このアルバムの3つのポイント
- エフゲニー・キーシンのドイツ・グラモフォン移籍デビュー盤
- ライヴでのベートーヴェンのピアノ・ソナタ
- ノイズが…
ドイツ・グラモフォンに移籍したエフゲニー・キーシン
現代最高のピアニストの一人、エフゲニー・キーシン。往年のヴラディーミル・ホロヴィッツを彷彿とさせるようなコンサート・ピアニストと言うべき存在で、レコーディングで聴くよりもライヴで聴いたほうが良い、そんなピアニストです。
キーシン自身も自伝で録音について次のように述べています。
ある作品がコンサートではうまくいっても、スタジオ録音ではそうはいかないことがときどきある。だいたいにして、私の場合はコンサートでの演奏を録音したほうが、スタジオ録音を上回る仕上がりになる。
エフゲニー・キーシン自伝 第3章「想いはめぐり」の「謙虚にならざるを得ない」節より
なのでキーシンを録音で聴くとしたらライヴ録音が断然良いです。こちらの記事で紹介したNHK音楽祭2011でのヴラディーミル・アシュケナージ指揮シドニー交響楽団とのショパンのピアノ協奏曲第1番の演奏は本当に素晴らしくてレコーディングがリリースされないのが実に残念です。
さて、キーシンはレコーディング契約をBMG(現ソニー・クラシカル)としてから、EMI(現ワーナー)に移りましたが、2017年にリリースしたアルバムからドイツ・グラモフォン(DG)に移籍しました。
まだ「神童」と呼ばれていた10代後半のときにヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番や20代前半にクラウディオ・アバド指揮ベルリンフィルとプロコフィエフのピアノ協奏曲などの録音をおこなっていましたが、約25年ぶりにDGに戻ってきました。
その移籍第1弾がベートーヴェンのピアノ・ソナタと変奏曲の2枚組のアルバム。2006年から16年の世界各地でのリサイタルでの録音をキーシン自ら選んだものです。ただ、DGが新アルバムのためにちゃんとレコーディングしたわけではなく、寄せ集めという見方もできます。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタを中心とするアルバム
収録曲は以下のとおりです。輸入盤と国内盤で順序が変わっていますので、CD1と2に分けずに書いています。
ピアノ・ソナタ 第3番 ハ長調 Op.2-3 (ソウル・芸術の殿堂, 2006年)
創作主題による32の変奏曲 ハ短調 WoO.80 (モンペリエ・ル・コーラム, 2007年)
ピアノ・ソナタ 第26番 変ホ長調 Op.81a《告別》(ウィーン・ムジークフェラインザール, 2006年)
ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 Op.27-2《月光》(ニューヨーク・カーネギー・ホール, 2012年)
ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 Op.57《熱情》(アムステルダム・コンセルトヘボウ, 2016年)
ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 Op.111(ヴェルビエ・サル・デ・コンビンス, 2013年)
全てライヴ録音です。
キーシンのベートーヴェンと言えば、ジェームズ・レヴァイン指揮フィルハーモニア管弦楽団とのピアノ協奏曲第5番「皇帝」(1997年1月)で結構大胆にロマンティックに演奏していたものですが、25歳だったそのときに比べて、このアルバムでは34歳から45歳。キーシン自身の深みが増して、演奏もどっしりとしたものになっています。
解釈もオーソドックスになり、ベートーヴェンらしい王道を進んでいると感じました。
ノイズがひどすぎる
このアルバムは演奏自体は素晴らしいのですが、ライヴ録音の悪いところが全て出てしまっています。アナログ時代の海賊版(正規版じゃないライヴ録音)ならしょうがないと思いますが、正直、ドイツ・グラモフォンという超一流レーベルで、デジタル録音なのにここまで音が悪いのはひどいです。
今どきのレコーディングは、こちらの記事で紹介したルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェンのピアノ協奏曲全集やこちらのアンドリス・ネルソンスのウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とのベートーヴェンの交響曲全集など、ライヴ録音も音質がめちゃくちゃ良いのですが、客席からのノイズがかなり載ってしまっていますし、ノイズ除去もされていないので、聴いていると結構ストレスです。スピーカーで聴くとそこまで気にならないのですが、イヤホンやヘッドホンで聴くと特にひどいです。
Op.2-3やWoO.80はまだマシですが、月光Op.27-2の第1楽章は音質が悪い上に弱音のピアノよりも客席のカサカサという物音や咳などのノイズのほうが目立ってしまっています。また、「熱情」Op.57の第1楽章。ピアニッシモ(pp)で静かに主題が演奏されますが、ここでは見事に聴衆のカサカサとか咳で邪魔されます。第32番の第2楽章もしんみりと聴きたいところで聴衆の話し声のようなものが聴こえたり、16分を経過した以降は聴衆の集中力が切れてきたのか、咳が目立ちます。鼻をすするような音はおそらくキーシン本人の息を吸う音だと思われますが。
まとめ
キーシンのドイツ・グラモフォン移籍盤のベートーヴェン・リサイタル。ノイズがひどすぎて正直聴くのがしんどいですが、キーシンの深化を感じる貴重なアルバム。
オススメ度
ピアノ:エフゲニー・キーシン
録音:2006年2月11日, ウィーン楽友協会・大ホール(Op.81a),
2006年4月8日, ソウル・芸術の殿堂(Op.2-3),
2007年7月17日, モンペリエ・ル・コーラム(WoO.80),
2012年5月3日, カーネギー・ホール(Op.27-2),
2013年7月26日, ヴェルビエ・サル・デ・コンビンス(Op.111)
2016年12月18日, コンセルトヘボウ(Op.57)
スポンサーリンク
試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
コメントはまだありません。この記事の最初のコメントを付けてみませんか?