このアルバムの3つのポイント
- クック補筆版による、5楽章形式のマーラーの交響曲第10番
- 1999年ベルリン・フィルのライヴ録音
- 英国グラモフォン賞&ブリット・アワード、米国グラミー賞、オランダのエジソン賞を受賞!
補筆版による5楽章形式のマーラーの交響曲第10番
グスタフ・マーラーは第9番までの交響曲と、「大地の歌」を完成させていますが、第10番嬰ヘ長調については第1楽章を書き上げて残りの楽章はスケッチ止まりの段階で亡くなってしまいます。
1960年代のレナード・バーンスタインやゲオルグ・ショルティなどのマーラーを得意とした指揮者たちによる交響曲の録音から人気を集めて、現在のオーケストラの主要なレパートリーとなったマーラー。交響曲全集も数多く録音されてきましたが、第10番をどう扱うで指揮者の意思が伺えます。
例えば、バーンスタインとベルナルト・ハイティンク、クラウディオ・アバド、ラファエル・クーベリックは全集で第10番は第1楽章のアダージョだけ録音しました。一方で、ショルティは第10番は録音していません。
音楽学者のデリック・クックは1959年からマーラーの10番のスケッチから第2楽章から5楽章のオーケストレーションを復元し、補筆版として発表しています。何回か改訂をおこない、1972年に発表、1976年に出版された第3稿がクック版の最終稿となりますが、さらにベルトルト・ゴルトシュミットとコリン・マシューズとデイヴィッド・マシューズの兄弟による校訂版が1989年に出版されたクック第3稿第2版です。
そして最近の指揮者では「補筆版」による演奏も増えてきました。
Wikipediaにも様々な版が載っています。
1986年10月にリッカルド・シャイーがベルリン放送交響楽団(現ベルリン・ドイツ交響楽団)を指揮した録音や、2011年6月のコンセルトヘボウでエリアフ・インバルが演奏した映像作品がありますし、ダニエル・ハーディングもウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と補筆版による録音をおこなっています。
サイモン・ラトルは1980年6月にイギリスのボーンマス交響楽団とクック補筆版第3稿による録音をおこなっていて、さらに1999年9月に後に首席指揮者を務めるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とクック補筆版第3稿第2版によるライヴ録音をおこなっています。今回紹介するディスクです。
英国、米国、オランダで受賞
ラトルとベルリンフィルによるマーラーの交響曲第10番の録音は、ラトルとベルリンフィルの演奏力だけではなく、補筆版による貴重な5楽章の全曲録音という価値も評価されたのでしょう。英国グラモフォン賞、しかもレコード・オブ・ザ・イヤーを受賞していますし、米国グラミー賞、オランダのエジソン賞でもそれぞれ管弦楽部門を受賞した名盤です。
天国の続き
この第10番の第1楽章アダージョは、第9番の第4楽章で天国的な美しさを表し、最後には弦だけで死に絶えるように弱々しく消えていった続きを表しているようです。安らぎやはち切れんばかりの美しさがありますが、マーラーらしく苦痛のような倚音(いおん)を混ぜてきます。この交響曲ではときに激しい不協和音が強音で鳴らされ、前衛的でもあり、後の近代音楽を先取りした感じもします。
第2楽章はスケルツォ、第3楽章はプルガトリオ(煉獄)と書かれたアレグレット・モデラート。第4楽章は明示されていませんが内容的にはスケルツォ、そして第5楽章のフィナーレという構成ですが、第2楽章以降はクックらによる補筆版なので、全てをマーラーが書いた音楽ではないのですが、ここまで激しく支離滅裂な感じすらする交響曲には、一度聴くと忘れられない不思議なパワーがあります。
ラトルが引き出したベルリンフィルの力強さと特に弦の美しさは見事です。フィナーレの壮大さ、そして第9番のフィナーレと同様に静かに静かに消えていくその表現力に圧倒されます。
まとめ
クック補筆版第3稿第2版によるマーラーの交響曲第10番。サー・サイモン・ラトルとベルリンフィルによる代表的な名盤の一つでしょう。
オススメ度
指揮:サー・サイモン・ラトル
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1999年9月24, 25日, ベルリン・フィルハーモニー(ライヴ)
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
2000年の英国グラモフォン賞の「Orchestral 」と「Record of the Year」を受賞。
2001年のオランダ・エジソン賞の「ORKESTMUZIEK」を受賞。
2000年の米国グラミー賞の「BEST ORCHESTRAL PERFORMANCE」を受賞、「BEST CLASSICAL ALBUM」にもノミネート。
2001年の英国クラシック・ブリット・アワードのアンサンブル/管弦楽およびアルバムオブザイヤー、批評家賞を受賞。
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