが、このフォーレのレクイエムもその特徴が出ています。

第1曲の「入祭唱(イントロイトゥス)とキリエ」では、ニ短調のユニゾンによる低音から始まり、荘厳さを引き出しています。変ロ長調に転じるとオーケストラと合唱が柔らかく慈愛に満ちた温もりある響き。決して遅すぎず、たっぷりとしたテンポでゆったりと流れていきます。

第3曲「聖なるかな(サンクトゥス)」は弦とハープがヴェールのような優しい響きを生み出し、合唱が透き通るような儚い美しい歌声で魅せます。

第4曲「ああ、イエズスよ(ピエ・イェズ)」はソプラノ独唱。キャスリーン・バトルの温かみと透明感がある歌声に酔いしれます。

第6曲「われを許し給え(リベラ・メ)」はバリトン独唱から始まり、当時まだ25歳だった若きアンドレアス・シュミットの歌声が見事です。フォーレのレクイエムにはモーツァルトやヴェルディなどのレクイエムと違って「怒りの日(ディエス・イレ、Dies irae)」の単独の曲が無いのですが、このリベラ・メの中間部に怒りの日が書かれ、作品の中で最も劇的な曲想になります。ただ怒りの日はすぐに終わり、冒頭の楽句が繰り返され、静かに終わっていきます。

第7曲の「楽園にて (In Paradisum)」はオルガンの優しくて素朴な旋律の上に、ソプラノの澄み切った歌声が重なります。Wikipediaに「本来の死者ミサの一部ではなく、棺を埋葬する時に用いられる赦祷文に作曲したもの」との説明がありますが、フォーレのレクイエムがユニークなのはこの「楽園にて」が使われているところで、これが最後に来ることで聴く者の心を浄化してくれます。ジュリーニとフィルハーモニア管、そして合唱は慈愛に満ちたフォーレの旋律を紡ぎ出しています。

晩年のジュリーニがフィルハーモニア管とレコーディングしたフォーレのレクイエム。崇高で美しくて、聴く者の心が浄化されます。

オススメ度

評価 :5/5。

ソプラノ:キャスリーン・バトル
バリトン:アンドレアス・シュミット
フィルハーモニア合唱団
オルガン:ティモシー・ファレル
指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ
フィルハーモニア管弦楽団
録音:1986年5月12-16日, ワトフォード・タウン・ホール

iTunesで試聴可能。

特に無し。

Tags

コメント数:1

  1. 年末、怒涛のレクイエムシリーズですね。静かな祈りのひとときでした。キャスリーン・バトルは34年前に、テレビCMにオンブラマイフで登場した時に衝撃を受けて、すぐにCDを買った思い出があります。4曲目のソロでは、子守歌に泣き止む赤ん坊のように心が穏やかになって、なのになぜかジワっと来ました。

コメントを書く

Twitterタイムライン
カテゴリー
タグ
1976年 (21) 1977年 (16) 1978年 (19) 1979年 (14) 1985年 (14) 1987年 (17) 1988年 (15) 1989年 (14) 2019年 (21) アンドリス・ネルソンス (22) ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (85) ウィーン楽友協会・大ホール (59) エジソン賞 (19) オススメ度2 (14) オススメ度3 (80) オススメ度4 (120) オススメ度5 (155) カルロ・マリア・ジュリーニ (28) カール・ベーム (28) キングズウェイ・ホール (15) クラウディオ・アバド (24) クリスティアン・ティーレマン (18) グラミー賞 (29) コンセルトヘボウ (37) サー・ゲオルグ・ショルティ (55) サー・サイモン・ラトル (22) シカゴ・オーケストラ・ホール (23) シカゴ・メディナ・テンプル (16) シカゴ交響楽団 (53) バイエルン放送交響楽団 (35) フィルハーモニー・ガスタイク (16) ヘラクレス・ザール (21) ヘルベルト・フォン・カラヤン (33) ベルナルト・ハイティンク (38) ベルリン・イエス・キリスト教会 (22) ベルリン・フィルハーモニー (33) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (67) マウリツィオ・ポリーニ (17) マリス・ヤンソンス (43) ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 (18) リッカルド・シャイー (21) レコードアカデミー賞 (26) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (45) ロンドン交響楽団 (14) ヴラディーミル・アシュケナージ (28)
Categories