このアルバムの3つのポイント
- ブルックナーの大家、オイゲン・ヨッフムによる2回目の交響曲全集
- シュターツカペレ・ドレスデンとの劇的な響き
- よりエッジが効いた尖った演奏
ブルックナーの大家、オイゲン・ヨッフム
オイゲン・ヨッフムは1902年生まれのドイツの指揮者で、カール・ベーム(1894年生まれ)やヘルベルト・フォン・カラヤン(1908年生まれ)たちと同時代に活躍しました。Wikipediaの解説によると、ベームやカラヤンに比べると生前の人気は振るわなかったということですが、ヨッフムのブルックナーの演奏については今日でも一目置かれています。
ヨッフムはブルックナー国際協会の会長も務めたことがあり、ブルックナーの交響曲全集も2回完成させています。
オイゲン・ヨッフム2回目のブルックナーの交響曲全集
1回目の全集は1958年から1967年にかけてベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とバイエルン放送交響楽団を振り分けて9つの交響曲を録音しました。こちらの記事で紹介しましたが、華やかさとは正反対の武骨な演奏で、ブルックナーの真髄を伝えてくれました。ドイツ・グラモフォン・レーベルからリリースされています。
2回目の全集は、1975年から1980年にかけてシュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立管弦楽団とも言います)を指揮して録音したもので、こちらはEMI(現在はワーナー・クラシックス)からリリースされています。最新盤は2020年3月にリリースされています。こちらで紹介しましたが、タワーレコードのワーナー・クラシックスのセールでヨッフム指揮の2回目のブルックナーの交響曲全集がCD9枚のBOXで何と税込1,624円。バナナの叩き売り状態です。私も背中を押された気分でこの機会に買ってみました。
ワーナー・クラシックスの良いところは、値段は安いのですが、ちゃんとオリジナルジャケットの写真を使っているところです。こちらがCD BOXのカバー写真と9枚のジャケットの写真ですが、まるでおじいちゃんが観光地で記念写真を撮っているかのようなかわいらしい感じがします。
より尖った演奏
通常は、壮年期は尖った演奏や引き締まった演奏をしていた指揮者も、歳を取るとまろやかで丸みを帯びてくる演奏になるものですが、ヨッフムのこのブルックナーの再録は違います。よりエッジが効いた尖った演奏となっているのです。解釈は1回目と大きくは違わなく、やはり武骨だなぁという印象ですが、響きがさらにゴツゴツしたというか、耳に障るようなところもあります。1回目では抑えていた金管楽器も、2回目の全集ではわめくように鳴らしています。これがヨッフムが行き着いたブルックナーの答えなのでしょう。交響曲第9番は相変わらず厳しくて聴衆に媚びないというか、近付けない雰囲気を出しています。
交響曲第3番「ヴァーグナー」や交響曲第5番なんかはちょっとうるさすぎると感じてしまうところもありました。
スコアの版は?
ブルックナーの交響曲で気になるのは、どのバージョンの版を使っているかということ。こちらの記事に書いていますが、ブルックナーは改訂癖があったため、どの時点の改訂版を使うかは指揮者の意思表示でもあります。ヨッフムは1回目の全集でも、ブルックナー協会お墨付きのノーヴァク版を使っていましたが、2回目の全集でも同じ版を使用しています。
- 交響曲第1番ヘ短調 WAB.101(リンツ稿/ノーヴァク版)
- 交響曲第2番ハ短調 WAB.102(1877年版)
- 交響曲第3番ニ短調 WAB.103(1888-89年版)
- 交響曲第4番変ホ長調『ロマンティック』 WAB.104(ノーヴァク版)
- 交響曲第5番変ロ長調 WAB.105(1878年版)
- 交響曲第6番イ長調 WAB.106(原典版)
- 交響曲第7番ホ長調 WAB.107(ノーヴァク版)
- 交響曲第8番ハ短調 WAB.108(ノーヴァク版)
- 交響曲第9番ニ短調 WAB.109(ノーヴァク版)
オーケストラの違いは
1回目ではドイツを代表するオーケストラのベルリンフィルと設立後間もないフレッシュなバイエルン放送響という組み合わせで、演奏レベルはかなり高かったですが、2回目ではシュターツカペレ・ドレスデン。はっきり言って、演奏レベルは若干落ちている印象です。ライヴ録音ではなく何日も掛けたセッション録音なのですが、オケがミスっているところがたまにあります。交響曲第8番では第1楽章の中盤や第2楽章の終盤で金管が滑ったり、弦の響きが裏返る第3楽章の中盤など、結構キズが目立ちます。交響曲第8番のアルバムは唯一日本のレコードアカデミー賞を受賞しているのですが、音楽評論家のプロは本当にこれがこの年のベストの交響曲録音だと思ったのでしょうか。。
まとめ
値段の安さで買ってみたオイゲン・ヨッフムの2回目のブルックナーの交響曲全集ですが、旧録をしのぐエッジの効いた演奏で、驚きました。ただ、オーケストラの力量も考えるとベルリンフィルとバイエルン放送響との1回目の全集のほうが良かったかなと思います。
オススメ度
指揮:オイゲン・ヨッフム
シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1975年12月1-7日(第4番), 1976年11月3-7日(第8番), 1976年12月11-14日(第7番)
1977年1月22-27日(第3番), 1978年1月13-16日(第9番), 1978年6月9-13日(第6番), 1978年12月11-15日(第1番), 1980年2月25日-3月3日(第5番), 1980年7月4ー7日(第2番), ドレスデン・聖ルカ教会
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
交響曲第8番が日本の1979年度レコード・アカデミー賞「交響曲部門」を受賞。
コメント数:2
私もヨッフム指揮ドレスデンのブルックナーはあまり好みません。特に第8はアンサンブルが雑な印象。第2や第3は良い演奏だと思いますが。
ヨッフムのスタンスは楽天的なのですね。深刻ぶる必要はありませんし、これが彼の持ち味なのでしょうけれど。
クライバーフェチさん、コメントありがとうございます。
ヨッフムのブルックナーの録音はドレスデンのほうだとレコードアカデミー賞を取っていたので旧録よりも良いのかと思って楽しみに聴いてみたのですが、「あれ?」という印象でした。
確かにヨッフムのブルックナーは深刻な演奏ではないですね。良い意味で着飾らないところが特徴かなと思います。