このアルバムの3つのポイント

シューベルト ピアノ・ソナタ第19番、20番 クリスチャン・ツィメルマン(2016年)
シューベルト ピアノ・ソナタ第19番、20番 クリスチャン・ツィメルマン(2016年)
  • ツィメルマン25年ぶりのピアノ・ソロ録音は日本ツアー中に柏崎で
  • 研ぎ澄まされたシューベルトの2つのソナタ
  • 日本とオランダで音楽賞を受賞

現代を代表するピアニストの一人、クリスチャン・ツィメルマン(クリスティアンとかツィマーマンと呼ばれることも多いです)。コロナ禍前は、日本にも毎年のように来日して、研ぎ澄まされた演奏を聴かせてくれましたが、レコーディングには慎重なピアニストとして知られています。あと、リサイタル後のアンコールも無いですね。少なくとも私が聴きに行った3回はアンコール無しでした。

私が思うツィメルマンは、アドリブ型ではなく、用意周到型。プログラムの曲目をじっくり時間を掛けて弾き込んできて披露しているので、アンコールでアドリブや即興で何か弾くというのは考えられないのかもしれません。アンコールをノリノリで弾くエフゲニー・キーシンなどのピアニストとは違うポリシーを持っているように思えます。

ツィメルマンのリサイタルに行ったとき、いくら拍手してもカーテンコールには何回か戻ってくれるのですが、絶対アンコールは弾いてくれません。そして主催者側が会場の照明を明るくして、「お開き」の雰囲気を出してきます。

ツィマーマンはレコーディングに関してかなり慎重で、新しいアルバムが出ること自体が珍しいのですが、それだけ用意周到に温めてあるからこそ、リリースされるアルバムは各国の音楽賞を受賞することが多いです。

ピアノ・ソロのアルバムについては1991年に録音したドビュッシーの前奏曲集が最後でした。それ以来25年ぶりの録音が今回紹介するシューベルトのピアノ・ソナタ第19番(D959)と第20番(D960)の2曲のアルバムです。

ツィメルマンのシューベルトと言えば、1990年に録音された即興曲(FC2ブログ)も見事でした。研ぎ澄まされた集中力で移ろうようなシューベルトの脆さと旋律の美しさを引き出していました。

ツィメルマンはシューベルトのピアノ・ソナタ第19番と20番を2015年11月から2016年1月での来日リサイタルでも演奏したようです。そしてその演奏ツアーの後に、新潟県柏崎市の文化会館アルフォーレでこの2曲を録音しました。

ツィメルマンがなぜ柏崎で録音を?と疑問に思いましたが、その理由はアルバムのブックレットに記載されたインタビューでツィメルマン自身が答えていました。柏崎市が好きで、アルフォーレが2007年の中越沖地震で破壊されてまた再建されたホールであること、そして設計者が偉大な音響設計者の豊田 泰久氏の弟子が設計したことが理由だそうです。

豊田 泰久氏の名声は完璧な演奏空間を求めるツィメルマンらによって広められ、世界中のホールを任されるようになったという経緯もあります。

さてこのシューベルトの後期ソナタのアルバムですが、ツィメルマンらしい高い集中力と、一音一音まで考え抜かれた打鍵、弱音から強音までのダイナミックなレンジの響きが見事です。また、ツィメルマンの息遣いも聞こえます。

第20番は打鍵の強弱のコントロールが実によく考えられています。リスナーによっては息が詰まるという感想もあり、私も容赦ない厳しい演奏にシューベルトにはもっとゆとりが欲しいという気持ちもあります。第2楽章のアンダンテでも癒やされることはなく、ずっと緊張感が漂っています。第3楽章のスケルツォや第4楽章も完璧なテクニックで確かにうまいのですが、聞き手にも高い集中力を要求される演奏です。

第21番はおぼろげながらも前へ進み、時には激しい感情がほとばしっています。捉えがたいシューベルトの内面がよく表れている。弱音のコントロールが絶妙です。テクニックも完璧で、旋律も美しいのですが、ベートーヴェンではなくシューベルトなので、もう少し気持ちにゆとりが欲しい気がします。あまりにストイックで厳しい表情なのです。

作品を深く理解し、音響などの技術的な追求もおこなう、孤高なピアニストのクリスチャン・ツィメルマン。彼だからこそたどり着いたストイックで厳しい究極のシューベルトのように思えます。

オススメ度

評価 :4/5。

ピアノ:クリスチャン・ツィメルマン
録音:2016年1月, 柏崎市文化会館アルフォーレ

iTunesで試聴可能。

日本の2017年度レコード・アカデミー賞「器楽曲」部門を受賞。2018年のオランダ・エジソン賞の「ソリスト・器楽曲」部門を受賞。

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