このアルバムの3つのポイント

ショスタコーヴィチ交響曲第10番 カラヤン/ベルリンフィル(1966年)
ショスタコーヴィチ交響曲第10番 カラヤン/ベルリンフィル(1966年)
  • カラヤンが唯一録音したショスタコーヴィチの交響曲第10番
  • ベルリンフィルの機能性とカラヤンの音楽作りの結晶
  • 第2楽章の一糸乱れぬアンサンブル

ドミトリ・ショスタコーヴィチは第9番を完成させた後、8年間、交響曲を書かなかった。スターリンの死を受けてようやく着手したこの第10番は、ほんの3ヶ月程で完成させ、1953年12月にエフゲニー・ムラヴィンスキー指揮のレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団が初演を行った。

この曲は当時のソ連を思い浮かべさせるように、第1楽章から非常に重たい曲想。重圧と戦っている感じがする。全体を通して感じるのは、喜びではなく不安。

ショスタコーヴィチの名前Dmitri Shostakovichが、ドイツ語で頭文字を取るとD.Sch.とつづられることから、彼は自分の作品にD(レ)、S(Es=ミ♭)、C(ド)、H(シ)という音型をよく入れた。この第10番でも第3楽章に執拗なぐらいこのDSCHが入っている。

1908年生まれのカラヤンは、1906年生まれのショスタコーヴィチと同年代。しかし、ショスタコーヴィチの交響曲は第10番しか演奏しなかった。1969年のベルリンフィルのモスクワ公演でも、ショスタコーヴィチが聴衆として参加した中で彼の第10番の交響曲を演奏している。録音も3回行っているが、他の交響曲の録音はない。この曲への強い思い入れがあるのであろう。

今回紹介する録音は1966年11月、ベルリンのイエス・キリスト教会での録音。この年の4月から5月にカラヤンはベルリンフィルとともに来日し、3週間で5都市11公演もおこなっている。東京文化会館でのブルックナーの交響曲第8番のライヴ録音についてはこちらの記事で紹介している。

さてその半年後の録音がこのショスタコーヴィチなのだが、音がこもった感じがして、音質はイマイチなのが惜しい。60年代のカラヤンは、ウィーンフィルと次々と名盤を残しているが、このベルリンフィルとのショスタコーヴィチもすごい。オケの持つスケールの大きさ、金管の壮麗さ、完璧なアンサンブル、機動力などなど。

第1楽章はうまいのだが、無機質な印象がする。まるで圧政に苦しむ民衆を表現しているかのように、容赦ない苦悩を浴びせられている感じだ。

この録音で一番圧巻なのは、やはり第2楽章。息もつかずに疾走する5分足らずの楽章でこのカラヤン/ベルリンフィルの録音では4分11秒という速さ。ベルリンフィルの一糸乱れぬ精緻なアンサンブルが聴き応えある。

第3楽章は宙ぶらりんのような居心地の悪さを感じる楽章。ふざけているようにも思えるし、舞曲のようなテンポもある。ここでカラヤンとベルリンフィルは一切冗談を交えずに、シリアスにこの楽章を演奏している。

第4楽章ではベルリンフィルの名技が光る。壮年期のカラヤンらしくシャープで切れ味鋭い指揮だ。

カラヤンの完璧な音楽作りと、ベルリンフィルの圧巻の名技が掛け合わさった壮大なショスタコーヴィチ。他の交響曲も演奏して欲しかった、と思わせる名盤。

オススメ度

評価 :3/5。

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1966年11月, ベルリン、イエス・キリスト教会

【タワレコ】ショスタコーヴィチ:交響曲第10番(SHM-CD)

iTunesで試聴可能。

特に無し。

Tags

コメントはまだありません。この記事の最初のコメントを付けてみませんか?

コメントを書く

Twitterタイムライン
カテゴリー
タグ
1976年 (21) 1977年 (16) 1978年 (19) 1979年 (14) 1985年 (14) 1987年 (17) 1988年 (15) 1989年 (14) 2019年 (21) アンドリス・ネルソンス (22) ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (85) ウィーン楽友協会・大ホール (59) エジソン賞 (19) オススメ度2 (14) オススメ度3 (80) オススメ度4 (120) オススメ度5 (155) カルロ・マリア・ジュリーニ (28) カール・ベーム (28) キングズウェイ・ホール (15) クラウディオ・アバド (24) クリスティアン・ティーレマン (18) グラミー賞 (29) コンセルトヘボウ (37) サー・ゲオルグ・ショルティ (55) サー・サイモン・ラトル (22) シカゴ・オーケストラ・ホール (23) シカゴ・メディナ・テンプル (16) シカゴ交響楽団 (53) バイエルン放送交響楽団 (35) フィルハーモニー・ガスタイク (16) ヘラクレス・ザール (21) ヘルベルト・フォン・カラヤン (33) ベルナルト・ハイティンク (38) ベルリン・イエス・キリスト教会 (22) ベルリン・フィルハーモニー (33) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (67) マウリツィオ・ポリーニ (17) マリス・ヤンソンス (43) ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 (18) リッカルド・シャイー (21) レコードアカデミー賞 (26) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (45) ロンドン交響楽団 (14) ヴラディーミル・アシュケナージ (28)
Categories