歴史を変えた世界最高峰のピアニスト、マウリツィオ・ポリーニが82歳で逝去
突然の話でショックを隠しきれません。
現代を代表する世界最高峰のピアニスト、マウリツィオ・ポリーニが3月23日に亡くなられたとのこと。82歳でした。
【ドイツ・グラモフォン】Maurizio Pollini Passes Away at 82 (2024/03/23)
1974年の初来日から2018年まで20回の来日公演をおこなっているポリーニ。コロナ明けでそろそろ来日するのかなと期待してチケットぴあやカジモトのサイトを見ても次の来日情報は載っておらず、残念に思っていたところにドイツ・グラモフォンのX の投稿でポリーニの訃報を知りました。
私はピアノを弾くのでクラシック音楽を聴くようになったのもピアノ曲から。ヴラディーミル・アシュケナージとマウリツィオ・ポリーニを聴いて育ちました。アシュケナージが2020年に公での演奏活動から引退し、さらにポリーニが逝去となり、私の中の二大柱が崩れたような悲しみがあります。
ポリーニは録音で聴くことが多かったですが、生でも聴きに行ったのが2016年4月のサントリーホール。ポリーニが何度も共演した指揮者ピエール・ブーレーズが1月に亡くなったことを受け、当初のプログラムの冒頭にシェーンベルクの6つの小品 Op.19を追加して演奏しました。晩年になるとテンポをゆっくりにするピアニストも多いですが、この時のポリーニは74歳という年を感じさせない相変わらずの速めのテンポと強靭さがあり、それに加わって人生の深さから来る詩情に驚かされたものでした。アンコール後にはホール全体がスタンディングオベーションしたのを今でも覚えています。18歳でショパン国際コンクールに優勝してから、70代になっても第一線に立ち続けるポリーニの存在感に感激したものでした。
【FC2ブログ】ホール全体がスタンディングオベーション! ポリーニのリサイタル2016年4月16日
2021年10月にNHKで放送された「ショパンコンクールのレジェンドたち」では、ポリーニが優勝した第6回ショパン国際コンクール (1960年)の映像もあり、優勝したポリーニが審査員長のアルトゥール・ルービンシュタインと握手をしています。ルービンシュタインは「既に(技術的には)われわれ審査員の誰よりもうまい」とポリーニを絶賛したのでした。
聴いておきたいアルバム
ポリーニは主にドイツ・グラモフォン・レーベルに多数の録音をおこなってきました。
私もポリーニの録音はかなり聴いてきました。2016年10月にドイツ・グラモフォンからリリースされた生誕75周年記念の「Maurizio Pollini Complete Recordings on Deutsche Grammophon」はそれまでのポリーニのDGでの録音全ても含めてCDが55枚、DVDが3枚という超大作で、これを買ったために今まで個別に持っていたアルバムがダブってしまったのはクラシック音楽あるあるでした。
ここではその中でもこの機会にぜひ聴いていただきたいアルバム5つを紹介します。
ベートーヴェンの後期ピアノソナタ集 (1975-77年)
ポリーニはベートーヴェンのピアノ・ソナタを39年間掛けて全集録音を完成させました。後期の第28番〜32番から開始し、初期のソナタを後のほうで録音するというスタイルで、その間のポリーニのピアノ演奏の違いも感じます。特に後期ソナタのアルバムは素晴らしく、ポリーニらしい速さと強靭さ、そして完璧なテクニックが見事。英国グラモフォン賞をはじめ、ドイツとフランスでも受賞。第29番「ハンマークラヴィーア」はこの名曲の歴史を変えたとも言える金字塔的な演奏です。紹介記事はこちら。
アバド&シカゴ響とのバルトークのピアノ協奏曲第1番・第2番 (1977年)
同じミラノ出身でポリーニが子どものときから交流のあった指揮者クラウディオ・アバドは盟友と言える存在。ベートーヴェン、ブラームス、シェーンベルク、ノーノなど数多くの協奏曲で共演をおこなっています。中でもアバドがシカゴ交響楽団を指揮してポリーニと共演したバルトークのピアノ協奏曲第1番と第2番のアルバムは屈指の出来。ピアノを打楽器のように扱うポリーニの名演と、バルトークの原始的な魅力を黄金期のシカゴ響が引き出しています。米国グラミー賞、英国グラモフォン賞をダブル受賞した名盤です。
ボリュームが多くなってきたので、これ以上は記事のリンクを記載するに留めます。
もちろんドイツ・グラモフォンのデビュー盤であるストラヴィンスキーのペトルーシュカからの3楽章、続くショパンのエチュード全曲のアルバムも素晴らしいですし、晩年のショパンの後期作品集の再録音やベートーヴェンの第30番〜32番の再録音も深みを増したポリーニのピアニズムを味わえます。
さらにポリーニを知るには
ポリーニをさらに知るには、ONTOMO MOOK の『マウリツィオ・ポリーニ ― 「知・情・意」を備えた現代最高峰ピアニストのすべて』がオススメ。
2020年12月発行で新しいですし、これまでの『音楽の友』でのポリーニのインタビュー記事がベースになっているので、ポリーニ本人がその時々でどのような考えをしていたのかが伺える良書です。
こちらの記事でも紹介しています。
まとめ
唯一無二で現代最高のピアニストの一人、マウリツィオ・ポリーニ。その訃報を受けて深い悲しみに陥っているのですが、演奏会で受けたポリーニの揺るぎない第一線の覚悟を思い出しては前を向こうという気持ちになっています。
御冥福をお祈りします。
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