定盤・名盤シリーズの一つだったハイティンク&VPOのブル5
今日紹介するのはオランダの指揮者ベルナルト・ハイティンク (1929-2021年)がウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と録音したブルックナー交響曲第5番のアルバム。

1988年3月と5月に収録されたものですが、ハイティンクは長年務めたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者を同年4月に退任しています。退任直前にベートーヴェンの交響曲全集を完成させ、日本のレコード・アカデミー賞を受賞。ウィーンフィルとはブルックナーの交響曲全集を予定していましたが、レーベルのフィリップス側の都合で頓挫することになりますが、この年はまさにハイティンクの新天地への羽ばたき。
私は2010年3月発売のデッカの「定盤シリーズ」で税抜き1,600円で購入しました。当時は国内盤で1,000円とか1,200円の廉価アルバムが出ていたとき。高音質では通常のCDでもついに1枚1,600円になったかと実感したものでしたが、ブルックナーの交響曲第5番はその時絶対的な存在に出会えていなかったので「定盤」の文字に吸い寄せられるるように購入したものでした。
その後、2014年8月の「栄光のウィーン・フィル名盤100」シリーズでも再発売されていますが、現在は配信では聴けますがCDではユニバーサル本家では廃盤になっていて、タワーレコード企画盤のブルックナー交響曲選集 (2017年12月発売)でセットで入手できます。
ちなみに2015年のデッカの「New定盤シリーズ」では、ハイティンクのブルックナーの録音は交響曲第7番と9番はありますが第5番は除外され、さらに 2019年の「定盤 Premium」では同曲はハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーンフィル (1956年)の録音に置き換わっています。
「非常にゆっくり」でもゆっくりにしないアダージョ
この第5番は序奏のブルックナー霧は葉がそよ風で揺れるようで、目を覚ますかのような鋭いコラールが始まります。ハイティンク59歳の指揮で、後の自然体の音楽作りに比べると力みが見られます。第3楽章スケルツォもですが全体的に金管の鳴らし方が強め。第1主題は実に雄大で、一方で第2主題は憂いています。クラリネットに誘われて暗闇から光が見えてくると第3主題が現れ、音だけなのに写実的。奇をてらわない演奏で、田園風景を通る列車が同じ速度で走っているようです。
それなのに、第2楽章は物議を醸すでしょう。私も「これが定盤なの?」と戸惑ったものでした。テンポが速いのです。このアダージョ楽章は Sehr langsam (非常にゆっくりと)という指示があり、実際にハイティンクの旧録音、コンセルトヘボウ管 (1971年)では18分38秒でした。ピチカートもゆったりと刻んでいました。それがこのウィーンフィル盤 (1988年)では16分44秒になっています。さらにハイティンクはこの曲を何度も録音していますが、バイエルン放送交響楽団 (2010年)とは16分10秒、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (2011年)とは16分34秒とさらに速くなっています。
楽譜に忠実なのがハイティンクの特徴なのですが、この「非常にゆっくりと」を快速で飛ばすのはどのような理由があるのでしょうか。こちらの記事で紹介したショルティ&シカゴ響のブル5 (1980年)では、第1、3、4楽章はハイティンク&VPOより速いのですが第2楽章だけは21分32秒と、かなりゆっくりにしていました。ハイティンクと5分ほど違います。
私は第2楽章はゆっくりとしたほうが好みなのですが、するとこの楽章がピークになってしまい、第3楽章、4楽章が印象に残りづらくなります。ハイティンクはそうした楽章のアンバランスを是正したように思えます。
後の再録音での自然体とは違って、ブルックナーの対位法の大曲を筋肉質に描いたこのアルバム。「定盤」ではなくなってしまいましたが、ハイティンクのブルックナーを語る上では大事な録音。他にもウィーンフィルとのブルックナーは第4番「ロマンティック」、第3番(1988年)、第8番 (1995年)を紹介していますのでそちらもお読みください。
オススメ度
指揮:ベルナルト・ハイティンク
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1988年3月, 5月, ウィーン楽友協会・大ホール
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試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
特に無し。







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