このアルバムの3つのポイント
- 好調なロト指揮によるブルックナー全集の第2弾
- 珍しい第1稿による第4番「ロマンティック」
- ヴァントゆかりのギュルツェニヒ管によるブルックナー
ブルックナーの交響曲全集に取り組むロト&ギュルツェニヒ管
2024年は作曲家アントン・ブルックナーの生誕200年のアニバーサリー。これに向けて交響曲全集のレコーディングが様々な指揮者&オーケストラで進んでいます。
一足早く完了したのが、アンドリス・ネルソンス指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団。老舗のドイツ・グラモフォン・レーベルからリリースされているレコーディングで、第0番、第1番〜9番の10曲で、2016年6月から2021年5月に録音しています。全集としては2023年10月下旬の発売を予定していて、11月下旬に予定しているこのコンビの来日公演前に出るのは嬉しいですね。私はブルックナーの交響曲第9番を演奏する11月22日のサントリーホール公演に行く予定です。
もう一方はソニー・クラシカルからリリースされるクリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による全集。映像作品はC Major レーベルから出ていて私はこれまでに出た5つの分売を聴き進めこちらの記事で紹介しましたが、ソニーからはCD で2023年10月中旬(輸入盤のCD)と下旬(国内盤のSACDハイブリッド)が予定されています。ブルックナーの生前からゆかりの深いウィーンフィルですが、意外にも一人の指揮者による交響曲全集のレコーディングは初めての試みとなりました。しかも第00番と第0番も含めた11の交響曲をライヴ録音しています。
また全集ではないですが、交響曲第4番「ロマンティック」について、現代の音楽学者を支援するサー・サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団が2021年10月に「2021年グンナー=コールス版」による世界初録音をおこない、様々な改訂版の演奏を含めて収録しました。
そして今回紹介するのは、フランス出身の指揮者フランソワ=グザヴィエ・ロト。音楽評論家からの評価も高く、2023年7月号で休刊となってしまいましたがレコード芸術の特選の常連で、近年のレコード・アカデミー賞を毎年のように受賞していますし、英国グラモフォン賞、オランダのエジソン賞やドイツ(2020年のドイツ・レコード批評家名誉賞)などの受賞歴もあります。
ロト自身によって2003年に結成されたフランスのアンサンブル「レ・シエクル管弦楽団」との演奏が多いですが、ロトは2015年からドイツ・ケルンにあるケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団の首席指揮者も務めています。このギュルツェニヒ管とブルックナーの交響曲全集に取り組んでいて、第1弾が交響曲第7番、そして第2弾が今回紹介する第4番「ロマンティック」です。
第1槁による「ロマンティック」
交響曲第4番「ロマンティック」はブルックナーの中でも人気の作品ですが、3つの槁があり、
- 1874年第1稿:ブルックナーがベルリンに送るも演奏されることなく、楽譜が返却されなかったもの。全曲が初演されたのは1975年になってからクルト・ヴェルス指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団によるものでした。
- 1878〜80年第2稿:第1稿について「第4交響曲は根本的な改訂を必要としている。アダージョ(第2楽章)のヴァイオリン音形が難しすぎ、演奏不可能。楽器法も随所で厚ぼったく落ち着きがない。」とブルックナー自身が書面で語っていて、校訂したもの。全く新しく短く書き直し、1880年10月に「第4が完成した。」とブルックナーが手紙に書いています。1881年2月にウィーンフィルが初演をおこない、各楽章ごとを終えるたびに大きな歓呼が起こったと言われています。
- 1888年第3稿:出版のためにレーヴェやシャルク兄弟によって楽器を変えたりカットされたりしたもの。
ブルックナー存命から人気だったのは第2稿で今日でも最もポピュラーですが、ここでロトは1874年の第1稿によるスコアを使用しています。最近は取り上げる指揮者が増えてきているとは言え、まだまだ非常に珍しいです。特に第3楽章は第1稿と2稿で全く別の音楽になってしまい、光が差し込むような明るい第2稿のスケルツォに対して、第1稿では暗い森の世界のような怖さがあります。
新鮮さとえぐるような鋭さ
「初めて一緒にブルックナーを演奏したときに全ての交響曲を演奏しなければならないと確信した」とCDの解説に載っていたロトのコメント。首席指揮者を務めるギュルツェニヒ管と始めたブルックナーの交響曲チクルスで、第1弾の第7番でも話題になっていましたがこの第2弾の第4番はさらにすごいです。
単に第1稿を使っているというだけではなく、ロトとギュルツェニヒ管の演奏はイキイキとした新鮮さを持ちながらも随所にえぐるような鋭さを持っています。第3楽章の吹き出すような感情のうなりは実に見事で、第1稿の「ロマンティック」にはブルックナーの粗削りな表現の吐露が見られるようで改訂版の洗練されたものとは違う新しい発見があります。このまるで目の前で演奏されているかのような迫力あるmyrios classics レーベルの録音技術(Digital eXtreme Definition: DXD)も見事。第4楽章のフィナーレではあまりの音圧に圧倒されてしまいました。
いつもは輸入盤のCD を買っている私ですが、今回は解説を読みたくて割高ですが国内盤を買ってみましたが、これはずっと手元に置いておきたい1枚になりそうです。
まとめ
鬼才ロトが挑むブルックナーの世界。第1稿を用いた第4番「ロマンティック」で、ブルックナーを聴き慣れた方でも新しい発見がある度肝を抜く演奏です。
オススメ度
指揮:フランソワ=グザヴィエ・ロト
ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団
録音:2021年9月19-21日, ケルン・フィルハーモニー (ライヴ)
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試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
新譜のため未定。
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