このアルバムの3つのポイント
- ジュリーニ晩年のフォーレのレクイエム
- 崇高で心に響くカンタービレ
- キャスリーン・バトルとアンドレアス・シュミットの歌声
ヨーロッパでのジュリーニ晩年の活躍
イタリア出身の名指揮者カルロ・マリア・ジュリーニ(1914年-2005年)。壮年期はシカゴ交響楽団の首席客演指揮者(1969〜72年)、ウィーン交響楽団の首席指揮者(1973〜76年)、ロサンゼルス・フィルハーモニックの音楽監督(1978〜84年)などを歴任しましたが、配偶者の病気にためにロスフィルのポストを辞任し、晩年はヨーロッパでフリーの客演指揮者として活動しました。
ドイツのベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、バイエルン放送交響楽団、オーストリアのウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、オランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、イギリスのフィルハーモニア管弦楽団、イタリアのミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団など、ヨーロッパの名門オーケストラに客演し、レコーディングも多くおこなっています。
晩年のジュリーニの録音は、ブルックナーの後期交響曲で1984年5月にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とブルックナーの交響曲第8番ノーヴァク版を録音し、1988年6月に第9番も録音してどちらも音楽賞を獲得していますし、1987年3月にピアニスト、ヴラディーミル・ホロヴィッツとの協演でモーツァルトのピアノ協奏曲を録音しこちらもアメリカのグラミー賞を受賞しています。
フォーレのレクイエム
年の瀬も近づいてきて、何だか心を浄化したい気分になってきますね。そんなときにピッタリなのが、フランスの作曲家ガブリエル・フォーレ(1845年-1924年)のレクイエムOp.48。
今回紹介するのは、ジュリーニがフィルハーモニア管を指揮して1986年5月に録音したもので、歌手はソプラノのキャスリーン・バトル、バリトンのアンドレアス・シュミット、そしてコーラスはフィルハーモニア合唱団が務めました。
晩年のジュリーニの演奏は、ゆったりとしたテンポでカンタービレ(歌うように)を意識して旋律を引き出し、そして崇高で慈愛に満ちているのが特徴ですが、このフォーレのレクイエムもその特徴が出ています。
第1曲の「入祭唱(イントロイトゥス)とキリエ」では、ニ短調のユニゾンによる低音から始まり、荘厳さを引き出しています。変ロ長調に転じるとオーケストラと合唱が柔らかく慈愛に満ちた温もりある響き。決して遅すぎず、たっぷりとしたテンポでゆったりと流れていきます。
第3曲「聖なるかな(サンクトゥス)」は弦とハープがヴェールのような優しい響きを生み出し、合唱が透き通るような儚い美しい歌声で魅せます。
第4曲「ああ、イエズスよ(ピエ・イェズ)」はソプラノ独唱。キャスリーン・バトルの温かみと透明感がある歌声に酔いしれます。
第6曲「われを許し給え(リベラ・メ)」はバリトン独唱から始まり、当時まだ25歳だった若きアンドレアス・シュミットの歌声が見事です。フォーレのレクイエムにはモーツァルトやヴェルディなどのレクイエムと違って「怒りの日(ディエス・イレ、Dies irae)」の単独の曲が無いのですが、このリベラ・メの中間部に怒りの日が書かれ、作品の中で最も劇的な曲想になります。ただ怒りの日はすぐに終わり、冒頭の楽句が繰り返され、静かに終わっていきます。
第7曲の「楽園にて (In Paradisum)」はオルガンの優しくて素朴な旋律の上に、ソプラノの澄み切った歌声が重なります。Wikipediaに「本来の死者ミサの一部ではなく、棺を埋葬する時に用いられる赦祷文に作曲したもの」との説明がありますが、フォーレのレクイエムがユニークなのはこの「楽園にて」が使われているところで、これが最後に来ることで聴く者の心を浄化してくれます。ジュリーニとフィルハーモニア管、そして合唱は慈愛に満ちたフォーレの旋律を紡ぎ出しています。
まとめ
晩年のジュリーニがフィルハーモニア管とレコーディングしたフォーレのレクイエム。崇高で美しくて、聴く者の心が浄化されます。
オススメ度
ソプラノ:キャスリーン・バトル
バリトン:アンドレアス・シュミット
フィルハーモニア合唱団
オルガン:ティモシー・ファレル
指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ
フィルハーモニア管弦楽団
録音:1986年5月12-16日, ワトフォード・タウン・ホール
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
コメント数:1
年末、怒涛のレクイエムシリーズですね。静かな祈りのひとときでした。キャスリーン・バトルは34年前に、テレビCMにオンブラマイフで登場した時に衝撃を受けて、すぐにCDを買った思い出があります。4曲目のソロでは、子守歌に泣き止む赤ん坊のように心が穏やかになって、なのになぜかジワっと来ました。