このアルバムの3つのポイント

ブルックナー交響曲全集 アンドリス・ネルソンス/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 (2016-21年)
ブルックナー交響曲全集 アンドリス・ネルソンス/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 (2016-21年)
  • ネルソンスとゲヴァントハウス管による壮麗なブルックナー
  • ヴァーグナーの作品と組み合わせ
  • 交響曲第3番は蘭エジソン賞、独オーパス・クラシック賞を受賞

2024年はブルックナーの生誕200年のアニバーサリー・イヤーで、元旦のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサートでも、このオーケストラとブルックナーの交響曲全集を完成させたクリスティアン・ティーレマンがブルックナーの『カドリール』を演目に入れて大きな注目を浴びました。他にも様々な指揮者、オーケストラがブルックナーの交響曲全集に取り組んでいて、老舗レーベル、ドイツ・グラモフォンではアンドリス・ネルソンス指揮でライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のコンビで全集を完成させています。

ネルソンスがゲヴァントハウス管のカペルマイスター (首席指揮者)に就いたのは2018年からですが、前任のリッカルド・シャイーミラノ・スカラ座の音楽監督に就くため任期途中の2016年に退任することになり、ネルソンスが次期カペルマイスターになる署名をしたのも2016年のこと。正式なポストに就く前ではありましたが、交響曲第3番とタンホイザーの序曲は既に2016年6月に録音されています。

交響曲第1番から第9番までと、第0番も録音。そしてヴァーグナーの楽曲も添えています。ほとんどはライヴ録音ですが、第0番とリエンツィとさまよえるオランダ人の序曲はスタジオ録音。特に第0番は演奏機会も少ないので、スタジオ録音でテンポを変えて演奏してみたりできたようです。

ブルックナー交響曲全集 アンドリス・ネルソンス/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 アイキャッチ画像

交響曲は2020年12月の第0番がラストで、さらにヴァーグナーのトリスタンとイゾルデの「前奏曲」と「愛の死」が2021年5月で全集にも含まれています。ブルックナーの交響曲はこれまで分売でリリースされていたのですが、第0番は分売されることなく、全集を買うしかないのが現状。全集を出すので最後の1 アルバム単体で売らないというのがクラシックのCD あるあるの話。。

ブルックナーへの興味は終わらない旅路〜2023来日公演でも演奏された9番

少し横道に逸れました。

ネルソンス&ゲヴァントハウス管は2023年11月に来日公演をおこなっていて、それに合わせて交響曲全集の国内盤が先行リリースになりました。実際に2023年11月22日のサントリーホール公演ではヴァーグナーのトリスタンとイゾルデの「前奏曲」と「愛の死」、そしてブルックナーの交響曲第9番を演奏したので、この全集の復習をするかのような演奏会でした。私も聴きに行ってきましたが、録音ではゲヴァントハウスでしたが演奏会場がサントリーホールに変わることで柔らかくも繊細な響きになり、さらにゲヴァントハウスではティンパニの連打が残響のために輪郭がぼやけていましたが、サントリーホールではそこがスッキリとなっていたのが印象的でした。詳しくは紹介記事をご覧ください。

「ブルックナーへの興味は終わらない旅路です。(中略) この30年間で私がどのようにブルックナーを指揮するか様子を見守ってください。ブルックナー指揮者としては私はまだ比較的若いので笑。またお話ししましょう!」と全集のブックレットで語っていたネルソンスですが、まさに第9番でこれを痛感したのが2023年11月でした。

ヘルベルト・ブロムシュテット時代の対向配置の伝統を受け継ぎ、ゲヴァントハウス管はこのブルックナーでも対向配置で演奏しています。実際にドイツ・グラモフォンの公式YouTubeで第3番第4番が映像で確認ができます。一方で、第8番はやや謎で、全集のブックレットの写真、おそらく2019年9月の演奏会の写真ではティンパニが2人になっていましたが、ゲヴァントハウス管の公式YouTube で2019年8月のルツェルン音楽祭での演奏会の映像がありますが、そちらではティンパニが1人になっています。

ネルソンス自身はブルックナーの版問題は深入りしない立場で、基本はレオパルト・ノーヴァクの新全集版のスコアを採用しています。第3番もノーヴァク版の第3稿ですし、第8番もノーヴァク版の第2稿です。ただ、第1番はリンツ稿とウィーン稿がある中で珍しいウィーン稿にしていたり、第2番はウィリアム・キャラガンによる新しい校訂版を採用したり、第7番はローベルト・ハースの旧校訂版を使ったり、というところがユニークなところです。ただ、第7番はハース版ではアドリブとなっている第2楽章のクライマックスのシンバルとトライアングルですが、ネルソンスはどちらの楽器も採用しています (トラックの18分01秒あたり)。

ヴァーグナーの楽曲を添えているように、ブルックナーでも壮麗な響きで描くネルソンスとゲヴァントハウス管。それが奇跡を生み出したのが交響曲第3番「ヴァーグナー」でしょう。カペルマイスター就任前の時期ですが、ゲヴァントハウス管からまろやかさと荒々しさの両面を引き出しています。このアルバムはオランダとドイツでも音楽賞を受賞したのも頷けます。

第1番のアダージョでのふわっと立ち上がるような軽さと官能的な美しさはネルソンスの真骨頂でしょう。

第9番は第1楽章の第1主題で59小節でフォルテからクレッシェンドして63小節にトゥッティでフォルテフォルテッシモになるのですが62小節から63小節で間髪入れることなく突入していきます。ネルソンスはこのフォルテフォルテッシモで小さなクレッシェンドを作ることで、ブルックナーのストレートな表現をするのではなくヴァーグナーらしい壮麗さを持った起伏を生み出しています。

一方で第5番第1楽章はティンパニの出番が多い曲ですが、同じ強さで連打せずに弱く始まってクレッシェンドしてからデクレッシェンドする演奏で、楽劇のようなドラマティックな演出が強くてヴァーグナーすぎるかなという印象も。

黄金期を迎えているネルソンスとゲヴァントハウス管によるブルックナーの交響曲全集。ヴァーグナーを添えた壮麗な響きで堪能してくれます。

オススメ度

評価 :4/5。

指揮:アンドリス・ネルソンス
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
録音:2016年6月(第3番, タンホイザー序曲), 2017年5月(第4番, ローエングリン序曲), 2018年3月(第7番, ジークフリートの葬送行進曲), 12月(第6番, 第9番, ジークフリート牧歌, パルジファル序曲), 2019年5月(第5番), 9月(第8番), 12月(第2番, ニュルンベルクのマイスタージンガー序曲), 2020年11月(第1番, リエンツィ序曲), 12月(第0番, さまよえるオランダ人序曲) ,2021年5月 (トリスタンとイゾルデ前奏曲と愛の死), ゲヴァントハウス (第2番〜9番はライヴ)

Apple Music で試聴可能。第3番第4番はドイツ・グラモフォンの公式YouTubeチャンネルで視聴可能。

交響曲第3番「ヴァーグナー」は2017年のオランダ・エジソン賞の管弦楽部門と2018年のドイツのオーパス・クラシック賞のアンサンブル&オーケストラ部門を受賞。

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