このアルバムの3つのポイント
- カラヤンが唯一録音したショスタコーヴィチの交響曲第10番
- ベルリンフィルの機能性とカラヤンの音楽作りの結晶
- 第2楽章の一糸乱れぬアンサンブル
ショスタコーヴィチの交響曲第10番
ドミトリ・ショスタコーヴィチは第9番を完成させた後、8年間、交響曲を書かなかった。スターリンの死を受けてようやく着手したこの第10番は、ほんの3ヶ月程で完成させ、1953年12月にエフゲニー・ムラヴィンスキー指揮のレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団が初演を行った。
この曲は当時のソ連を思い浮かべさせるように、第1楽章から非常に重たい曲想。重圧と戦っている感じがする。全体を通して感じるのは、喜びではなく不安。
ショスタコーヴィチの名前Dmitri Shostakovichが、ドイツ語で頭文字を取るとD.Sch.とつづられることから、彼は自分の作品にD(レ)、S(Es=ミ♭)、C(ド)、H(シ)という音型をよく入れた。この第10番でも第3楽章に執拗なぐらいこのDSCHが入っている。
交響曲第10番しか演奏しなかったヘルベルト・フォン・カラヤン
1908年生まれのカラヤンは、1906年生まれのショスタコーヴィチと同年代。しかし、ショスタコーヴィチの交響曲は第10番しか演奏しなかった。1969年のベルリンフィルのモスクワ公演でも、ショスタコーヴィチが聴衆として参加した中で彼の第10番の交響曲を演奏している。録音も3回行っているが、他の交響曲の録音はない。この曲への強い思い入れがあるのであろう。
今回紹介する録音は1966年11月、ベルリンのイエス・キリスト教会での録音。この年の4月から5月にカラヤンはベルリンフィルとともに来日し、3週間で5都市11公演もおこなっている。東京文化会館でのブルックナーの交響曲第8番のライヴ録音についてはこちらの記事で紹介している。
さてその半年後の録音がこのショスタコーヴィチなのだが、音がこもった感じがして、音質はイマイチなのが惜しい。60年代のカラヤンは、ウィーンフィルと次々と名盤を残しているが、このベルリンフィルとのショスタコーヴィチもすごい。オケの持つスケールの大きさ、金管の壮麗さ、完璧なアンサンブル、機動力などなど。
無機質な第1楽章、圧巻の第2楽章
第1楽章はうまいのだが、無機質な印象がする。まるで圧政に苦しむ民衆を表現しているかのように、容赦ない苦悩を浴びせられている感じだ。
この録音で一番圧巻なのは、やはり第2楽章。息もつかずに疾走する5分足らずの楽章でこのカラヤン/ベルリンフィルの録音では4分11秒という速さ。ベルリンフィルの一糸乱れぬ精緻なアンサンブルが聴き応えある。
第3楽章は宙ぶらりんのような居心地の悪さを感じる楽章。ふざけているようにも思えるし、舞曲のようなテンポもある。ここでカラヤンとベルリンフィルは一切冗談を交えずに、シリアスにこの楽章を演奏している。
第4楽章ではベルリンフィルの名技が光る。壮年期のカラヤンらしくシャープで切れ味鋭い指揮だ。
まとめ
カラヤンの完璧な音楽作りと、ベルリンフィルの圧巻の名技が掛け合わさった壮大なショスタコーヴィチ。他の交響曲も演奏して欲しかった、と思わせる名盤。
オススメ度
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1966年11月, ベルリン、イエス・キリスト教会
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受賞
特に無し。
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