このアルバムの3つのポイント

ショスタコーヴィチ交響曲第1番, 14番, 15番, 室内交響曲 アンドリス・ネルソンス/ボストン交響楽団(2018-2020年)
ショスタコーヴィチ交響曲第1番, 14番, 15番, 室内交響曲 アンドリス・ネルソンス/ボストン交響楽団(2018-2020年)
  • 米国グラミー賞を3連覇したネルソンスとボストン響のショスタコーヴィチ・チクルスの最新盤第5弾!
  • 初期の交響曲第1番と後期の第14番・15番の組み合わせ
  • 室内交響曲も

いま最も注目されている指揮者の一人が、アンドリス・ネルソンスボストン交響楽団の音楽監督と、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスターを掛け持ちしているだけではなく、忙しい合間を縫って2019年にはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とのベートーヴェン交響曲全集を完成させ、日本のレコード・アカデミー賞を受賞しました。

ネルソンスとボストン響はショスタコーヴィチの交響曲全集に取り組んでいます。ネルソンスが契約しているドイツ・グラモフォン・レーベルの企画で、第5番から第10番までの交響曲選集+管弦楽作品の5枚のアルバムを予定していたそうですが、第1弾の交響曲第10番を含むアルバムが2015年の米国グラミー賞と英国グラモフォン賞を受賞するほどの反響があったため、交響曲全集の企画へと変更となりました。

ショスタコーヴィチの通からは作曲された時代の情勢や歴史的な背景が踏み込めていなくて「軽い」と評する方もいますが、私はボストン響の機能性を活かしてダイナミックで普遍的な演奏になっていると思います。

ボストン響には自主レーベル、BSO Classicsがあり、ボストン・シンフォニー・ホールでのライヴ録音は基本この自主レーベルからリリースされています。ネルソンスとは、2016年のブラームスの交響曲全集がありますね。

ただ、このショスタコーヴィチだけは、ドイツ・グラモフォンが引き続き制作・リリースすることになっています。そしてこのショスタコーヴィチ・チクルスは、第2弾の交響曲第5番、第8番、第9番のアルバムが2016年のグラミー賞、第3弾の交響曲第4番と交響曲第11番「1905年」のアルバムが2018年の米国グラミー賞を受賞する快挙。

第4弾の交響曲第6番、7番のアルバムは受賞を逃しましたが、ネルソンスとボストン響のショスタコーヴィチは、新しい時代の演奏と言えるでしょう。新譜のレコーディングはまだ評価が定まっていないので買うとリスクが高いのですが、ネルソンスとボストン響のショスタコーヴィチは珍しく安心して買えます。

その第5弾のアルバムが輸入盤、国内盤とも2021年6月25日にリリースされました。

2枚組で、CD1が交響曲第1番 ヘ短調 Op.10、交響曲第15番 イ長調 Op.141。CD2が交響曲第14番 ト短調 Op.135、室内交響曲 ハ短調 Op.110a(編曲:ルドルフ・バルシャイ)です。

私は年初にボストンに出張することが続いていましたが、2021年1月はコロナ下のために出張が無しになってしまい、ボストン響の公演を聴くことができませんでした。

2020年は、1月23日のボストン響の定期コンサートに行っていまして、ドヴォルザークの「新世界より」を中心とするプログラムを聴きました(FC2ブログ記事はこちら)。

その時に聴いた室内交響曲 Op.110a (弦楽四重奏曲第8番 Op.110)が、このアルバムに含まれています。あのときのボストン・シンフォニー・ホールで聴いた音を思い出しながらこのアルバムを聴いています。ショスタコーヴィチのイニシャルである「DSCH(レミ♭ドシ)」が多用される作品ですが、そのイニシャルの連呼が強烈に耳の奥に残っています。

ちなみにこちらはそのコンサートで「新世界より」を演奏した後のネルソンスとボストン響。ボストンの聴衆は基本ポジティブなので、演奏がひどすぎなければ基本はスタンディング・オベーションをするのですが、「新世界より」でも客席の3分の1ぐらいがスタンディング・オベーションでした。

演奏し終えて聴衆の拍手に応えるアンドリス・ネルソンスとボストン響。2020年1月23日@ボストン・シンフォニー・ホール
演奏し終えて聴衆の拍手に応えるアンドリス・ネルソンスとボストン響。2020年1月23日@ボストン・シンフォニー・ホール

さてこのアルバムですが初期と後期の作品をカップリングするという大胆なアルバムです。CD1が交響曲第1番から始まり、とても機能的な演奏になっています。この曲はショスタコーヴィチが音楽院の卒業制作で作曲されたもので、青年らしい大胆な発想とフレッシュな音楽が特徴。

続く第15番はショスタコーヴィチ最後の交響曲で、死を予感させる不気味な曲。これをネルソンスとボストン響はゆったりとしたテンポでどっしりと演奏していきます。「ウィリアム・テル」序曲の引用も控えめにさらっと流しています。

CD2は交響曲第14番から始まります。この曲はソプラノとバスの独唱がありますが、ソプラノのクリスティーヌ・オポライス(Kristīne Opolais)は当時、アンドリス・ネルソンスの配偶者でした。「当時」と書いたのはこの演奏が2018年2月なのでまだ婚姻関係にありました。ただ、2018年3月27日の発表でクリスティーヌはネルソンスと離婚したことを発表しています(ソースはWikipediaのアーカイブ)。

家庭生活は冷めていたであろう時期に、この無調に近い第14番を協演するとは。不協和音がまるで二人の将来を暗示しているようで、怖さすら感じます。

「室内交響曲」のほうが演奏会で生で聴いたからかインパクトがあります。このアルバムで一番白眉の出来だと思います。ボストン響の機能性を活かしたダイナミックな演奏です。

絶好調のアンドリス・ネルソンスとボストン交響楽団のショスタコーヴィチのチクルス第5弾。初期と後期の高曲を並べたアルバムで、ボストン響の機能性を活かしてゆったりとした演奏に仕上がっています。

オススメ度

評価 :4/5。

ソプラノ:クリスティーネ・オポライス
バス:アレクサンドル・ツィムバリュク
指揮:アンドリス・ネルソンス
ボストン交響楽団
録音:2018年2月(第14番), 2018年11月(第1番), 2019年4月(第15番), 2020年1月(室内交響曲), ボストン・シンフォニー・ホール(ライヴ)

【タワレコ】ネルソンス&ボストン響/ショスタコーヴィチ:交響曲第1,14&15番、室内交響曲(2枚組)

iTunesで試聴可能。

新譜のため未定。

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コメント数:2

  1. ボストン交響楽団との相性は悪くないのではと思います。
    ゲヴァントハウス管とのブルックナーと比べると指揮者の意図がより深く浸透しており、オーケストラもそれに共感しているように聴こえます。ネルソンスがロシア人であるからなのか、聞き手に対する説得力もブルックナーを遥かに越えていても不思議ではありません。

    • クライバーフェチ様
      コメントありがとうございます。
      ボストン出張時にはネルソンスとボストン響との演奏を欠かさず聴きに行くようにしていますが、団員の表情やアイコンタクトの様子を見るとネルソンスに対する全幅の信頼を感じます。
      このコンビではブラームスの全集などもありますが、評判になるのはショスタコーヴィチばかりな気がします。
      ネルソンスのルーツのアイデンティティも大きいと思います。

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