このアルバムの3つのポイント
- ベートーヴェンの演奏史に残るポリーニの金字塔
- 圧倒的なテンポとピアニズム
- 英国グラモフォン賞、ドイツ・エコー賞、フランス・ディスク賞を受賞!
ポリーニのベートーヴェン・ピアノソナタ全集の口火
今日は私がお気に入りのピアノソナタのアルバムを紹介します。
現代最高のピアニストの一人、マウリツィオ・ポリーニ。バロックから現代曲まで幅広いレパートリーに取り組んできたポリーニが、ピアニストのキャリアの中で長く弾いてきたのがショパンとベートーヴェン。特にベートーヴェンは「新約聖書」とも言われるピアノ・ソナタ全集を完成させていますし、ピアノ協奏曲全集も2回録音しています。
ポリーニのベートーヴェンのピアノソナタは長い長いプロジェクトとなり、1975年6月に第30番、第31番の後期ソナタから始め、2013年6月と2014年6月に収録された第16番から20番の中期のソナタのアルバムで完成。39年の年月を掛けて、32曲のピアノソナタを完成させたわけです。キャリア初期の硬いタッチによる演奏と、綻びが出つつも熟成された音楽が特徴となってきた今のポリーニでは演奏スタイルに変化が見られます。
また、CD10枚組が多いベートーヴェン・ピアノソナタ全集ですが、ポリーニ盤だと8枚組。デビュー当初から現在に至るまで基本テンポが速いため、ベートーヴェンでも異色の演奏とも言えるでしょう。
その中でも後期ピアノソナタと言われる第28番から32番のアルバムは、1975年から77年の同時期に録音され、ポリーニの演奏スタイルが一貫しています。
この時期は1977年2月のバルトークのピアノ協奏曲第1番、第2番を同じイタリア出身の盟友クラウディオ・アバド指揮シカゴ交響楽団と録音していて、こちらの記事で紹介しましたが、ポリーニとアバドの最高演奏の一つと言える出来栄えです。
英国グラモフォン受賞の名盤
この後期ソナタのアルバムは特に素晴らしく、評論家の間でも英国のグラモフォン賞を受賞した他、ドイツとフランスでも受賞した名盤。
音が硬すぎて強靭すぎるという意見もあり、私も今まではそこまで馴染めなかったのですが、聴けば聴くほどその完成度の高さに驚かされます。これほどまでの完璧なテクニックはすごいです。特に第29番「ハンマークラヴィーア」は孤高とも言える寄り付けない演奏ですが、プロでもミスタッチすることが多い第1楽章をこのテンポで、この正確さで、この力強さで演奏できるのは当時のポリーニならでは。また第3楽章のアダージョ・ソステヌートで魅せる美しさもポリーニらしいです。ベートーヴェンの演奏史を変えた金字塔と言えるでしょう。
第28番や30番、31番はもう少し柔らかさも欲しいところですが、硬いタッチ、濁りのないクリスタルのような透明感、そして強靭さは当時のポリーニの演奏スタイルで一つの頂点を作ったと言えると思います。
2019年に再録音した第30番から32番もFC2ブログで紹介しましたが、長年探求し続けたベートーヴェンの理想に近付き、77歳を迎えたポリーニの人間味も感じられる演奏で、これまた素晴らしいです。
ウィーンのムジークフェラインザールで録音された第32番は音質の違いにも注目です。他がポリーニお気に入りのミュンヘンのヘラクレス・ザールでの録音で、中規模のホールながら良好な音質。音が良い意味でこもって聴こえます。ムジークフェラインザールも音質が素晴らしいホールですが、同じ条件で聴き続けてみるとやや音が発散している気もします。オーケストラの演奏だったらムジークフェラインザールも良いですが、ピアノ独奏だとヘラクレス・ザールのほうが私は好みです。もちろん第32番も演奏は圧巻とも言える第1楽章、慈愛が込められた第2楽章とも素晴らしいですが。
まとめ
ポリーニによるベートーヴェンの演奏史を変えたとも言える金字塔。これは今後もずっと聴き続けるアルバムです。
オススメ度
ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ
録音:1975年6月(第30番、第31番), 1976年9月&1977年6月(第29番), 1977年6月(第28番), ヘラクレス・ザール, 1977年1月(第32番), ウィーン楽友協会・大ホール
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
1977年英国グラモフォン賞の器楽部門を受賞。また1978年のドイツ「Deutscher Schallplattenpreis」(現エコー賞)、フランス・モントルーのディスク賞(Grand Prix du Disque)を受賞。
1979年の米国グラミー賞「最優秀器楽パフォーマンス(オーケストラ無し)」にノミネートするも受賞ならず。
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