気品と繊細さ、そして大胆なテンポ・ルバート ショパンのバラード全集 クリスチャン・ツィメルマン(1987年)

クリスチャン・ツィメルマン ショパン バラード全集(1987年)

このアルバムの3つのポイント

クリスチャン・ツィメルマン ショパン バラード全集(1987年)
クリスチャン・ツィメルマン ショパン バラード全集(1987年)
  • ポーランド出身のピアニストでショパン国際コンクール優勝者のツィメルマンによるバラード全集
  • クリスタルように透明な音色
  • 気品と繊細さ、そして大胆なテンポ・ルバート

コロナ禍で1年延長になったピアニストの登竜門、ショパン国際コンクールが今年(2021年)10月におこなわれました。YouTubeでライヴ配信もされ、そして出場者によってはTwitterなどのSNSで積極的に情報発信していたので、現地にいなくても例年以上に世界中のクラシック音楽ファンの注目を集めていたと感じます。

日本からの参加者もレベルが高かったですね。第2位タイの反田恭平さん、2回連続の出場で第4位になった小林愛実さんが入賞してYahooニュースでも大きく話題になっていました。私は牛田智大さんに注目をしていました。まだ彼が12歳ぐらいだったと思いますが、東京・渋谷のタワーレコードでミニ演奏会で初めて聴いて、「神童現る」と衝撃が走ったのですが、その彼も21歳となり第2次予選まで進んでさらに成長しているのだなぁと思ったものでした。

さて、クラシック音楽の月刊誌「音楽の友」2021年12月号ではそのショパンコンクールの特集があります。私は定期購読はしていないので、パラッと立ち読みして気に入った内容があれば買うようにしているのですが、今月号は2022年のカレンダー付録があるため、ビニル包装で包まれていて中身が読めませんでした。表紙の「追悼 ベルナルト・ハイティンク」の文字を見て購入したのですが、開けて読んでみると、そのハイティンク特別記事がたったの2ページだけというオチ。「やられたなぁ」と思って、追悼記事を読み終えてそのままショパンコンクールの特集を読み進めたのですが、過去のコンクールの優勝者にも語られていました。

ポーランド出身のピアニスト、クリスチャン・ツィメルマン(クリスティアン・ツィマーマンとも)。1975年のショパン国際コンクールに、史上最年少の18歳で優勝し、一気にスターダムに上り詰めました。そのツィメルマンのエピソードが書かれています。

当時18歳だった彼は、祖国の期待を一身に背負い、「ものすごいプレッシャーを感じ、自分自身がつぶされそうな思いでステージに立った」そうだ。このときの本選では、チケットの入手できない聴衆が会場に押しかけ、大騒ぎになったほど。

音楽の友2021年12月号「特集1 第18回ショパン国際ピアノコンクールー青春の激闘22日間」より

また、10月17日に放送されたNHK Eテレの番組「クラシック音楽館」では、「ショパンコンクールのレジェンドたち」という企画で、過去のコンクールの映像や優勝者などの演奏の映像が盛りだくさんにありました。

ツィメルマンは1975年のコンクール優勝について次のように語っています。

ショパン国際コンクールについて語るクリスチャン・ツィメルマン (c) NHK
ショパン国際コンクールについて語るクリスチャン・ツィメルマン (c) NHK

(ショパン国際コンクールで優勝したときは)間違いなく人生で最高の瞬間でした。死ぬまで忘れないでしょう。あの瞬間に人生が変わりました。

クリスチャン・ツィメルマン、NHK クラシック音楽館「ショパンコンクールのレジェンドたち」(2021年10月17日放送)

ツィメルマンの弾くショパンは気品と繊細さがありつつも、強靭さを感じる演奏で、さすがだなと思いますが、決してショパン一辺倒ではなく、ベートーヴェン、シューベルト、リスト、ブラームス、ドビュッシー、ラヴェル、ラフマニノフなどレパートリーは多岐に渡ります。そして1つ1つの作品をじっくりと考えて解釈しているので、演奏は見事なものがありますし、録音には慎重なので、リリースされるレコードは全てレベルが高いものばかり。

こちらの記事で紹介しましたが、2020年にサー・サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団との協演でベートーヴェンのピアノ協奏曲全集をレコーディングし、今年リリースしていて、今までのツィメルマンよりも慈愛が増したような演奏で評価も高いです。

昨年はコロナ禍で世界のオーケストラ、指揮者、そしてソリストたちの来日公演がことごとく中止、延期になってしまいましたが、今年は秋から少しずつ戻りつつあります。ピアニストでもラファウ・ブレハッチ、エフゲニー・キーシンが来日リサイタルをおこなっています。

そして11月末から来日リサイタルを予定しているのがツィメルマン。曲目はJ.S.バッハのパルティータ第1番BWV825、同第2番BWV826と、ブラームスの3つの間奏曲Op.117、そしてショパンのピアノ・ソナタ第3番Op.58。私は行けなかったのですが、10月に来日リサイタルを開いた同じくポーランド出身のピアニスト、ラファウ・ブレハッチもバッハのパルティータ第2番とショパンのピアノ・ソナタ第3番を演奏していて、両方行かれる方は聴き比べもできますね。

私もツィメルマンのリサイタルは過去に3回か4回行っていて、前回が2014年1月のベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタのリサイタル(FC2ブログ記事)でした。久しぶりに今回は行ってみようと思い、今年のリサイタルの一つに聴きに行く予定です。

今回の来日リサイタルでショパンのピアノ・ソナタ第3番が目玉になりそうですが、意外にもツィメルマンのショパン録音は少ないのです。

今回紹介するバラード全集、1978年と79年のカルロ・マリア・ジュリーニ指揮ロサンゼルス・フィルハーモニックとのピアノ協奏曲全集、そして1999年のツィメルマン自身のピアノと指揮の引き振りによるポーランド祝祭管弦楽団とのピアノ協奏曲全集の再録音ぐらいです。ショパンコンクールで演奏したマズルカを録音でも聴いてみたいところですが。

このバラード全集は1987年7月のドイツ・ビーレフェルトのルドルフ・エトカー・ホールでの録音で、第1番から第4番までのバラードと、舟歌Op.60、さらに幻想曲Op.49が含まれています。

新即物主義的な演奏が多い中、ツィメルマンは大胆な演奏をすることも少なくありません。2006年のサントリーホールでのピアノ・リサイタルではベートーヴェンの「悲愴」ソナタの第2楽章「アダージョ カンタービレ」で私の体感ではLento(遅く)ぐらいのゆっくりさで演奏していました。

このバラードでも第1番でしんみりとしたフレーズでテンポを一気に遅くし、「溜め」を効かせています。そしてテンポをぐっと上げて一気呵成に駆け下りていくのですが、このテンポ・ルバートがとても大胆です。またスタジオ録音なのですが、ツィメルマンの息遣いも鮮明に聴こえ、まるでリサイタルで聴いているかのような印象があります。

第2番や第4番も良いですが、第3番は「水の精霊」を思わせるようなクリスタルの透明感があって私の中では理想的な演奏だと思います。

舟歌や幻想曲もじっくりと弾き込まれていてレベルが高いです。どれもツィメルマンのヴィルトゥオーソぶりが感じられますね。

ツィメルマンが満を持してレコーディングしたショパンのバラード全集。私の中では1964年のヴラディーミル・アシュケナージの録音と並んで愛聴しているバラード全集の決定盤です。

オススメ度

評価 :5/5。

ピアノ:クリスチャン・ツィメルマン
録音:1987年7月, ルドルフ・エトカー・ホール

iTunesで試聴可能。

特に無し。1989年の米国グラミー賞「BEST CLASSICAL PERFORMANCE – INSTRUMENTAL SOLOIST (WITHOUT ORCHESTRA)」にノミネートされるも受賞ならず。

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